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暖衣飽食の夢

49. 殲滅作戦

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セイファー歴 756年 9月7日

バルタザークが不傾館へと戻ってきた。そして戻ってくるなり兵士全員に休息を与え本人も自室に戻って高いびきをかき始めた。

事態が呑み込めず右往左往しているセルジュに遅れて到着したジェイクたちが事情を説明する。もちろん、青年も連れて。

「なるほど。アシュティア領の領主を務めておりますセルジュ=コンコール=アシュティアです。どこのどなたか存じ上げませんが助太刀ありがとうございました」
「いえいえ。偶々通りがかっただけです。さすがに子どもに人殺しはよろしくないとお節介ながら手助けした次第で。本当は領主に文句の一つでもと思ったのですが、領主さまも子どもではありませんか」

青年はおどけたような表情をする。なんだか掴みどころのない人物だ。

「人が足りてなくてね。ええと……名前は?」
「名乗るほどの者では。それでは急いでおりますので」

青年は言ってみたい台詞ランキングで必ず上位に食い込むであろう台詞を残して足早に去って行った。

「せめて何か恩返ししたかったんだけどなぁ」
「本人が要らないと言ってるのですから良いではありませんか。それより報告を続けても」
「あ、うん」

セルジュが不満そうに口を尖らすと、それを嗜めるようにジョルトが言い放って報告を続けた。賊は全員で十五人であることと五人を倒したことを告げた。

「それであの馬鹿が持ってるのが賊の剣と言う訳か」

ジェイクが賊から奪ってきた剣を一心不乱に磨いている。その剣は少し重たいが刀身は鏡の様に磨かれており一目で良いものだとわかる。ジョイはそんなジェイクを兵舎まで引き摺り無理やり休息をとらせていた。

「村へ報復する可能性は無い?」
「全くないとは言い切れませんが、彼の拠点には豊富に食糧があったので考えにくいでしょう」

かなり分の悪い賭けだとセルジュは感じていた。アシュティア村に兵士はおらず、攻め込まれてはこちらの分が悪い。だが、これはセルジュの杞憂に終わった。と言うのも普通であれば退いたバルタザークたちはアシュティア村に駐留していると考え、賊たちが手を出すのは躊躇われるだろう。

「問題は残り一〇人をどう片付けるか、ですね」
「うん、でもそれはバルタザークに任せよう。ジョルトも備えて休んでおいて」
「はっ」

ジョルトは短い返事を返して兵舎へと向かっていった。セルジュはこれに関してはもう関わるつもりはない。バルタザークを信じて一任するつもりであった。



「さぁ日が傾いてきた。今日で終わらせるぞ!」

バルタザークは全員を集めて開口一番にこう叫んだ。二十三人の兵士たちを集めてバルタザークは自身の考えをみんなに伝えた。

「いいか、まずはジョイと新兵の十一人で敵の前へと進みでる。そして新兵たちは一目散に逃げ帰れ。奴らは絶対に追ってくるから隠れていた残りの十二人の弓で蜂の巣にしてやれ」
「「はいっ!」」

統制のとれた返事が兵舎に響き渡る。それを踏まえて二十三名が準備を一斉に始めた。新兵は死傷率を少しでも下げるために装備を厚めにして武器を少なくする。

逆に十三人の仕留め役はというと矢を大量に所持していた。これで準備は万端である。

「よし、じゃあアシュティア村まで移動開始! 駆け足!!」

バルタザークの指示のもと月明りだけが照らす中、隊列を維持しながらアシュティア村まで駆けて行った。幸いにも村はまだ襲撃されていなかったので、村を拠点として賊の居場所を探ることにした。

前回同様、バルタザークは二人一組にして付近を捜索させた。賊は一時間もしないうちに見つかった。と言うのも、前回と同じ場所に居たからだ。

その報告を聞いたバルタザークは兵を潜ませる地点を探すことにした。兵を半分に分けて向かい合わせにすると同士討ちの危険がある。

そのため、深めの茂みの中に兵をLの字に配置して潜ませた。もちろん自分もここに隠れるつもりである。そしてジョイに指示を出すと、ジョイは新兵を引き連れて賊の前にわざと姿を現したのであった。
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