57 / 91
暖衣飽食の夢
54. 誤解
しおりを挟む
セイファー歴 756年 9月11日
ジョイたちが戻ってきた。どうやら走ってきたようで館に着いた瞬間に倒れ込んでしまった。ジョイがセルジュたちに何か伝えようとしているが声が出ない。
「落ち着けって。ほら、水だ」
ジェイクが水の入った器をジョイに渡す。それを一気に飲み干して深呼吸をしてからジョイは大きな声で報告した。
「た、大変なことになりましたぁー!」
ヴェルグとボルグを兵舎へと運び、セルジュとバルタザーク、ジョイとジョルトの四人は執務室に集まった。
「なるほど。話は分かった。つまり、ボクたちが討伐した賊がベルドレッド南辺境伯の配下のもので、スポジーニ陣営が報復に躍起になっている、と」
「うん、そうだよセルジュ」
セルジュが内容を確認してジョイがその内容を肯定する。ここでバルタザークとジョルトが口を挟んできた。
「となると、オレの考えが間違っていたってことか?」
「いえ、私もベルドレッド南辺境伯閣下の元に居りましたが、かような輩は見たことがございません」
「え?」
ジョルトの出自を知らないジョイが頭に疑問符を浮かべているが、セルジュは無視することにした。今、話を横道に逸らしたくないという思いからだ。
「ジョルト。悪いんだけどベルドレッド南辺境伯に確認をとって来てくれない? 実物が無くて困ると思うけど特徴を説明して何とか理解してもらって。逼迫した状況だと言うことを理解してもらってね」
「かしこまりました」
ジョルトは二つ返事で了承すると踵を返して執務室から退出した。早速向かうようだ。
「バルタザーク。最悪、どうなると思う?」
「そりゃ、最悪は戦だろうよ。こうなっちまっては東さんには大義名分があるからな。南さんに賠償を求めるだろうさ。そこで済めば御の字。済まなけりゃ……」
セルジュは頭を抱えた。父を失った戦が再び起ころうとしている事態に対して。
「……もし、戦となったら何人ぐらい引き連れて参戦すれば良いだろ」
「坊の爵位と領土から言うと一〇人は必須だな」
「そうか。じゃあ、今のうちから傭兵の手配をしなくちゃ。最低でも五人は必須だ。頼める?」
「わかった。知り合いのとこに声を掛けてみよう」
セルジュは戦には子どもたち――自分が子どもなのは置いていて――を連れて行きたくないと考えていた。となると、セルジュにバルタザーク、ダンドンとドージェとデグの三人で五人だ。半分足りない。
セルジュはバルタザークにスポジーニ東辺境伯からもらった報奨金を全て渡した。
「まだ戦と決まったわけじゃないけど準備しておいて損はないな」
『必ず最悪を想定して準備しろ』
父の言葉が思い出される。セルジュはこの事実を隣のリベルトにも伝えることにした。
セイファー歴 756年 9月12日
「それは事実か!?」
ベルドレッド南辺境伯がモパッサとその後ろにいるジョルトに詰め寄る。モパッサの長髪から垣間見れる瞳から当人の動揺が窺い知れる。
「誠にございます。現に我が主のセルジュ卿は戦の準備に取り掛かっております」
そのモパッサに代わって返答したのがジョルトだ。本来であれば許されない行為ではあるがジョルトはモパッサにも恩がある。半ば気を利かせた形となった。
「むぅ。俄かには信じがたいがな。どんな人物だと申した?」
「はっ。それは……」
ジョルトが状況を説明しようとしたところでベルドレッド南辺境伯の元に一人の衛兵が駆け寄ってきた。
「至急のご報告です! 城門前にスポジーニ東辺境伯の家臣であるダドリック殿が兵を引き連れて参られました!」
兵は神速を貴ぶとは正にこのことだろう。スポジーニ東辺境伯側はベルドレッド南辺境伯側に準備をさせない為に馬を乗り潰してきたのだ。ベルドレッド南辺境伯が重い口を開く。
「……要件は?」
「村を襲撃した件に関して、とのことです」
衛兵の回答を聞いてジョルトの発言が真実だと理解したベルドレッド南辺境伯は頭を抱えてイスに深く座り込んだ。
「応接間に通せ。今さら追い返すわけにもいかん」
ベルドレッド南辺境伯は頭を切り替えて服を正し、モパッサと共に応接間へと赴く用意をする。
「どうやら其方の報告は正しかったようだな」
ベルドレッド南辺境伯がジョルトに視線を移してそう呟く。ジョルトはただ頭を下げるばかりだ。そこでモパッサがベルドレッド南辺境伯に尋ねた。
「して、如何しましょう」
「どうするも何も向こうの言い分を聞いてみないことには何とも言えん」
ベルドレッド南辺境伯は置いてあった水を一気に飲み干してから、モパッサを連れて応接間へと足を向けていった。
