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世界の終わりを君に捧ぐ

世界の終わりを君に捧ぐ 序 2

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 入国審査を終えると外は既に暗くなっていた。
 日本で事前に紹介してもらった現地ガイドを探す。
 それらしい人影が見当たらない。どうしたものかと考えていると、背後から声をかけられる。

「紀美丹恋さんですか?」

 そこにいたのは、ヒジャブと呼ばれるスカーフのような布で頭を覆った小麦色の肌をした十四歳ぐらいの少女だった。

「えっと、違いましたか? 失礼しました」

「いや、あってます。僕が紀美丹恋です。あの、あなたが現地ガイドの・・・・・・?」

 少女は、うなずくと荷物お持ちしますとトランクを手に取る。

「アルマ・ハーンです。よろしくお願いします」

 こんな小さな女の子がガイド?
 まぁ、日本でも小学生が英語で観光ガイドをボランティアでやってるってニュースになったりするし、ありえなくもないのかな。

「いや、おかしいでしょう」

 尾張さんが、あからさまに不審そうな顔を少女に向ける。

「いや、でも家庭の事情で生活費を稼ぐ子供もいるらしいですし」

「あの、どうかしましたか?」

 アルマと名乗った少女は、不安そうな顔で青年を伺う。

「なにか、揉めているようでしたけど、もしかして何か失礼をはたらいてしまったでしょうか?」

「ああ、いや、なんでもないです。それにしても、アルマさん日本語お上手ですね」
 
 彼女が喋る日本語には、イントネーションにも違和感がない。まるで、母国語のように言語を使いこなしている。

「ありがとうございます。わたしの母が日本人ですので、日常的に使ってますから」

 通りで、違和感がないはずである。

「それではまず、荷物をホテルへ預けにいきましょう」

 空港を出ると、すぐ目の前に自動車が停車しており、運転手が合図するように片手をあげる。

 少女は手慣れた様子で荷物を自動車のトランクに積み込むと助手席に乗り込み、運転手に何事か告げる。

 遅れながら、青年と少女も自動車に乗り込み、ホテルへ向かった。

 ホテルに荷物を預けたあと、食事をするためにそのまま首都へと向かう。

「食事のリクエストなどはありますか?」

「そうですね。ーーこの国の伝統料理のようなものがあったら、それが食べてみたいです」

 少女は、少し考える素振りを見せた後、運転手に指示を出す。

 着いたのは、一見、民家のような外観の店だった。

「これはーー民家ですか?」

「民家ね」

「民族料理のお店です」

 僕たちの素直な感想はすっぱりと切り捨てられた。

 店内に入ると、内装は外観からは想像できない程、しっかりとした造りをしていた。

「オススメは、ケバーブです」

 日本でも割とポピュラーな料理だが、本場の味を体験するのもいいかもしれない。
 そう考えて、とりあえずケバーブといくつかの野菜料理。それと飲み物を注文してもらう。

 運ばれてきた料理に手をつける。

「これは、美味しそうですね!」

 香辛料の食欲を刺激する良い香りが鼻をくすぐり、お腹が鳴る。

 肉にかぶりつく。
 スパイシーな香辛料の香りと、ジュワッと溢れ出す肉汁が口の中に広がる。
 濃い目に味付けされた肉の脂と塩味を、現地で生産されているというビールで流し込む。
 喉を通る炭酸と爽やかな苦味に更に食がすすむ。

「あの、尾張さんはお食べにならないのですか?」

 野菜料理に手をつけていたアルマさんがそう質問する。

「えぇ、宗教上の理由で私は絶食中だから」

 尾張さんが適当なことを言って誤魔化しながら小声で、

「薄々そうじゃないかと思っていたけどーーこの娘、私のこと見えてたのね」

 と、僕に耳打ちする。

「そうですね。やっぱりこの国、少し危なそうです」

 小声で尾張さんに返事をしながら、ケバーブを食べるアルマさんを観察する。

 一般人の少女が幽霊である尾張さんの姿を見ることができる。その事実が意味するこの国の実態は、なかなかの衝撃だった。
 視線に気づいたのか、アルマさんは、

「どうかなさいましたか?」

 と、不思議そうな顔でこちらを伺う。それに、なんでもないですと答えつつ、料理を食べ進める。

 料理を食べ終え、会計を終えたあと、ホテルへ戻ることにする。

 先行きの不安を払拭しようと車内から外の景色を眺める。
 有名なフランチャイズのフライドチキン店が車内から見えた時、尾張さんのテンションが上がっているのが印象的だった。








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