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暖衣飽食の夢

62. 評価と後悔

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セイファー歴 756年 9月28日

バルタザークは再びスポジーニ東辺境伯の陣地へと戻った。敢えてゆっくりとした歩みで。

東辺境伯の陣地は何やら慌ただしい様相を呈していた。バルタザークはフィーゴとコスタを連れてダドリックの元へと向かった。

ドゴス男爵の館の前に居る衛兵たちに素性を明かし、ダドリックに取り次いでもらう。入手つの許可が与えられるかと思いきや、ダドリックが館の中からこちらへと向かってきた。

「遅かったな」
「なにぶん遠い場所だったので」

バルタザークはダドリックの嫌味もどこ吹く風と受け流す。そして、自分たちが接収した食糧をダドリックに引き渡した。

「ご苦労じゃった」
「それは構いませんが、随分と慌ただしいですね」
「ああ。ようやくバルドレッド南辺境伯が現れたのよ。その数は一五〇〇だ」
「ほう。搔き集めてきましたな」

バルドレッド南辺境伯はスポジーニ東辺境伯よりも三〇〇ほど多く兵を集めていた。兵数が多い方が必ず勝利すると言う訳ではないが、戦は数であるという基本原則に則るとバルドレッド南辺境伯の方が優勢なのは間違いないだろう。

「それで、どうするんで?」
「それを今考えている最中じゃ」
「そうですかい。じゃあ決まったら連絡をば」

バルタザークは適当な敬語を使いながらフィーゴとコスタをダドリックに返し、ゲティスたちのところへと踵を返した。この時、この辺を潮時として撤退するのが良いのではと思っていたのは内緒だ。

◇ ◇ ◇

「どうじゃった。あやつは」

ダドリックは宛がわれた部屋にコスタとフィーゴを呼んでバルタザークの評価を尋ねた。先に口を開いたのはフィーゴであった。

「見た目とは裏腹に堅実で慎重な方ですね。そして狡賢い。まんまと乗せられてしまいましたよ」

今回のモカ村攻略戦でフィーゴ隊とコスタ隊は互いに一名ずつ死亡者を出していた。さらに二、三人は怪我を負っている。

それに対し、バルタザーク隊は死亡者はゼロ。怪我も軽傷で戦線を離れる者はいなかった。これは最初の突撃でバルタザークが担当していた西側の守備兵を南北に散らしたことが大きいだろう。

「そして冷静な判断も出来るようであったな。あの神父の悔しそうな顔と言ったら溜まらんかったわい」

確かに村人を奴隷として連れて帰っていれば食糧がなくなるだけではなくティモテ子爵の反感も買っていただろう。落としどころを分かっている男と言うのがコスタの意見であった。

しかし、モカ村は村人を助命したのだが、他の村はそうもいかなかったようだ。跡形もなく燃やされてしまったようだ。村人はどうなったのか知る由もない。

「そうか。覚えておこう」

ダドリックはバルタザークがそんなに有能なのであればセルジュに渡すのではなく自分の配下に加えれば良かったと後悔したと言う。
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