27 / 91
鰥寡孤独の始まり
26. 新たな拠点
しおりを挟む
セイファー歴 756年 3月25日
セルジュは無事に自領へと戻り、この日は新しい領主館のための地縄張りをしていた。新しい領主館はモットアンドベイリー式の館にしようと考えていた。
モットアンドベイリー式とは簡単に説明するとアシュティア領の丘陵周辺の土を掘りだして堀を作成し、その土で小山や丘に盛土をして頂上に櫓を組む砦のような館である。もちろん、この丘は防護柵か塀で囲み敵の侵入を阻む予定だ。
新たな館にも納屋と食糧庫も併設させる予定であった。それから購入したばかりの三頭のヤグィルも領主館で育てる予定だ。また、小さくても良いから畑も欲しいとセルジュは思っていた。
現在のアシュティア領の領民は二五〇名ほど。余裕を持って三〇〇名は入れるように地縄張りを行った。
「よし、こんなものかな」
セルジュが地縄張りを一段落させるとアシュティア村の方からジェイクとジョイが荷車を牽いてやってきた。
「おうセルジュ。久しぶりだな」
「やあジェイク。ジョイも」
昔の領主館に保存しておいた食料や資材を荷車に積み、こちらへと持って来てくれたようだ。
「アシュティア村の方はどうだ? 作業は進んでるか?」
「これが全く、全然だ。いまは十軒ほどできたぐらいのペースだよ。みんな畑を耕してるから遅々として進まないんだ」
そう答えたのはジョイ。両肩をすくめさせている。これで三割弱が完成したというところだろう。しかし村人がやらねばならないのは家造りよりも畑作りだ。食べるものが無ければ生きていくことも出来ない。これは正しい判断であったと思えた。
「じゃあ、みんなはどうしてるの?」
「ちょっと距離はあるがこれ幸いとお前が使ってた領主館と納屋を使って暮らしてるぜ。畑は言われた場所を耕してたぞ」
「そうか、それなら問題無いかな。畑優先で頼むと伝えておいてくれ」
そう言うとセルジュは自分で決めた掘に当たる場所を掘り始めた。再来月で六歳とは言え今から体力を作っておかないといけないという危機感はセルジュ自身も持ち合わせていた。
「オレたちも手伝うか?」
「いや、いい。二人はバルタザークの指示に従ってくれ」
セルジュはこの指示系統の問題でバルタザークにしこたま怒られた記憶があった。なので、セルジュは自身が指示を出せる兵が皆無の状態であった。兵の数を増やして近衛兵団を新設しても良いかもしれない。
セルジュが一人で作業をしていると日暮れ前にバルタザークたちがこちらへとやってきた。セルジュに新領主館の指示を求めてきたのでセルジュは告げた。また空堀からだ、と。
バルタザークたちが持ってきた資材の中にセルジュが戯れでつくった日乾煉瓦も含まれていた。セルジュは休憩ついでに日乾煉瓦と土で焚き火台をつくってみることにした。
バルタザークたちが一生懸命になって土を掘って丘を作っている中、セルジュもまた一生懸命になって焚き火台を作っていた。
何も遊んでいるわけではない。ここに館を築く以上、長期間滞在することになるのだ。食事くらいはしっかりしたものを用意してあげるべきだとセルジュは考えていたのだ。
「バルタザーク、みんなの練度はどれくらいだ?」
「まだまだだな。ジェイクとジョイの二人はそこら辺の奴らと同じくらいの強さだろうが、他はまだまだよ」
「そうか。じゃあ、まだ募兵はしなくて良いか」
「そうだな。今されると練度にバラつきがある二部隊を見なければならなくなる。それなら今のままだな」
「みんなが一人前になるには?」
「あと一年半は欲しい。それでも足りないくらいだ」
「わかった。焦らずに行くとしようか」
セルジュは頑張って空堀を造ってくれているみんなのために焚き火台を使って暖かい食事を用意するのであった。
セルジュは無事に自領へと戻り、この日は新しい領主館のための地縄張りをしていた。新しい領主館はモットアンドベイリー式の館にしようと考えていた。
モットアンドベイリー式とは簡単に説明するとアシュティア領の丘陵周辺の土を掘りだして堀を作成し、その土で小山や丘に盛土をして頂上に櫓を組む砦のような館である。もちろん、この丘は防護柵か塀で囲み敵の侵入を阻む予定だ。
新たな館にも納屋と食糧庫も併設させる予定であった。それから購入したばかりの三頭のヤグィルも領主館で育てる予定だ。また、小さくても良いから畑も欲しいとセルジュは思っていた。
現在のアシュティア領の領民は二五〇名ほど。余裕を持って三〇〇名は入れるように地縄張りを行った。
「よし、こんなものかな」
セルジュが地縄張りを一段落させるとアシュティア村の方からジェイクとジョイが荷車を牽いてやってきた。
「おうセルジュ。久しぶりだな」
「やあジェイク。ジョイも」
昔の領主館に保存しておいた食料や資材を荷車に積み、こちらへと持って来てくれたようだ。
「アシュティア村の方はどうだ? 作業は進んでるか?」
「これが全く、全然だ。いまは十軒ほどできたぐらいのペースだよ。みんな畑を耕してるから遅々として進まないんだ」
そう答えたのはジョイ。両肩をすくめさせている。これで三割弱が完成したというところだろう。しかし村人がやらねばならないのは家造りよりも畑作りだ。食べるものが無ければ生きていくことも出来ない。これは正しい判断であったと思えた。
「じゃあ、みんなはどうしてるの?」
「ちょっと距離はあるがこれ幸いとお前が使ってた領主館と納屋を使って暮らしてるぜ。畑は言われた場所を耕してたぞ」
「そうか、それなら問題無いかな。畑優先で頼むと伝えておいてくれ」
そう言うとセルジュは自分で決めた掘に当たる場所を掘り始めた。再来月で六歳とは言え今から体力を作っておかないといけないという危機感はセルジュ自身も持ち合わせていた。
「オレたちも手伝うか?」
「いや、いい。二人はバルタザークの指示に従ってくれ」
セルジュはこの指示系統の問題でバルタザークにしこたま怒られた記憶があった。なので、セルジュは自身が指示を出せる兵が皆無の状態であった。兵の数を増やして近衛兵団を新設しても良いかもしれない。
セルジュが一人で作業をしていると日暮れ前にバルタザークたちがこちらへとやってきた。セルジュに新領主館の指示を求めてきたのでセルジュは告げた。また空堀からだ、と。
バルタザークたちが持ってきた資材の中にセルジュが戯れでつくった日乾煉瓦も含まれていた。セルジュは休憩ついでに日乾煉瓦と土で焚き火台をつくってみることにした。
バルタザークたちが一生懸命になって土を掘って丘を作っている中、セルジュもまた一生懸命になって焚き火台を作っていた。
何も遊んでいるわけではない。ここに館を築く以上、長期間滞在することになるのだ。食事くらいはしっかりしたものを用意してあげるべきだとセルジュは考えていたのだ。
「バルタザーク、みんなの練度はどれくらいだ?」
「まだまだだな。ジェイクとジョイの二人はそこら辺の奴らと同じくらいの強さだろうが、他はまだまだよ」
「そうか。じゃあ、まだ募兵はしなくて良いか」
「そうだな。今されると練度にバラつきがある二部隊を見なければならなくなる。それなら今のままだな」
「みんなが一人前になるには?」
「あと一年半は欲しい。それでも足りないくらいだ」
「わかった。焦らずに行くとしようか」
セルジュは頑張って空堀を造ってくれているみんなのために焚き火台を使って暖かい食事を用意するのであった。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる