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第10話
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けたたましい音が響いた。炸裂音と衝撃が、二階の武道場にまで達している。最初の爆発音から、約三十秒後、もう一度、聞き覚えのある音が轟いた。扉にかかっていた圧力が弱まる。どうやら、音に反応して、群がっていた異常者達の多くは、外を走るトラックへと標的を変えたようだ。単純な思考能力で助かりはしたが、扉の前には、まだ多くの異常者が、物寂しそうに、ガチガチと歯を噛み合わせている。油断が出来ないことに、変わりはない。
祐介の父親が施したパイプ一本が命綱だ。
「今の音は......」
振り返った彰一に、窓から眺めていた阿里沙が首肯する。
「あのトラックからだよ!外を徘徊してた奴等も、トラックを追い掛けてるけど......」
歯切れの悪い阿里沙に、祐介が訊いた。
「どうした?」
「うん......入口に密集してるから、多分、中には入れない......」
祐介は、大声でも出して、警察署内に異常者を集められないかを考えてみたが、ただでさえ、軋んでいる木製の扉に、これ以上は、負担をかけることは出来ない。文字通り逃げ場の無い袋のネズミ、破られてしまえば、一貫の終わりだ。
「どうする......祐介、他にどこか逃げ道はないのか?それとも、俺達は......」
最悪な結果が脳裏を過るが、祐介は強く首を横に振った。自分の軽率な行動が引き起こした事態の悪化、唇を噛んで彰一に言う。
「悪い、俺のせいだ......だけど、そう簡単に諦めないでくれ......生きてる限り、きっと......」
消え入りそうな謝罪を遮ったのは、阿里沙の短い悲鳴だった。彰一は反射的に言った。
「どうした!?」
「いきなり、壁になにか......穴が空いてる?」
窓から身を乗り出した阿里沙は、壁面の数ヶ所が削られ、一部に穴が空いているのに気付いた。丸い痕は、まるで何かのメッセージを伝えているように見えた。直後、トラックは、八幡西警察署を通過し、青山方面へと大量の異常者を引き連れて走り去っていく。
祐介と彰一が揃って頷くが、どうにも意味を計り知れない阿里沙が首を傾げた。
「ねえ?どうしたの?」
「これがどういう意味なのか、本当に分からないか?」
阿里沙は、仏頂面のまま、彰一に返す。
「分からないから、聞いてるの!」
「あのな?爆弾を使うほど、下では糞供に囲まれている。そんな状況でもこっちに銃を向けた。つまり......」
「あっちは、こっちに気付いてるって意味だ......よ!」
語尾に力を込め、祐介は扉を更に押し込み、ついに中央の隙間が無くなった。
まだ、この世界に誰かでも味方がいるかもしれない。憶測にもならない希望だが、それが分かっただけでも、祐介は心から全身に、力が駆け巡ってくるような気がした。
※※※ ※※※
「気付いたかどうか、賭けだぜこりゃ......」
「そうだな......だけど、今はこいつらを振り切るのが先だ!」
浩太は、アクセルを力一杯に踏みつける。行く手を遮る暴徒の集団を巻き込みながらのハンドル操作は、ひどく辛い。舗装されていない獣道を全速力で飛ばしているようだ。トラックに跳ねられ、下半身と上半身が切断されようとも、フロントしがみつき、ダッシュボードに手を置いた暴徒の眉間に、小銃を突きつけた真一が、トリガーをひいた。
祐介の父親が施したパイプ一本が命綱だ。
「今の音は......」
振り返った彰一に、窓から眺めていた阿里沙が首肯する。
「あのトラックからだよ!外を徘徊してた奴等も、トラックを追い掛けてるけど......」
歯切れの悪い阿里沙に、祐介が訊いた。
「どうした?」
「うん......入口に密集してるから、多分、中には入れない......」
祐介は、大声でも出して、警察署内に異常者を集められないかを考えてみたが、ただでさえ、軋んでいる木製の扉に、これ以上は、負担をかけることは出来ない。文字通り逃げ場の無い袋のネズミ、破られてしまえば、一貫の終わりだ。
「どうする......祐介、他にどこか逃げ道はないのか?それとも、俺達は......」
最悪な結果が脳裏を過るが、祐介は強く首を横に振った。自分の軽率な行動が引き起こした事態の悪化、唇を噛んで彰一に言う。
「悪い、俺のせいだ......だけど、そう簡単に諦めないでくれ......生きてる限り、きっと......」
消え入りそうな謝罪を遮ったのは、阿里沙の短い悲鳴だった。彰一は反射的に言った。
「どうした!?」
「いきなり、壁になにか......穴が空いてる?」
窓から身を乗り出した阿里沙は、壁面の数ヶ所が削られ、一部に穴が空いているのに気付いた。丸い痕は、まるで何かのメッセージを伝えているように見えた。直後、トラックは、八幡西警察署を通過し、青山方面へと大量の異常者を引き連れて走り去っていく。
祐介と彰一が揃って頷くが、どうにも意味を計り知れない阿里沙が首を傾げた。
「ねえ?どうしたの?」
「これがどういう意味なのか、本当に分からないか?」
阿里沙は、仏頂面のまま、彰一に返す。
「分からないから、聞いてるの!」
「あのな?爆弾を使うほど、下では糞供に囲まれている。そんな状況でもこっちに銃を向けた。つまり......」
「あっちは、こっちに気付いてるって意味だ......よ!」
語尾に力を込め、祐介は扉を更に押し込み、ついに中央の隙間が無くなった。
まだ、この世界に誰かでも味方がいるかもしれない。憶測にもならない希望だが、それが分かっただけでも、祐介は心から全身に、力が駆け巡ってくるような気がした。
※※※ ※※※
「気付いたかどうか、賭けだぜこりゃ......」
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