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第10話
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浩太は、じんわりと汗が滲む手でハンドルをきつく握り直した。もう、あとには引けない。
「5カウント頼む」
今にも口から心臓を吐き出しそうな真一は、恨み言のようになんらかを呟き、諦念の息をついて天井を見上げた。
「5!」
カウントダウンが始まった。浩太の右足は知らぬ間に震えていた。アクセルへ足を置き、深呼吸をしようと息を吸い込んだが、極度の緊張から身体が空気を拒否してしまっている。
「4!」
カウントが進んだ。 クラッチを踏み、チェンジレバーを動かす。いつもやっている簡単な動作が、初めて扱う複雑な機械のように感じた。暴徒が窓やドアに与える損傷が激しくなっていき、ついにはドアガラスに小さなヒビが走った。
浩太は、額を伝う汗が目に入ろうとも閉じることが出来ず、先に発進し餌食となったトラックを見据えている。
「3!」
一つ間違えば、あのトラックのようになるかもしれない。もう声は聞こえないという事は餌食になってしまったと考えるしかないだろう。アクセルに置いた右足が、まるで自身の一部ではないみたいだ。真一は、内側からドアが破られないようにドアフレームを必死に引きながら怒鳴った。
「2!」
浩太がアクセルを軽く踏んだその時、備え付けていた無線から雑音混じり声が入った。
「おい、誰か聞こえるか!聞こえるなら応答しろ!頼む!」
真一が慌てて浩太の足を上げさせた。間違いない、ノイズが激しいが人の声だ。ひったくるように無線を手にした真一が声を張り上げた。
「おい!今の奴!まだ生きてるなら返事してくれ!」
「真一!お前、真一か!無事だったんだな」
「この状態を無事って言えるなら無事だぜ!お前は大地か!」
「ああ、そうだ!そっちはどうだ?見える限りじゃ絶望そうだ!」
「ああ、絶望ど真ん中だよ!逃げる事もままならねえし、このままじゃあ、もう限界も近いぜ!」
「分かった!今から74式戦車が砲撃を始める!いいか、生きてこの無線聞いてる奴ら!今から砲撃を開始する!二発!いいか二発だ!撃ちこんだのを確認したら一気に出口に突っ走れ!」
「お前はどうすんだよ!」
「大丈夫、こっちは戦車だ。無敵艦にでも乗ってるみたいなもんだし、どうとでも逃げてみせるよ!」
そこまで言って、無線は一方的に切られた。真一が浩太に向き直る。
「聞こえてたよな浩太!」
「ああ、間違いなく聞こえてた!砲撃の衝撃に備えるぞ!」
二人は同時に、アクセルペダルに頭がつく限界まで体を丸めた。頭上でドアガラスが破られる音がし、何本もの腕が運転席へと滑り込んできた。大きくなる獣のような咆哮、それは二人の恐怖心を煽るには充分な光景だ。
堪らず、浩太は絶叫をあげてしまいそうになったが、一発目の砲弾の着弾によって遮られた。
「5カウント頼む」
今にも口から心臓を吐き出しそうな真一は、恨み言のようになんらかを呟き、諦念の息をついて天井を見上げた。
「5!」
カウントダウンが始まった。浩太の右足は知らぬ間に震えていた。アクセルへ足を置き、深呼吸をしようと息を吸い込んだが、極度の緊張から身体が空気を拒否してしまっている。
「4!」
カウントが進んだ。 クラッチを踏み、チェンジレバーを動かす。いつもやっている簡単な動作が、初めて扱う複雑な機械のように感じた。暴徒が窓やドアに与える損傷が激しくなっていき、ついにはドアガラスに小さなヒビが走った。
浩太は、額を伝う汗が目に入ろうとも閉じることが出来ず、先に発進し餌食となったトラックを見据えている。
「3!」
一つ間違えば、あのトラックのようになるかもしれない。もう声は聞こえないという事は餌食になってしまったと考えるしかないだろう。アクセルに置いた右足が、まるで自身の一部ではないみたいだ。真一は、内側からドアが破られないようにドアフレームを必死に引きながら怒鳴った。
「2!」
浩太がアクセルを軽く踏んだその時、備え付けていた無線から雑音混じり声が入った。
「おい、誰か聞こえるか!聞こえるなら応答しろ!頼む!」
真一が慌てて浩太の足を上げさせた。間違いない、ノイズが激しいが人の声だ。ひったくるように無線を手にした真一が声を張り上げた。
「おい!今の奴!まだ生きてるなら返事してくれ!」
「真一!お前、真一か!無事だったんだな」
「この状態を無事って言えるなら無事だぜ!お前は大地か!」
「ああ、そうだ!そっちはどうだ?見える限りじゃ絶望そうだ!」
「ああ、絶望ど真ん中だよ!逃げる事もままならねえし、このままじゃあ、もう限界も近いぜ!」
「分かった!今から74式戦車が砲撃を始める!いいか、生きてこの無線聞いてる奴ら!今から砲撃を開始する!二発!いいか二発だ!撃ちこんだのを確認したら一気に出口に突っ走れ!」
「お前はどうすんだよ!」
「大丈夫、こっちは戦車だ。無敵艦にでも乗ってるみたいなもんだし、どうとでも逃げてみせるよ!」
そこまで言って、無線は一方的に切られた。真一が浩太に向き直る。
「聞こえてたよな浩太!」
「ああ、間違いなく聞こえてた!砲撃の衝撃に備えるぞ!」
二人は同時に、アクセルペダルに頭がつく限界まで体を丸めた。頭上でドアガラスが破られる音がし、何本もの腕が運転席へと滑り込んできた。大きくなる獣のような咆哮、それは二人の恐怖心を煽るには充分な光景だ。
堪らず、浩太は絶叫をあげてしまいそうになったが、一発目の砲弾の着弾によって遮られた。
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