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第29話 呪い
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「お父様……」
目の前で魔族の尻尾で腹を貫かれた辺境伯を見てラシューラは声をあげた。
よくわからなかった。カンドリアの砦が攻撃を受けているため、援軍にむかったはずが途中で魔族の襲撃を受けた。ピンクの髪の魔族ペルシ。そう――なぜか魔族の四天王が目の前に現れ、ラシューラの部隊は一瞬で壊滅したのだ。
ラシューラも殺されそうになったところに助けにきてくれたのは父である辺境伯だった。けれどその辺境伯も、ラシューラを助けようとペルシとラシューラの間に入り、一瞬でわき腹を触手で貫かれた。
「あははっ♡ やっぱり助けにくると思ってたわ。辺境伯様。娘大好きちゃんだもんね」
魔族が触手に貫かれた辺境伯にペルシが笑う。
「貴様、よくも裏切ったな」
辺境伯がいうとペルシは「あははははっ」と大声で笑ったあと、「最初から殺す予定だったのだもの。裏切ったわ心外だわ。わたしあんたみたいな正義ちゃん大嫌いなの。娘を殺すのもあなたを待っていてあげたのよ♡ 目の前で娘が呪いの肉塊になるさまに絶望するがいいわ♡」
「お父様これはどういうことですか!?」
「どういうことも何も、辺境伯が私に従っていたのはあなたを人質にとられていたからよ」
ペルシが笑いながら言うと、辺境伯が「黙れ!!」と叫ぶ。
けれど、さらに触手が深く刺さり、辺境伯が苦悶の声をあげた。
「お父様!!」
「本当馬鹿よね。貴方が『呪いの肉塊』になるのを、防ぐために私の言う事を聞くしかなかったのに娘は常に反抗期♡」
「『呪いの肉塊』……死ぬことなく永遠に苦しまなければいけない魔族の呪い……うそ、わたくしが……? 何故です!わたくしはそんな呪いをかけられた覚えはありません!」
「あら、忘れちゃったの? 酷いわ?」
そういって、ペルシは美しい天使の姿になる。
その姿にラシューラは絶句した。
「……天使様」
「思い出した?」
そう――ラシューラは思い出した。幼い時、母が病気で伏せっているとき、天使に祈ると病気が治ると、城の地下室にこっそり忍び込んだ事を。
その時、母を治してくれると現れたのがこの天使だった。
天使に祈ったら、母は一時だけよくなった。
けれど、その後事故で無くなり遺体すら見つからなかった。
思わず、ラシューラは父を見る。
父が苦しそうな顔で、ラシューラに手を伸ばし――そこで全て思い出した。
そう、母はラシューラが地下に封印していた魔族ペルシの力を解放してしまい、肉塊と化してしまったことを。そしてまたラシューラも呪われたことも。
それなのに、その事実すらいままで忘れて居たことを。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ラシューラが叫んだ瞬間。
ぼこっ!!肌が盛り上がり、ラシューラの体まで変形していく。
「あはははははは♡ 貴方も母親と一緒の肉塊になりなさい♡ 母親の隣に並べてあげる!!」
ペルシの声が聞こえる。
「痛い、痛い、怖い、寒い、痛い、助けてお父様!!!」
ラシューラが壮絶な痛みに悲鳴にならない悲鳴をあげると、辺境伯が触手を切り払ってラシューラに抱き着いた。
「お…‥おとう さま」
ラシューラが痛みに父に抱き着くと、辺境伯の体までぼこぼこと黒く変形しているラシューラに飲み込まれていく。
「あら、肉塊と化してる娘にだきついて、何をするのかと思えばまさか一緒に肉塊になるつもり?」
ペルシが面白そうに笑う。
「ラシューラ、すまない。少しの間だ、少しの間だけ一緒に痛みに耐え抜こう」
そう言って辺境伯はラシューラを抱きしめ――叫んだ。
