感染

saijya

文字の大きさ
上 下
95 / 419

第7話

しおりを挟む
「おい、なんの騒ぎだよ。加奈子が起きちまったろうが」

 祐介が寝ていた隣の部屋から彰一と加奈子が顔を出し、不安そうに表情を陰らせていた。
    祐介は、加奈子に見せるように、首を振る。

「分からない......少なくとも、あの異常者達じゃなさそうだけど......」

 彰一は、その言葉を聞くと、身を翻して部屋に戻り、祐介と同じスタンドライトを手にして現れた。
    祐介と頷き合って、ジリジリと、廊下に敷かれた絨毯を削るような足取りで進んでいきながら、彰一が小声で訊いた。

「物音以外に、何かあったか?」

「ああ、誰かの怒鳴り声がした」

 廊下を抜けた一向は、受付フロアに出た。どうやら、一階にいたようだ。パネルに表示された部屋の番号を押して、入室する流れをとる、少し古いタイプのホテルだ。その鍵を受けとる皿が割れている。パネルも、あちこちが破損していた。床に散らばった破片も、汚れや踏まれた跡が目立たたず、真新しさから、物音の原因はこれだろうと、祐介は結論付けた。だが、肝心の声の主がいない。

「おい......あれ、みろよ」

 彰一が指差したのは、ホテルの出入り口に当たる自動扉だった。
    こういったホテル特有の薄暗い駐車場内において、不自然な二つの光線が、自動扉の前を横切っている。

「......車かな?」

 阿里沙は鬼胎を隠すように加奈子を抱き締めながら、細い声音で囁いた。
    なんとか、聞き取れた祐介は、自らの唇へ、ぴん、と立てた人差し指を当てる。

「少し待ってろ」

 短く三人を止めると、祐介は生唾を呑んだ。仲間がいることで安心したのだろう、先程とは違い空気が喉を通る。
 自動扉は、電源が切られており、開かなくなっていたが、扉の下部にある鍵も開いたままになっている。ガラスが割れていないのは、誰かがここを抜けた証だ。仮に平和な時間であっても、男女数人が潜む場所に鍵を掛けない筈がない。
    祐介は、屈んで自動扉を両側に開いた。両扉をスライドさせると、侵入してきた生温い風と雨音が、底気味悪い心持ちを、更に煽りたてる。

「こんだけ言っても、まだ分からないのかよ!真一!」

 突然の大声に、心臓が飛びだすのではないか、という程に驚いた祐介は、同時に声が出てしまい、駐車場にある二つの影が一斉に振り返った。
 いや、一人はトラックに乗り込む寸前だったのだろう、片足が、まだタラップに乗っている。それを制するようにトラックの正面で両腕を広げた男と裕介の距離があり、車のライトを背中に受けているので顔は分からない。だが、声の調子から、バツが悪そうだ。
    トラックを停めていた男が祐介へと手を差し出して言った。

「ああ、起きたのか、えっと......確か、上野祐介だったかな?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

夜通しアンアン

戸影絵麻
ホラー
ある日、僕の前に忽然と姿を現した謎の美少女、アンアン。魔界から家出してきた王女と名乗るその少女は、強引に僕の家に住みついてしまう。アンアンを我が物にせんと、次から次へと現れる悪魔たちに、町は大混乱。僕は、ご先祖様から授かったなけなしの”超能力”で、アンアンとともに魔界の貴族たちからの侵略に立ち向かうのだったが…。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...