感染

saijya

文字の大きさ
上 下
124 / 419

第6話

しおりを挟む
「良いから答えて下さい。東さん、あなたの隣にいるのは誰ですか?」

 安部の執拗な追求に、東は諦念するも面倒そうな面は変わらない。俺の隣にいる人物、それは......一人しかいないじゃねえか。

「安部さん、あんただ」

 東の返答は、一切の陰りも曇りもない晴れやかなものだった。
    疑念も、猜疑も、懐疑も、疑心も何もかもが排除された、子供が発する一声、そんな無邪気さがある。
 純粋な殺人鬼として活動していたからこそ、東はコミュニケーションをそこで行っていたのだろう。つまり、殺人こそが東にとってのコミュニケーションであり、交流だったのだ。相手のことが分からないからこそ、俺はこういう人間だと理解させるために恐怖させ、監察し、思考を読み、相手の裏をかける。はっきり言えば、裏の世界でしか輝けない人間だ。表に立てば、当てられた光に影を奪われる。
    東京で東を追っていた男というのは、一般社会に紛れることもなく、加えて東とは何もかもが真逆で、堂々と表通りを歩けるような人間なのだろう。
 悪知恵だけで生きてきたような男だからこそ、その東京にいる真逆の男に対して、逃げ一手に徹したのではないだろうか。
 理解の押し売りをする我が儘で餓鬼な殺人鬼、これが東の正体だ。
 ならば、東の方針を決める保護者になれば良い。それが、もう一度、東の強さを取り戻す方法だと安部は確信していた。 

「あなたの隣にいるのは、この私です。それが分かっているのなら、あなたが気にすることは何もありませんよ」

「......どういう意味だ?」

 安部は、文字通りに東の隣に立ち言葉を続けた。

「私があなたを光から守ってみせます。あなたは、あらゆる負の面から私を守って下さい。良いですか?よく聞きなさい、私には、あなたが必要なんですよ」

 安部は、まるで子供に語り掛けるように、柔らかな笑顔と声を東に振り撒いた。たったそれだけだ。それだけのことで、東の中で渦巻いていた曲悪なものが抜けていき、いつもの調子に戻り、余裕のある笑い声をあげた。

「ひゃっははは!俺を安部さんが守ってくれるって?最高じゃねえか!俺を守れるのかよアンタによ!」

「私とあなたは対等の立場でなければならない。あなたは私の友人ですから」

 東は、安部の言葉で自分でも分かっていなかった心の空白を塗り潰される感覚を確かに覚えた。せりあがる嗚咽を堪えられない。安部は、それだけ東の内面に触れることが出来たのだろう。それがどれだけ危うい状態だとしてもだ。今、この瞬間に生まれた絆は、とても危険な関係になるだろうと阿部は理解している。傷が入れば、どこまでも堕ちていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

夜通しアンアン

戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...