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第8話
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瞬間、東は興醒めしたかのように、落胆の色を顔に張り付けた。銃口の奥で、自衛官から目を逸らさずに、眉をひそめて小さく呟く。
「......まさかとは思うけどよ、弾丸がない、とか言わねえよなぁ?」
その言葉に、自衛官は東から一瞬だけ目を切った。東は掴んでいた銃のバレルを離し、呆れたように溜め息を吐き出し、一歩階段を上がった。
「最悪な気分だ......まるで糞の上を歩いてるみたいな、最悪な気分だよ......」
玩具を取り上げられた子供のような、寂しい声色だった。
更に一歩踏み出した時、自衛官は無用とばかりに銃を東に向けて投げつけ、すぐにナイフへと手を伸ばしたが、右腰を強烈な衝撃が貫く。
東は、銃を避けもせずに、そのまま顔面で受けとめながら、持っていた89式小銃を鈍器のように振るっていた。
自衛官が、予期せぬ鈍痛に顔をしかめ、腰を折って噎せる様を下から覗いていた東は、銃を突きつけられた時のような顔ではなく、例の寂しそうな表情のまま見上げている。
「テメエもか......テメエも俺を理解できねえのかよ!ああ!?」
自衛官の顔面に叩き込まれた東の拳は、頬骨を正確に打ち抜いた。倒れこんだ自衛官に馬乗りになり、次々と拳を振り下ろす。
「てめえは偽物だよ!これが本物の殺意だ!死ねよ、死んじまえよ!偽物がぁ!」
みるみる鮮血に染まっていく自衛官は、何度か殴り返すも、東はやはり避けもしない。
それどころか、闘犬のように犬歯を剥き出しにして勢いを増すばかりだ。ついに、自衛官の両手が震え始める。東の拳頭は皮が捲れ、流血を始めるが、それでも止まらなかった。鬼気迫る形相のまま、拳を落とす。自衛官に意識がないのは明白だった。
「東さん!そこまでです!」
安部の声は、頭の中を飛び交っていた羽虫の音を消しさった。振り上げた拳を止められ、東はようやく我に返った。
安部は、足元に転がる自衛官の口に手を当て呼吸の確認をする。さわさわとした柔らかい息が当り、生きていることが分かると、ふう、と吐息をついた。
「自衛官なら、なんらかの情報は持っている筈......使徒にするのは、遅くはない。東さんなら分かるでしょう?」
「......ああ、悪かったな。安部さん、ソイツを車に乗せる。手伝ってくれ」
「わかりました。それで、まずは他の自衛官の情報を聞き出しますか?」
東は唇についた返り血を、蛇のように舌で舐めとると、まだ、怒りを隠しきれずにいるのか、声にその調子を残したまま、不服そうな口調で言った。
「それも良いけどよ、もっと良い使い方も思い付いちまったからよ......」
奇怪な笑みを浮かべた東から双眸を剥がし、安部は自衛官を抱えた。東の助力も受けながら、階段を降りる途中、自衛官の首からドッグタグが落ち、乾いた音をたてる。そちらに、安部の注意が逸れた瞬間、東が不満そうに叫んだ。
「おい、安部さん!呆けてんじゃねえよ!」
「ああ......すいません」
短い謝罪の後、自衛官の身体を車に乗せ終えた二人は、使徒が集まる前に、車を発進させた。
玄関から入る日の光を受けたドッグタグは、淡い反射を放ちながら、落下した際にプレートについた僅かな傷へ、ここで何が起きたのかを誰かに知らせるように血を滲ませていく。
遠ざかっていく車の排気音は、すぐに聞こえなくなった。
「......まさかとは思うけどよ、弾丸がない、とか言わねえよなぁ?」
その言葉に、自衛官は東から一瞬だけ目を切った。東は掴んでいた銃のバレルを離し、呆れたように溜め息を吐き出し、一歩階段を上がった。
「最悪な気分だ......まるで糞の上を歩いてるみたいな、最悪な気分だよ......」
玩具を取り上げられた子供のような、寂しい声色だった。
更に一歩踏み出した時、自衛官は無用とばかりに銃を東に向けて投げつけ、すぐにナイフへと手を伸ばしたが、右腰を強烈な衝撃が貫く。
東は、銃を避けもせずに、そのまま顔面で受けとめながら、持っていた89式小銃を鈍器のように振るっていた。
自衛官が、予期せぬ鈍痛に顔をしかめ、腰を折って噎せる様を下から覗いていた東は、銃を突きつけられた時のような顔ではなく、例の寂しそうな表情のまま見上げている。
「テメエもか......テメエも俺を理解できねえのかよ!ああ!?」
自衛官の顔面に叩き込まれた東の拳は、頬骨を正確に打ち抜いた。倒れこんだ自衛官に馬乗りになり、次々と拳を振り下ろす。
「てめえは偽物だよ!これが本物の殺意だ!死ねよ、死んじまえよ!偽物がぁ!」
みるみる鮮血に染まっていく自衛官は、何度か殴り返すも、東はやはり避けもしない。
それどころか、闘犬のように犬歯を剥き出しにして勢いを増すばかりだ。ついに、自衛官の両手が震え始める。東の拳頭は皮が捲れ、流血を始めるが、それでも止まらなかった。鬼気迫る形相のまま、拳を落とす。自衛官に意識がないのは明白だった。
「東さん!そこまでです!」
安部の声は、頭の中を飛び交っていた羽虫の音を消しさった。振り上げた拳を止められ、東はようやく我に返った。
安部は、足元に転がる自衛官の口に手を当て呼吸の確認をする。さわさわとした柔らかい息が当り、生きていることが分かると、ふう、と吐息をついた。
「自衛官なら、なんらかの情報は持っている筈......使徒にするのは、遅くはない。東さんなら分かるでしょう?」
「......ああ、悪かったな。安部さん、ソイツを車に乗せる。手伝ってくれ」
「わかりました。それで、まずは他の自衛官の情報を聞き出しますか?」
東は唇についた返り血を、蛇のように舌で舐めとると、まだ、怒りを隠しきれずにいるのか、声にその調子を残したまま、不服そうな口調で言った。
「それも良いけどよ、もっと良い使い方も思い付いちまったからよ......」
奇怪な笑みを浮かべた東から双眸を剥がし、安部は自衛官を抱えた。東の助力も受けながら、階段を降りる途中、自衛官の首からドッグタグが落ち、乾いた音をたてる。そちらに、安部の注意が逸れた瞬間、東が不満そうに叫んだ。
「おい、安部さん!呆けてんじゃねえよ!」
「ああ......すいません」
短い謝罪の後、自衛官の身体を車に乗せ終えた二人は、使徒が集まる前に、車を発進させた。
玄関から入る日の光を受けたドッグタグは、淡い反射を放ちながら、落下した際にプレートについた僅かな傷へ、ここで何が起きたのかを誰かに知らせるように血を滲ませていく。
遠ざかっていく車の排気音は、すぐに聞こえなくなった。
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