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第4話
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異常者の一人が手を伸ばし、母親の髪を掴んだ。
「この!」
父親が三度バットを振り上げるが、このまま振り下ろせばどうなるかは子供でも分かる。必死に抵抗を続ける母親は、二人目の異常者に左耳をかじりとられた。鋭く熱い痛みに、喚き声をあげる母親の片腕を引っ張り、なんとか助け出そうとする祐介だが、異常者の歯が、ガチリ、と音をたて、それを阻んだ。咄嗟に手を引いた祐介に代わり、請うように伸ばされた母親の腕を父親が掴んだ。
しかし、異常者の狙いは、父親の手首に変わる。
絶え間なく襲う激痛により身体が硬直してしまっている母親の掌は、きつく縛られたように父親を離さない。そして、父親の腕に、あらん限りの咬筋力で異常者の一人が噛みついた。骨まで達しているのかミシミシと軋みをあげている。
「このイカれ野郎があ!」
祐介は、父親の手を離れたバットを拾い、食らい付く異常者の顔面にグリップエンドを叩きつけた。折れた歯を残したまま、異常者は父親を解放した。すぐさま、祐介は母親と父親の手をほどき、腕を回して引きずるように二人を引き離す。
「待て祐介!お前!」
「親父!諦めてくれ!母さんは……!」
「諦められるか!離せ!あいつを……!」
衣服の上から強引に胸を裂かれ、左右の乳房は両肩の位置で、頼りなく垂れている。露出した臓器は素手で力任せに引きちぎられ、異常者達の口内で潰されていく。母親は、 体内で込み上がった血で喉が塞がっているのだろう。 もう声をあげることは出来なかった。
だが、母親の意識はまだ残っているようだ。尋常ならざる重苦の中、母親の涙に滲んだ瞳がゆっくりと動き、二人の背後を見据えた。行ってくれ、今のうちに逃げて、そう母親の双眸は訴えかけてきていた。
「母さん……ごめん……ごめん!」
祐介は、父親に肩をかして駆け出した。今、振り返ってしまえば、母親と同じ道を辿ろうとしてしまうことが分かっていたからだ。二人を命掛けで見送った母親は、空っぽになりつつある自らの肉体を見ることなく、その瞼を静かに下ろした。
祐介はエレベーターに入ると、尾を引かないように一階へのボタン力強く押した。知らぬ間に指が震えている。
「親父……腕は大丈夫か?」
「ああ……なんとかな……」
父親は悲痛の面持ちだった。目の前で、長年苦楽を共にした伴侶が生きたまま身体を開かれた上に、異常者の胃袋に収められてしまった。この事実を目の前で突き付けられてしまった父親の心境は、祐介以上に悲痛に満ちているだろう。その重さは到底、計り知れず、目線を下げたところで、エレベーターは一階に到着する。
「この!」
父親が三度バットを振り上げるが、このまま振り下ろせばどうなるかは子供でも分かる。必死に抵抗を続ける母親は、二人目の異常者に左耳をかじりとられた。鋭く熱い痛みに、喚き声をあげる母親の片腕を引っ張り、なんとか助け出そうとする祐介だが、異常者の歯が、ガチリ、と音をたて、それを阻んだ。咄嗟に手を引いた祐介に代わり、請うように伸ばされた母親の腕を父親が掴んだ。
しかし、異常者の狙いは、父親の手首に変わる。
絶え間なく襲う激痛により身体が硬直してしまっている母親の掌は、きつく縛られたように父親を離さない。そして、父親の腕に、あらん限りの咬筋力で異常者の一人が噛みついた。骨まで達しているのかミシミシと軋みをあげている。
「このイカれ野郎があ!」
祐介は、父親の手を離れたバットを拾い、食らい付く異常者の顔面にグリップエンドを叩きつけた。折れた歯を残したまま、異常者は父親を解放した。すぐさま、祐介は母親と父親の手をほどき、腕を回して引きずるように二人を引き離す。
「待て祐介!お前!」
「親父!諦めてくれ!母さんは……!」
「諦められるか!離せ!あいつを……!」
衣服の上から強引に胸を裂かれ、左右の乳房は両肩の位置で、頼りなく垂れている。露出した臓器は素手で力任せに引きちぎられ、異常者達の口内で潰されていく。母親は、 体内で込み上がった血で喉が塞がっているのだろう。 もう声をあげることは出来なかった。
だが、母親の意識はまだ残っているようだ。尋常ならざる重苦の中、母親の涙に滲んだ瞳がゆっくりと動き、二人の背後を見据えた。行ってくれ、今のうちに逃げて、そう母親の双眸は訴えかけてきていた。
「母さん……ごめん……ごめん!」
祐介は、父親に肩をかして駆け出した。今、振り返ってしまえば、母親と同じ道を辿ろうとしてしまうことが分かっていたからだ。二人を命掛けで見送った母親は、空っぽになりつつある自らの肉体を見ることなく、その瞼を静かに下ろした。
祐介はエレベーターに入ると、尾を引かないように一階へのボタン力強く押した。知らぬ間に指が震えている。
「親父……腕は大丈夫か?」
「ああ……なんとかな……」
父親は悲痛の面持ちだった。目の前で、長年苦楽を共にした伴侶が生きたまま身体を開かれた上に、異常者の胃袋に収められてしまった。この事実を目の前で突き付けられてしまった父親の心境は、祐介以上に悲痛に満ちているだろう。その重さは到底、計り知れず、目線を下げたところで、エレベーターは一階に到着する。
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