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第4話
しおりを挟むそれは、東の語りの中に、安部が存在していなかったことだ。察するに、東は安部の思想に、それほど傾倒していないのではないだろうか。むしろ、逆に、安部が東の思想に傾いている。
東と安部という二枚岩ではなく、一枚岩、そうなると、東を崩せば牙城は崩壊していくのではないか。
そこで、思考にノイズが走った。銃底で達也の後頭部を叩きつけた東が不敵な口調で言う。
「自衛官よお......俺のことをチビって言ったか?あまり舐めた口を叩くなよ?俺の事を馬鹿にして良いのは、安部さんだけだ」
鈍痛が残る箇所から、細く生温いものが垂れているようだ。しかし、片膝すら着かずに、達也は首だけで振り返った。
「お前にとっての安部は、なんなんだよ......どうしてそこまで奴に傾倒する?」
東は、さも当然だとばかりに鼻を鳴らす。
「さっきの言葉を忘れたか?安部さんは俺の理解者だよ。あいつだけが、俺の存在を肯定してくれるし、俺は安部さんを理解してやれる」
「それは、思想家と革命家としての関係って意味か?」
「安部さんは俺の友人だよ。俺には、心にいる友人ってのがいなかったからなぁ......何かをしたいと言う友の願い叶えるのが友達関係ってやつだろ?そして、俺にはその力もある」
実に揚々と東は口にし、達也は心中で、なるほど、と呟いた。
要するに、生まれたばかりの雛鳥(そんなに可愛いものではないが)なのだろう。初めて自分を救ってくれた相手、対等に見てくれた相手を、どうして嫌いになれるだろうか。これで、確信がついた。間違えるところだった。
やはり、東ではなく安部を先に押さえることが出来れば、これから先が幾分、楽になるだろう。親鳥を捕らえられた雛鳥は、ただ餓死するしかない。問題は、安部がどこにいるのか、この状態をどうするかだ。
悔しいが、さすがに、そう隙を見せない東を相手に近接に持ち込んでも対応されてしまう。いっそのこと、銃を奪えたら良いが、それも過去の経験値を考慮すれば悪手だ。場慣れはしていようとも、東の強さはそういった次元の範囲外にあると知っている。達也は、歯噛みし、改めて仲間の必要性を強く理解した。
「話は終わりだ。おら、立てよ自衛官」
ここは、耐えるしかない。情けなさに震える右手を固く握る。
大丈夫だ、残っている。俺が知る中で、もっとも勇敢な男がくれた熱は、まだ、この右手にある。達也は、しっかりと掌の熱を閉じ込めると、淀みなく立ち上がった。
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