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第6話
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ハッチの裏から覗き込む男は、癪に触るニヤついた笑みを浮かべている。二人の激情を煽る明かな挑発行為だ。それにいち早く反応したのは、岩神だった。
「この!クソ野郎がぁぁ!」
「待て!岩神!」
新崎の制止も耳には入っていない。
岩神はハッチへ向けて拳を突きだすも、男は、ひょい、と顔を引っ込めた。姿は見えないが厭わしい笑い声が聞こえる。
「ひゃーーははは!当たってやる訳ねぇだろうが馬鹿が!」
神経を逆撫でする不愉快な存在に、岩神の堪忍袋は限界を迎えた。
新崎を振り払い、車外に出ると、白一色の服を纏った小柄な男が一人いる。
ポケットに両手を入れているにも関わらず、揺れる足場をものともせず、戦車を追いかける多数の死人にすら臆している様子はなく、余裕のある態度を崩さずに、男は岩神を舐めるように眺めている。
気に入らなかった。
潰された右目、抉られた小指、ハッチから出た瞬間に自分を撃たなかったこと、悪びれずもせず、表情一つ変えない男の全てが気に入らなかった。
岩神は、顎をしゃくって男のベルトに挟まれた拳銃を一瞥する。
「チビよお......お前、舐めてんのか?」
男は眉を寄せると、短く悩んだような仕草をしてから言った。
「ああ、悪ぃな。出てきた奴が想像以上に男前な顔だったからよぉ……撃つことすら忘れてたわ」
男が言い終わる寸前、岩神が一歩踏み出し、一気に男との距離を潰した。
怒り任せの無鉄砲にとらえられるかもしれないが、そうではない。岩神は経験から、男の足元ばかりを注視していた。
喧嘩や殴り合いの場面では、つい相手の顔や表情に気を取られてしまうが、それが成り立つのは正式な格闘技の試合だけだろう。純粋な喧嘩では、敵の爪先を見るべきだ。
爪先が内側へ向いていれば、岩神は攻めあぐねたことだろう。しかし、男の左の爪先は外側に向いており、つまり、岩神の初撃をかわすことに意識を集中させているという意味だ。
岩神の初手は決まっていた。左に避けるのであれば、右のフックを脇腹に突き刺し、踞った所へ顔面への膝蹴り、その後に馬乗りになる。それから先は、のちのち考えれば良い。
そこまで組み立て、自身が受けた苦痛と恐怖を倍にして返してやる、と岩神は、ほくそ笑んだ。
脳裏に浮かべたビジョンの通りだったが、放った右拳が相手の脇腹に触れる寸前、爪先が更に外側へと捻られる。
避けるだけならば、軸となる左足をステップを踏むようにシフト移動させるはずだ。だが、変化があったのは足首のみ、加えられた動きは、利き脚に勢いを生み出す。
タイミングはこれ以上にないほど完璧だった。呼吸、拳の握り、それら全てが身体と連動していた。
だからこそ、岩神は自分の脇腹に残った重くのしかかるような、不可解な鈍痛に対して反応が遅れてしまう。
「この!クソ野郎がぁぁ!」
「待て!岩神!」
新崎の制止も耳には入っていない。
岩神はハッチへ向けて拳を突きだすも、男は、ひょい、と顔を引っ込めた。姿は見えないが厭わしい笑い声が聞こえる。
「ひゃーーははは!当たってやる訳ねぇだろうが馬鹿が!」
神経を逆撫でする不愉快な存在に、岩神の堪忍袋は限界を迎えた。
新崎を振り払い、車外に出ると、白一色の服を纏った小柄な男が一人いる。
ポケットに両手を入れているにも関わらず、揺れる足場をものともせず、戦車を追いかける多数の死人にすら臆している様子はなく、余裕のある態度を崩さずに、男は岩神を舐めるように眺めている。
気に入らなかった。
潰された右目、抉られた小指、ハッチから出た瞬間に自分を撃たなかったこと、悪びれずもせず、表情一つ変えない男の全てが気に入らなかった。
岩神は、顎をしゃくって男のベルトに挟まれた拳銃を一瞥する。
「チビよお......お前、舐めてんのか?」
男は眉を寄せると、短く悩んだような仕草をしてから言った。
「ああ、悪ぃな。出てきた奴が想像以上に男前な顔だったからよぉ……撃つことすら忘れてたわ」
男が言い終わる寸前、岩神が一歩踏み出し、一気に男との距離を潰した。
怒り任せの無鉄砲にとらえられるかもしれないが、そうではない。岩神は経験から、男の足元ばかりを注視していた。
喧嘩や殴り合いの場面では、つい相手の顔や表情に気を取られてしまうが、それが成り立つのは正式な格闘技の試合だけだろう。純粋な喧嘩では、敵の爪先を見るべきだ。
爪先が内側へ向いていれば、岩神は攻めあぐねたことだろう。しかし、男の左の爪先は外側に向いており、つまり、岩神の初撃をかわすことに意識を集中させているという意味だ。
岩神の初手は決まっていた。左に避けるのであれば、右のフックを脇腹に突き刺し、踞った所へ顔面への膝蹴り、その後に馬乗りになる。それから先は、のちのち考えれば良い。
そこまで組み立て、自身が受けた苦痛と恐怖を倍にして返してやる、と岩神は、ほくそ笑んだ。
脳裏に浮かべたビジョンの通りだったが、放った右拳が相手の脇腹に触れる寸前、爪先が更に外側へと捻られる。
避けるだけならば、軸となる左足をステップを踏むようにシフト移動させるはずだ。だが、変化があったのは足首のみ、加えられた動きは、利き脚に勢いを生み出す。
タイミングはこれ以上にないほど完璧だった。呼吸、拳の握り、それら全てが身体と連動していた。
だからこそ、岩神は自分の脇腹に残った重くのしかかるような、不可解な鈍痛に対して反応が遅れてしまう。
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