ジョイたちが戻ってきた。どうやら走ってきたようで館に着いた瞬間に倒れ込んでしまった。ジョイがセルジュたちに何か伝えようとしているが声が出ない。
「落ち着けって。ほら、水だ」
ジェイクが水の入った器をジョイに渡す。それを一気に飲み干して深呼吸をしてからジョイは大きな声で報告した。
「た、大変なことになりましたぁー!」
ヴェルグとボルグを兵舎へと運び、セルジュとバルタザーク、ジョイとジョルトの四人は執務室に集まった。
「なるほど。話は分かった。つまり、ボクたちが討伐した賊がベルドレッド南辺境伯の配下のもので、スポジーニ陣営が報復に躍起になっている、と」
「うん、そうだよセルジュ」
セルジュが内容を確認してジョイがその内容を肯定する。ここでバルタザークとジョルトが口を挟んできた。
「となると、オレの考えが間違っていたってことか?」
「いえ、私もベルドレッド南辺境伯閣下の元に居りましたが、かような輩は見たことがございません」
「え?」
ジョルトの出自を知らないジョイが頭に疑問符を浮かべているが、セルジュは無視することにした。今、話を横道に逸らしたくないという思いからだ。
「ジョルト。悪いんだけどベルドレッド南辺境伯に確認をとって来てくれない? 実物が無くて困ると思うけど特徴を説明して何とか理解してもらって。逼迫した状況だと言うことを理解してもらってね」
「かしこまりました」
ジョルトは二つ返事で了承すると踵を返して執務室から退出した。早速向かうようだ。
「バルタザーク。最悪、どうなると思う?」
「そりゃ、最悪は戦だろうよ。こうなっちまっては東さんには大義名分があるからな。南さんに賠償を求めるだろうさ。そこで済めば御の字。済まなけりゃ……」
セルジュは頭を抱えた。父を失った戦が再び起ころうとしている事態に対して。
「……もし、戦となったら何人ぐらい引き連れて参戦すれば良いだろ」
「坊の爵位と領土から言うと一〇人は必須だな」
「そうか。じゃあ、今のうちから傭兵の手配をしなくちゃ。最低でも五人は必須だ。頼める?」
「わかった。知り合いのとこに声を掛けてみよう」
セルジュは戦には子どもたち――自分が子どもなのは置いていて――を連れて行きたくないと考えていた。となると、セルジュにバルタザーク、ダンドンとドージェとデグの三人で五人だ。半分足りない。
セルジュはバルタザークにスポジーニ東辺境伯からもらった報奨金を全て渡した。
「まだ戦と決まったわけじゃないけど準備しておいて損はないな」
『必ず最悪を想定して準備しろ』
父の言葉が思い出される。セルジュはこの事実を隣のリベルトにも伝えることにした。
セイファー歴 756年 9月12日
「それは事実か!?」
ベルドレッド南辺境伯がモパッサとその後ろにいるジョルトに詰め寄る。モパッサの長髪から垣間見れる瞳から当人の動揺が窺い知れる。
「誠にございます。現に我が主のセルジュ卿は戦の準備に取り掛かっております」
そのモパッサに代わって返答したのがジョルトだ。本来であれば許されない行為ではあるがジョルトはモパッサにも恩がある。半ば気を利かせた形となった。
「むぅ。俄かには信じがたいがな。どんな人物だと申した?」
「はっ。それは……」
ジョルトが状況を説明しようとしたところでベルドレッド南辺境伯の元に一人の衛兵が駆け寄ってきた。
「至急のご報告です! 城門前にスポジーニ東辺境伯の家臣であるダドリック殿が兵を引き連れて参られました!」
兵は神速を貴ぶとは正にこのことだろう。スポジーニ東辺境伯側はベルドレッド南辺境伯側に準備をさせない為に馬を乗り潰してきたのだ。ベルドレッド南辺境伯が重い口を開く。
「……要件は?」
「村を襲撃した件に関して、とのことです」
衛兵の回答を聞いてジョルトの発言が真実だと理解したベルドレッド南辺境伯は頭を抱えてイスに深く座り込んだ。
「応接間に通せ。今さら追い返すわけにもいかん」
ベルドレッド南辺境伯は頭を切り替えて服を正し、モパッサと共に応接間へと赴く用意をする。
「どうやら其方の報告は正しかったようだな」
ベルドレッド南辺境伯がジョルトに視線を移してそう呟く。ジョルトはただ頭を下げるばかりだ。そこでモパッサがベルドレッド南辺境伯に尋ねた。
「して、如何しましょう」
「どうするも何も向こうの言い分を聞いてみないことには何とも言えん」
ベルドレッド南辺境伯は置いてあった水を一気に飲み干してから、モパッサを連れて応接間へと足を向けていった。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる