感染

saijya

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第11話

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「小金井!」

「動くな自衛官!」

 東は、間髪入れずに右手を引き抜き、腰に差していた拳銃を小金井の口へ突き入れる。それを見た達也は、中腰の態勢で一度止まり、それから、ゆっくりと両手を挙げた。
    意識の混濁から、小金井にリアクションは無く、ブラン、と下がった左手からナイフが滑り落ちる。

「そうだ、それで良い......しかし、こいつも大それたこと考えてたよなぁ......そうは思わないか?」

 小金井の呻きが聞こえ、達也は一先ずは胸を撫で下ろした。どうやら、気を飛ばされていたのは、数秒だけだったようだ。
 達也は、深く呼吸をして吐き出す。これは、小金井が身を張って作ったチャンスだ。一階にいる安部、二階にいる東、重要な要素が揃っている現状は、達也がどう動くかにかかっている。隙を作れば、それでお仕舞いだ。もう一度、鼻から息を吸った。

「そうか?俺は、そいつ以上に勇敢な男を知らねえな」

 東は小金井の襟を掴んで持ち上げると手放した。自動扉に沿うように崩れ落ちる。
    きりっ、と拳を固くした達也を短く嘲笑うと、横たわる小金井のこめかみへ銃口を向けた。

「勇敢ねえ......その結果がこれかよ。まるで芋虫じゃねえか!大方、ヒーローよろしく、偽善ぶって蠢いてただけだろうが!僕ちゃんがみんなを助けますってか!」

 卑陋な声が響く中、それに混ざり低い笑い声がした。それは次第に大きくなっていく。誰のものなのか、すぐに分からなかった東が、辺りを目だけで見回し、辿り着いたのは、地面を蠢く芋虫と揶揄した小金井だった。
 鬱陶しいと言わんばかりに、小金井の頭を踏みつけるが、僅かに声量が抑えられただけだ。

「......あーーあ、壊れちまったか」

 達也から見ても、小金井は、どこかの回線が切れ、同じ音を流し続けるラジオとなんら変わりがないように思えた。
 そして、全く興味が失せてしまったような東の冷淡な眼差しに晒される。くっ、と指に力が入る瞬間、パタリと声が止まってしまう。
    怪訝に眉をあげた東だが、銃口は下げたままだ。不意に小金井が口を開いた。同時に、一階から乾いた破裂音が鳴る。

「東......俺の勝ちだ......」

「......あ?」

 銃声にも動じない東は、非日常に慣れすぎていた。敵が目の前にいる。それだけで東は動かなかった。有利にあろうとも油断はしない。しかし、それは一人でいることが前提条件として絡んでいる。東は、小金井の発言の意味を考えた。
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