126 / 419
第8話
しおりを挟む
凄まじい光景だ。時には殴り、時には、蹴り倒す。
自衛官二人のチームワークになす統べなく倒されていく死者の人数が瞬く間に増えていく。その数が二十を越える寸前で、二人の動きが止まった。血に染まり、刃先の折れた包丁を投げ捨てた浩太が、べったりと付いた返り血をシャツで拭う。
「一斉に来なかっただけ楽だったな」
事も無げに言ってのける。祐介は、一体どれだけの修羅場を潜ってきたのかと、素直に感嘆の吐息をついた。頼もしい仲間が出来たものだ。
「悠長にそんなことしてる暇はないぞ浩太。さっさと、車まで行こうぜ!彰一、車はいつでも発進できるんだよな?」
「ああ、こいつがあればすぐだ」
彰一は握っていたマイナスドライバーを掌で軽く回転させた。
「......マイナスドライバーでどうやって車を動かすのよ」
「知らないのか?古い車ってのは、ドアやガラスさえ割れれば、ちょいと弄くるだけで、マイナスドライバー一本で動かせる」
阿里沙は呆れなのか感心なのか、どちらつかずな目付きで祐介を見るが、その祐介もポケットからマイナスドライバーを覗かせていた。
「......この馬鹿二人みたいには、なっちゃ駄目だよ?加奈子ちゃん」
小首を傾げた加奈子は、恐らく分かってはいないのだろうが、阿里沙の表情から察したのか、こくり、と頷いた。
「よし、じゃあ、行こうぜ浩太」
周囲の哨戒を解いた浩太が振り返ると、五人に緊張が走る。すう、と息を吸って浩太が前を向いた。
「行くぞ!」
六人が一斉に駆け出す。光が入る駐車場出入り口からは、新たな死者が雪崩れ込んできている。数十メートルは離れているが、判断を誤ればすくさま取り囲まれる距離でもある。プレオの後部座席に阿里沙と加奈子が乗り込んだのを確認し、浩太と彰一も座席に座ったが、そこで阿里沙は声をあげることになった。自分の見間違いじゃないのか。いや、この狭い車内で何を間違える。
確かに、運転席に座っているのは彰一だ。
「いや!いやいやいや!なんでよ!?」
阿里沙の攪拌されたように震える声が聞こえたが、彰一は淡々とドライバーを剥き出しになったシリンダーへ差し込んで回した。
弱々しく鳴り響いていたエンジンがかかり、真剣にギアチェンジを行う彰一へ、助手席の浩太が、まるで教官のように「D」の位置を指で示した。
「ちょっと待って!なんで!?なんでそんなに真剣な顔してるの!運転するのは、岡島さんでしょ!?」
「うっせえ!オートマくらい誰でも運転出来んだよ!」
「だからってこんな時に!」
カッ、と強い明りが灯り、そこでトラックが動き始め、割れたドアガラスから祐介が叫んだ。
「先に出るぞ!」
唸りをあげてトラックはスピードをあげた。プレオの方も準備が終わり、彰一が右足をアクセルに置く。
死者の一人が運転席側の割れたドアガラスから腕を突き入れるも、彰一は冷静にアクセルを踏みつけた。
「掴まってろよ!」
グン、と重力を増した車内で、阿里沙はこの小さな車体に乗ることになった不運を呪った。
どうか、無事に作戦が終わりますように......
自衛官二人のチームワークになす統べなく倒されていく死者の人数が瞬く間に増えていく。その数が二十を越える寸前で、二人の動きが止まった。血に染まり、刃先の折れた包丁を投げ捨てた浩太が、べったりと付いた返り血をシャツで拭う。
「一斉に来なかっただけ楽だったな」
事も無げに言ってのける。祐介は、一体どれだけの修羅場を潜ってきたのかと、素直に感嘆の吐息をついた。頼もしい仲間が出来たものだ。
「悠長にそんなことしてる暇はないぞ浩太。さっさと、車まで行こうぜ!彰一、車はいつでも発進できるんだよな?」
「ああ、こいつがあればすぐだ」
彰一は握っていたマイナスドライバーを掌で軽く回転させた。
「......マイナスドライバーでどうやって車を動かすのよ」
「知らないのか?古い車ってのは、ドアやガラスさえ割れれば、ちょいと弄くるだけで、マイナスドライバー一本で動かせる」
阿里沙は呆れなのか感心なのか、どちらつかずな目付きで祐介を見るが、その祐介もポケットからマイナスドライバーを覗かせていた。
「......この馬鹿二人みたいには、なっちゃ駄目だよ?加奈子ちゃん」
小首を傾げた加奈子は、恐らく分かってはいないのだろうが、阿里沙の表情から察したのか、こくり、と頷いた。
「よし、じゃあ、行こうぜ浩太」
周囲の哨戒を解いた浩太が振り返ると、五人に緊張が走る。すう、と息を吸って浩太が前を向いた。
「行くぞ!」
六人が一斉に駆け出す。光が入る駐車場出入り口からは、新たな死者が雪崩れ込んできている。数十メートルは離れているが、判断を誤ればすくさま取り囲まれる距離でもある。プレオの後部座席に阿里沙と加奈子が乗り込んだのを確認し、浩太と彰一も座席に座ったが、そこで阿里沙は声をあげることになった。自分の見間違いじゃないのか。いや、この狭い車内で何を間違える。
確かに、運転席に座っているのは彰一だ。
「いや!いやいやいや!なんでよ!?」
阿里沙の攪拌されたように震える声が聞こえたが、彰一は淡々とドライバーを剥き出しになったシリンダーへ差し込んで回した。
弱々しく鳴り響いていたエンジンがかかり、真剣にギアチェンジを行う彰一へ、助手席の浩太が、まるで教官のように「D」の位置を指で示した。
「ちょっと待って!なんで!?なんでそんなに真剣な顔してるの!運転するのは、岡島さんでしょ!?」
「うっせえ!オートマくらい誰でも運転出来んだよ!」
「だからってこんな時に!」
カッ、と強い明りが灯り、そこでトラックが動き始め、割れたドアガラスから祐介が叫んだ。
「先に出るぞ!」
唸りをあげてトラックはスピードをあげた。プレオの方も準備が終わり、彰一が右足をアクセルに置く。
死者の一人が運転席側の割れたドアガラスから腕を突き入れるも、彰一は冷静にアクセルを踏みつけた。
「掴まってろよ!」
グン、と重力を増した車内で、阿里沙はこの小さな車体に乗ることになった不運を呪った。
どうか、無事に作戦が終わりますように......
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
夜通しアンアン
戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【完結】わたしの娘を返してっ!
月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。
学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。
病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。
しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。
妻も娘を可愛がっていた筈なのに――――
病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。
それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと――――
俺が悪かったっ!?
だから、頼むからっ……
俺の娘を返してくれっ!?
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる