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少女想われる
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「それでは、婚約はこのまま進めるということでよろしいですね」
幼い頃からアルフォードの護衛を務め、その近侍としての役割も果たす、エドガルズが、話を進める。
「え、えぇ構いません。よろしくお願いします」
サクヤの両親は先程の娘の変わりように困惑しているようで、アルフォードに引っ付いて離れないサクヤの様子をしきりに伺っている。
「婚約! 婚約!」
「そんなに嬉しいのですか? サク?」
アルフォードは、小さな子どものように足をプラプラさせているサクヤを微笑ましそうに見ながら話しかける。
「うん! 私、婚約って初めて!」
サクヤは、ニコニコ笑いながらアルフォードの腕に自らの腕を絡ませる。
アルフォードは、それが満更でもないのか、頬を緩ませる。
サクヤの幸せそうな顔を見た両親は、胸を撫で下ろす。
自分達が勝手に決めてきた婚約だったとはいえ、最初は嫌がっていた娘が一国の王子と仲睦まじく話している現状は、彼らにとっても望むべきものだった。
「それでは、こちらの誓約書へ捺印をお願いします」
エドガルズが、羊皮紙に特殊なインクで書かれた誓約書を取り出す。
アルフォードは、自らの左手の手袋を外すと、薬指に針を刺す。
そして、血液の付着した薬指を誓約書に押しつける。
「なにしてるの?」
サクヤは、自らの指を傷つけるアルフォードを不思議そうな顔で見つめる。
「こうやって約束するんです。私と貴女がお互いを永遠に裏切らないことを」
サクヤはふーん。と興味深そうに成り行きを見守る。
「それでは、サク。次は貴女の番ですよ?」
アルフォードがサクヤを促す。
「なにが?」
サクヤは、疑問符を浮かべながら首を傾げる。
「なにが? ではなく、次は貴女がこれをするんです」
「え? 嫌だよ?」
その場の全員に緊張が走る。
「・・・・・・それはーー私との婚約が嫌ということですか?」
アルフォードが顔を青くしながら、恐る恐る質問する。
「? 違うけど?」
「え、違うとは?」
アルフォードは、困惑しながら質問を返す。
「だって私、お注射嫌いだもん」
「おちゅう、しゃ?」
「サクヤ⁉︎ これは注射とは違うのですよ?」
サクヤの両親がたまらず口を挟む。
「でも、痛いんでしょ?」
「痛くない痛くない。ちょっとだけ、先っぽだけ、ちょっとチクッとするだけだから!」
サクヤは、嫌そうな顔をしながら、そんな両親の顔を見つめる。
「本当にー?」
「本当本当。最初だけ!ちょっとチクッとするだけ!」
何故か必死に針を刺そうとする両親に、疑惑の目を向けながら、アルフォードの顔を見るサクヤ。
「私のために頑張ってくれませんか? サク?」
ガラス玉のような瞳に見つめられながら、アルフォードは微笑む。
「わかった。がんばる」
サクヤは腹をくくった。
そして、左手の薬指を出すと、右手に持った針を近づける。そして
「無理! 怖い! やっぱりやめる!」
「えぇ⁉︎ そんなことを言わずにお願いします! サク!」
サクヤは潤んだ瞳で、アルフォードを見上げる。
「じゃぁ、アルくんがやって?」
「私が、ですか?」
アルフォードは、ゴクリと生唾を飲み込む。
「わかりました。では、いきますよ?」
アルフォードは、サクヤの左手を優しく包むと、右手に針を持つ。そして、左手の薬指にゆっくりと近づけていく。
緊張からか、ハアハアと荒い息をする、アルフォードの頬を汗が流れる。
針の先が、白魚のようなサクヤの指に触れる。
「んっ」
くぐもったようなサクヤの声が漏れる。
「どう、ですか? 痛くないですか?」
「ぅん。ーー大丈夫みたい」
涙で潤んだサクヤの瞳に、アルフォードは自らの胸が高鳴るのを感じた。
「っで、では、ここに薬指を押し当ててください」
サクヤは、こくりと頷くと、左手を羊皮紙に触れさせーー
「ちょっと待ったー‼︎‼︎」
部屋のドアが勢いよく開かれる。
幼い頃からアルフォードの護衛を務め、その近侍としての役割も果たす、エドガルズが、話を進める。
「え、えぇ構いません。よろしくお願いします」
サクヤの両親は先程の娘の変わりように困惑しているようで、アルフォードに引っ付いて離れないサクヤの様子をしきりに伺っている。
「婚約! 婚約!」
「そんなに嬉しいのですか? サク?」
アルフォードは、小さな子どものように足をプラプラさせているサクヤを微笑ましそうに見ながら話しかける。
「うん! 私、婚約って初めて!」
サクヤは、ニコニコ笑いながらアルフォードの腕に自らの腕を絡ませる。
アルフォードは、それが満更でもないのか、頬を緩ませる。
サクヤの幸せそうな顔を見た両親は、胸を撫で下ろす。
自分達が勝手に決めてきた婚約だったとはいえ、最初は嫌がっていた娘が一国の王子と仲睦まじく話している現状は、彼らにとっても望むべきものだった。
「それでは、こちらの誓約書へ捺印をお願いします」
エドガルズが、羊皮紙に特殊なインクで書かれた誓約書を取り出す。
アルフォードは、自らの左手の手袋を外すと、薬指に針を刺す。
そして、血液の付着した薬指を誓約書に押しつける。
「なにしてるの?」
サクヤは、自らの指を傷つけるアルフォードを不思議そうな顔で見つめる。
「こうやって約束するんです。私と貴女がお互いを永遠に裏切らないことを」
サクヤはふーん。と興味深そうに成り行きを見守る。
「それでは、サク。次は貴女の番ですよ?」
アルフォードがサクヤを促す。
「なにが?」
サクヤは、疑問符を浮かべながら首を傾げる。
「なにが? ではなく、次は貴女がこれをするんです」
「え? 嫌だよ?」
その場の全員に緊張が走る。
「・・・・・・それはーー私との婚約が嫌ということですか?」
アルフォードが顔を青くしながら、恐る恐る質問する。
「? 違うけど?」
「え、違うとは?」
アルフォードは、困惑しながら質問を返す。
「だって私、お注射嫌いだもん」
「おちゅう、しゃ?」
「サクヤ⁉︎ これは注射とは違うのですよ?」
サクヤの両親がたまらず口を挟む。
「でも、痛いんでしょ?」
「痛くない痛くない。ちょっとだけ、先っぽだけ、ちょっとチクッとするだけだから!」
サクヤは、嫌そうな顔をしながら、そんな両親の顔を見つめる。
「本当にー?」
「本当本当。最初だけ!ちょっとチクッとするだけ!」
何故か必死に針を刺そうとする両親に、疑惑の目を向けながら、アルフォードの顔を見るサクヤ。
「私のために頑張ってくれませんか? サク?」
ガラス玉のような瞳に見つめられながら、アルフォードは微笑む。
「わかった。がんばる」
サクヤは腹をくくった。
そして、左手の薬指を出すと、右手に持った針を近づける。そして
「無理! 怖い! やっぱりやめる!」
「えぇ⁉︎ そんなことを言わずにお願いします! サク!」
サクヤは潤んだ瞳で、アルフォードを見上げる。
「じゃぁ、アルくんがやって?」
「私が、ですか?」
アルフォードは、ゴクリと生唾を飲み込む。
「わかりました。では、いきますよ?」
アルフォードは、サクヤの左手を優しく包むと、右手に針を持つ。そして、左手の薬指にゆっくりと近づけていく。
緊張からか、ハアハアと荒い息をする、アルフォードの頬を汗が流れる。
針の先が、白魚のようなサクヤの指に触れる。
「んっ」
くぐもったようなサクヤの声が漏れる。
「どう、ですか? 痛くないですか?」
「ぅん。ーー大丈夫みたい」
涙で潤んだサクヤの瞳に、アルフォードは自らの胸が高鳴るのを感じた。
「っで、では、ここに薬指を押し当ててください」
サクヤは、こくりと頷くと、左手を羊皮紙に触れさせーー
「ちょっと待ったー‼︎‼︎」
部屋のドアが勢いよく開かれる。
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