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世界終わろう委員会

猫の溜まり場 

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 前日の椎堂さんとの約束通り、学校終わりに出かけることになった。

「それで、今日はどこに行くんですか?」

 椎堂さんは、ニヤリと笑うと、

「行けば分かるよ」

 と、だけ言ってスタスタと歩き出してしまう。
 すこし嫌な予感がする。

「どうします?」

 尾張さんは、肩を竦めると、

「約束した手前、ここで彼女を放置するのも気が引けるわね」

 というわけで、椎堂さんの後ろをついていく。
 暫く歩くと辿り着いたのは、学校近くのお寺だった。

「嫌な予感しかしないから帰っていいかしら」

 尾張さんが、ジリジリと後退りを始めている。
 椎堂さんが、尾張さんの行動を見越してなのか、ボソリと呟く。

「このお寺、猫の溜まり場になってるんだよ」

「私がその程度のことで釣られるとでも思っているのかしら」

 聞こえていないはずの尾張さんの反応を予測したのか、畳みかける椎堂さん。

「ここの猫すっごい人懐っこいよ」

「何してるの? 早く行くわよ」

 釣れた。ちょろい。ちょろすぎるよ尾張さん。

 はてさて椎堂さんのいう通りではあった。
 そのお寺の庭園には、数匹の猫が日向ぼっこをしたり、戯れあったりしている。

「紀美丹君。ここが天国かしら?」

 数匹の猫を撫でながら、尾張さんは呟く。

「割と洒落になってないですよ。尾張さん」
 
 この人、猫撫でてたらいつのまにか成仏してたりしないだろうな?
 少し心配になってきた。

 椎堂さんは、先程から住職らしき人と何やら話をしている。

 僕は、足元に近寄ってきた白い猫を撫でながら、その話に聞き耳を立てる。

 どうやら、尾張さんのことを話しているようだが、詳しい内容はよく聞き取れない。
 しばらく話した後、住職らしき人がこちらに近づいてくる。

「君が、紀美丹恋君でいいんだよね」

 フルネームで呼ばれるのは久しぶりだった。

「あ、はい。そうです」

「私は、ここの住職をしている、洛州ラクシュウといいます」

 よろしく。と手を差し出してくる。

「はぁ、どうも」

 一瞬躊躇しながら、その手を握る。すると、洛州さんは僕の手をジッと見つめながら質問を投げかける。

「それで、君はどうしたいんだい?」

 手を振り払うわけにもいかず、そのままの姿勢で質問を返す。

「どう、とは?」

「君は、今のままの状態でいいと思っているのかい?」

 尾張さんの事を言っているのだと、遅ればせながら気づいた。

「僕は・・・・・・」

 僕はいったい、尾張さんにどうなってほしいのだろう。ただまた会えた。それだけで嬉しくて、その後どうしたいかなんて考えていなかった。

「君が見えるという、尾張恋さんなんだが、生憎私には見えないんだ」

「そう、ですか」

 椎堂さんやクラスメイト、仏門に入った人にも見えていない。それなのに、僕や、あの女の子には見えている。
 その差異はいったいどこにあるのだろうか。

「ただつい先日、君と同じような状態にあるという青年が、うちを訪ねてきたんだよ」

 その言葉を聞いた僕の手に力が入る。洛州さんはそれを見てとると、ゆっくりと手を離した。



 
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