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織田信長バトルロワイヤル

織田信長バトルロワイヤル

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 俺の名前は織田信長。歴史上の人物とは全く関係ないけど、親があやかって名前をつけたらしい。

 俺はとあるメッセージアプリをやっている。
 本名でやっているのになりきりアカウントみたいな扱いを受けて少しムカつく。

 まあ、アイコンは歴史上の織田信長の肖像画を使ってるんだけど。

 俺には最近悩みがある。俺と同じハンドルネームのアカウントがちらほら増えてきているのだ。

 真似しないで欲しい。まあ、俺が最初にこのハンドルネームを使い始めたわけでもないんだけど。

「げ、信長にフォローされた」

 アプリにDMが届く。

『貴様、我の名前を騙るとはどうやら命が惜しくないとみえる』

 やべぇ奴が来た。取り敢えず返信するか。

『貴殿こそ我が名を騙るとは一体何者か?』

『我は織田信長である。貴様こそ何者だ!』

 返信早いな。

『我こそは第六天魔王。織田信長である! 貴様どうやら、我が影武者の一人のようだな』

『影武者は貴様の方であろう。我は第六天魔王などと名乗った覚えはないわ!』

 ん? そうだっけ?
 ゲーム知識のせいで、そのへんうろ覚えだからな。
 取り敢えずめんどくさいからブロックしとくか。

 スマホを操作して、織田信長をブロックしますか? という表示のYESをタップする。

 そんな事がここ暫く続いていた。

 そんなある日、アプリの利用規約が改定された。

 内容を要約すると、同名のハンドルネームの使用を禁止するというものだった。

「お、これなら他の織田信長駆逐されるじゃん」

 楽観的に考えていた俺に、通知が届く。

 『あなたのアカウントは、プライバシーポリシーに違反している可能性があります。ハンドルネームを変更してください』

 なんだこれ?

「なんで俺が名前変えなきゃいけないんだよ!」

 納得のいかない俺は、異議申し立てを行う。
 しばらくすると、また通知が届いた。

『あなたのアカウントは、複数のアカウントから通報されています。通報者名「織田信長」「織田信長」「織田信長」「織田信長」』

「織田信長ばっかりじゃねぇか‼︎」

 結局、俺の異議申し立ては却下された。
 こうして俺は、馬鹿馬鹿しくなり、そのアプリをアンインストールした。

「はぁ、気分転換に飯でも食べるかな」

 適当にファミレスに入り、順番待ちの記入用紙に名前を記入し、しばらく待つ。

「お次の方、織田、信長・・・・・・様⁉︎」
 
 本名で記入すると、いつもはちょっと笑われるのだが、今日は少し反応が違った。

 なにをそんなに驚く事があるのだろう。
 織田信長なんて、それこそ誰でも思いつくようなありふれた名前だろうに。

 その時、俺の後ろで座っていた高校生が、

「はい。僕、織田信長です」

 と立ち上がった。それを聞いた隣の叔父さんが、

「は? 織田信長は私ですが?」

 と高校生を制す。

「いやちょっと待て、織田信長は俺だ」

 ファミレスでよくいるふざけた名前を書く人間が同時に二人も現れるとは。
 しかし今日の俺は虫の居所が悪い。

 アプリだけではなく、ここでも織田信長の偽物が現れるなんて。

「だいたい、ふざけた名前書いてんじゃねぇよ! こちとら何年織田信長やってると思ってんだ! お前らポッとでの織田信長とは年季が違うんだよ! 桶狭間で勝ってから出直してこい!」

「誰がポッとでですか! 私は昔からこの名前ですよ! 年季っていうならあなたのような若造こそ、本能寺で焼き討ちされてから出直してきてください!」

 おじさんが、聞き捨てならない事を言った。

「えっ? お二人とも織田信長って名前なんですか? 奇遇ですね実は僕もなんですよ」

 高校生が、俺たちの言葉を聞いて驚いたようにそう発言する。

「え? 本名? マジで?」

 どうやら、三人とも織田信長らしい。

 これも何かの縁と、三人で一緒にテーブル席につく。

「先程はすいませんでした。ちょっと嫌な事がありまして気が立っていたんです」
 
「織田さんもですか。俺も実はそうなんです」

 俺は、おじさんに頭を下げる。

「まあまあお二人とも、せっかくの食事ですし、楽しくいきましょうよ」

 高校生が、場を取り仕切っている。やるな信長君。

「ところで、嫌なことって何があったんですか?」

 注文したハンバーグを食べ進めていると、高校生が何の気なしに質問してくる。
 それにおじさんが後頭部をかきながら応える。

「実は、お恥ずかしい話、私メッセージアプリをやっていたんですが、この度アカウントを凍結されまして」

「えっ、そうなんですか? 実は俺もなんですよ!」

 おじさんが驚いたような顔をする。そして、恐る恐ると言った様子で、

「え、もしかして名前が理由だったりします?」

 と質問してくる。

「織田さんも、もしかして?」

「はい。本名でやっていたんですけど、規約の変更とかで同名のアカウントは凍結されるって通知がきまして」

 俺とおじさんはガシッと両手を握る。
 まさか、アカウント凍結の同士に出会うとは。
 まぁ、かなりメジャーなアプリだったから、ありえないことでもない。
 そう思い、もしかしたらと高校生の方を見る。

「もしかしてだけど、信長君もメッセージアプリやってたりした?」

「ああ、はいやってます。僕も本名で!」

 高校生は、共通の話題が出来て嬉しいのか、笑顔で話しだす。

「今回の利用規約の改定でなんかいっぱいアカウント消えたらしいですね!」
 
「そうなんだよ。やっぱり信長君も被害者だったか」

 おじさんは、はぁとため息をつくと、スパゲティを食べだす。

 俺は、気付いてしまった真実に、ニッコリと笑うとナイフを持つ手に自然と力が入るのを感じていた。
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