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光さす方へ
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わたしは目が見えない。生まれつき、わたしの目の前には真っ暗な闇だけが広がっている。
肌に触れるシーツの感触。暖かな陽だまりの香り。無機質な機械音声によって、寝物語に聞こえてくる物語の中では、そんな表現があった。
だけど、わたしが触れることのできる場所にあるのは、ひんやりとした冷たいシーツの感触と薬とアルコール消毒の鼻をつく匂いだけだ。
わたしは生まれてからーーいや、正確にはわたしという意識を自覚してから一度もこの部屋から出たことがない。
わたしの、生活スペースはこのベッドと周囲四メートルの閉ざされた空間のみだ。
一度外に出てみたいとわたしの世話をしてくれていた女性に話してみたことがある。
女性は困ったような声を出すと「先生に聞いてみるわね」とだけ言って部屋を出て行ってしまった。
その後、その女性は二度とわたしの前に現れることはなかった。
新しくわたしの世話をするようになった女性はとても無口な人で、わたしが話しかけてもなにも応えてくれない。
いつしか、わたしは外に出たいと口に出すことはなくなっていた。
毎日、目を覚ましては栄養チューブからの点滴を受けて、無機質な声が聞かせてくれる物語に想いを馳せながら、意識を失うように眠る。
そんな他人から見たら、生きているとはとてもいえないわたしの無為で単調な生活は、ある日突然終わりを迎えた。
特別で衝撃的な出会いがあったとか、部屋が破壊されたとか、そんな物騒な出来事はなにもなかった。
ただ、単純に毎日のようにわたしの世話をしてくれていた女性が部屋を訪れなくなってしまったのだ。
わたしにとってそれは死活問題だった。この日わたしは初めて空腹というものを味わった。
「ーーお腹・・・・・・空いたな」
毎日決まった時間に一定の栄養を点滴で与え続けられていたわたしは、飢餓というものがここまで苦しいものだとは知らなかった。
「なにか・・・・・・」
ベッドから立ちあがり、何かを誰かを求めて歩き出す。
手探りで壁を伝い、いつも女性が入ってきていた方向を目指す。
手に僅かな取っ掛かりが触れる。それを横にスライドすると、また別の空間が現れた。
壁伝いに進む。するとまた壁に取っ掛かりがあった。
わたしはそれをゆっくりと横にずらす。
すると生暖かい外界の空気が体に纏わり付き、目には灼熱のような痛みが走った。
「っ⁉︎ーーなに? これ?」
恐る恐る瞬きをする。
わたしの目には明るい光に照らされる、グネグネしたものや角ばったもの他にもいろいろな不可思議なものが映った。
「君には世界がどう映る?」
それは懐かしい女性の声だった。目の前に現れたのは、長い棒のようなものが生えたなにかだった。
「ーーあ、え?」
少女は暫く呆然と立ち尽くすと、目をギュッと瞑り一言呟いた。
「ーー気持ち悪い」
肌に触れるシーツの感触。暖かな陽だまりの香り。無機質な機械音声によって、寝物語に聞こえてくる物語の中では、そんな表現があった。
だけど、わたしが触れることのできる場所にあるのは、ひんやりとした冷たいシーツの感触と薬とアルコール消毒の鼻をつく匂いだけだ。
わたしは生まれてからーーいや、正確にはわたしという意識を自覚してから一度もこの部屋から出たことがない。
わたしの、生活スペースはこのベッドと周囲四メートルの閉ざされた空間のみだ。
一度外に出てみたいとわたしの世話をしてくれていた女性に話してみたことがある。
女性は困ったような声を出すと「先生に聞いてみるわね」とだけ言って部屋を出て行ってしまった。
その後、その女性は二度とわたしの前に現れることはなかった。
新しくわたしの世話をするようになった女性はとても無口な人で、わたしが話しかけてもなにも応えてくれない。
いつしか、わたしは外に出たいと口に出すことはなくなっていた。
毎日、目を覚ましては栄養チューブからの点滴を受けて、無機質な声が聞かせてくれる物語に想いを馳せながら、意識を失うように眠る。
そんな他人から見たら、生きているとはとてもいえないわたしの無為で単調な生活は、ある日突然終わりを迎えた。
特別で衝撃的な出会いがあったとか、部屋が破壊されたとか、そんな物騒な出来事はなにもなかった。
ただ、単純に毎日のようにわたしの世話をしてくれていた女性が部屋を訪れなくなってしまったのだ。
わたしにとってそれは死活問題だった。この日わたしは初めて空腹というものを味わった。
「ーーお腹・・・・・・空いたな」
毎日決まった時間に一定の栄養を点滴で与え続けられていたわたしは、飢餓というものがここまで苦しいものだとは知らなかった。
「なにか・・・・・・」
ベッドから立ちあがり、何かを誰かを求めて歩き出す。
手探りで壁を伝い、いつも女性が入ってきていた方向を目指す。
手に僅かな取っ掛かりが触れる。それを横にスライドすると、また別の空間が現れた。
壁伝いに進む。するとまた壁に取っ掛かりがあった。
わたしはそれをゆっくりと横にずらす。
すると生暖かい外界の空気が体に纏わり付き、目には灼熱のような痛みが走った。
「っ⁉︎ーーなに? これ?」
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「君には世界がどう映る?」
それは懐かしい女性の声だった。目の前に現れたのは、長い棒のようなものが生えたなにかだった。
「ーーあ、え?」
少女は暫く呆然と立ち尽くすと、目をギュッと瞑り一言呟いた。
「ーー気持ち悪い」
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