感染

saijya

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第5話

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    戦車がけたたましい音をたてながらキャタピラを回す。派手に鮮血が散り、四散する死人達を巻き込みつつ、戦車は粗放な方法でショッパーズモール内へと、車体を突き入れた。砲撃で破られた硝子は、鋭利な刃物へ姿を変えている。外にいる男にとって、ギロチンのようなものだ。これほど危険はないだろう。
 隙を見て、新崎は唸り声をあげ続ける岩神へ視線を落とす。
 両手で抑えた右目からは、おびただしい量の血が指の間から漏れており、新崎が傷を確認するために手を離せと声を掛けるが、攻め立てるような重苦から頑なに右目を晒そうとしない。外気に当てるだけでも激しい痛みを覚えるのだろう。    
    新崎は、強引に岩神の両手を掴んで、力任せに引き離し口を詰むんだ。岩神の眼球は、瞼を閉じられないほどに露出しており、縦に深い傷口が残され、黒目は潰れ白濁としていた。
 岩神が震える声で呻く。

「隊長......俺の......俺の目は......?」

 右目は機能を失っていることに気付いているのか、岩神は左目を僅かに開いて新崎にそう問いかけた。
    新崎は、素人が見ても一目瞭然な状態に首を横に振る。

「駄目だ」

 たった三文字を口にした。告げられた現実は岩神の内部に強烈な炎を灯す。

「あの野郎......殺して......やる......絶対に殺してやる!」

 瞋恚に燃える岩神は、新崎を押し退けて立ち上がった。アドレナリンの過剰分泌は、焼け火箸を当てられたような痛みを分散させた。
    新崎が言う。

「奴は車上にいる。今、坂下が振り落とそうと躍起なっているが、まだ落ちてはいないだろうな」

「俺が直接......やってやる!あんなサイコパス野郎は......殺されて当然だ!」

 岩神がガタガタと揺れる戦車を止めるよう指示を出すが、新崎が割って入る。

「待て!奴は拳銃を奪っている。ハッチから出た所を狙われて終わりだ」

 苛立たし気に岩神が反駁する。

「なら......どうしろってんだ!眼球と指を......抉られた落とし前はどうつける......!」

 見開かれたような右目を一瞥し、新崎が返す。

「お前は貴重な戦力だ。失う訳にはいかない」

「冗談じゃねぇぞ......!泣き寝入りしろってのか!」

「感情的になるな。とにかく今は......」

「うるせえ!こっちは、腸が煮え繰り返ってんだ......!このまま終わらせるかよ!」

 口を開けたハッチへ腕を伸ばす。血走った左目は右目の影響だけではないだろう。
 新崎は、手にした拳銃を掲げるように持ち上げると、銃口を岩神の背中に押し当て低く言った。

「岩神、お前の怒りはもっともだ。だがな、失念してやいないか?俺達はなんとしても生き残らなきゃならないんだよ。お前は金、俺は俺の目的の為にだ。これ以上、お前が単独行動を望むのなら、俺は強引にでも止めるぞ」

 僅かな沈黙が降り、空気が揺れた。
    互いに互いを睨み合うこと数秒、空間を裂くような短い破裂音が響く。即座に二人は身を屈めた。

「なーーにを、コソコソやってんだぁ?」
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