「秘儀:【天貫く神々の大槍 アレイデュラングレンド!!!】」
「あははっ♡死ぬ前に私に秘儀なんてそんなのむ……」
言いかけたペルシは息を呑んだ。
辺境伯が天より呼び寄せて神の槍が貫いたのは……辺境伯自身だったのだ。
「ちょ!? 一体何のつもり!?」
肉塊となしてしまったそれは決して死ぬことがない。そして術者が槍をしまわなければその槍も消える事がない。それなのに辺境伯は肉塊になりかけてる自分に神の槍を自らに刺したのである。
「一体何のつもりっっ!!!」
ペルシが叫んだ途端、辺境伯がにやりと笑い――そこでペルシは彼が何をするつもりなのか察した。彼はペルシしかできない肉塊になったのが辺境伯だということを、知らせるためにわざと、自らに秘儀を放ったのだ。
その秘儀の槍が突き刺さっている事が、肉塊が辺境伯だという目印になる。
そう――エルフの大賢者を介入させるために。
国の重要人物が四天王の秘術によって肉塊にされた。
それだけでエルフの大賢者が動く大義名分になる。
しかも辺境伯の召還した槍は、辺境伯が魔力が尽きるまで消えない。
そして肉塊は魔力がつきることはなく、あの槍は肉塊に刺さり続け、槍がある限り他者には肉塊は動かせない。
あの肉塊を消したければペルシが滅びるしかないのである。
「あんたっ!!!まさかそれが狙いだったの!?」
「何でも思い通りになると思うな!!!エルフの大賢者さえ介入できればお前達など、滅びるまでだ!!!」
どす黒く変色しながら辺境伯は笑い、すでに黒い塊になった娘を抱きしめた。
「大賢者様ならペルシを倒してくれるはずだ、それまでの辛抱だ――だから耐えよ、ラシューラ我がカンドリア家の誇りにかけて――」
それが辺境伯が意識を保っていられた最後の瞬間だった。
目の前で魔族の尻尾で腹を貫かれた辺境伯を見てラシューラは声をあげた。
よくわからなかった。カンドリアの砦が攻撃を受けているため、援軍にむかったはずが途中で魔族の襲撃を受けた。ピンクの髪の魔族ペルシ。そう――なぜか魔族の四天王が目の前に現れ、ラシューラの部隊は一瞬で壊滅したのだ。
ラシューラも殺されそうになったところに助けにきてくれたのは父である辺境伯だった。けれどその辺境伯も、ラシューラを助けようとペルシとラシューラの間に入り、一瞬でわき腹を触手で貫かれた。
「あははっ♡ やっぱり助けにくると思ってたわ。辺境伯様。娘大好きちゃんだもんね」
魔族が触手に貫かれた辺境伯にペルシが笑う。
「貴様、よくも裏切ったな」
辺境伯がいうとペルシは「あははははっ」と大声で笑ったあと、「最初から殺す予定だったのだもの。裏切ったわ心外だわ。わたしあんたみたいな正義ちゃん大嫌いなの。娘を殺すのもあなたを待っていてあげたのよ♡ 目の前で娘が呪いの肉塊になるさまに絶望するがいいわ♡」
「お父様これはどういうことですか!?」
「どういうことも何も、辺境伯が私に従っていたのはあなたを人質にとられていたからよ」
ペルシが笑いながら言うと、辺境伯が「黙れ!!」と叫ぶ。
けれど、さらに触手が深く刺さり、辺境伯が苦悶の声をあげた。
「お父様!!」
「本当馬鹿よね。貴方が『呪いの肉塊』になるのを、防ぐために私の言う事を聞くしかなかったのに娘は常に反抗期♡」
「『呪いの肉塊』……死ぬことなく永遠に苦しまなければいけない魔族の呪い……うそ、わたくしが……? 何故です!わたくしはそんな呪いをかけられた覚えはありません!」
「あら、忘れちゃったの? 酷いわ?」
そういって、ペルシは美しい天使の姿になる。
その姿にラシューラは絶句した。
「……天使様」
「思い出した?」
そう――ラシューラは思い出した。幼い時、母が病気で伏せっているとき、天使に祈ると病気が治ると、城の地下室にこっそり忍び込んだ事を。
その時、母を治してくれると現れたのがこの天使だった。
天使に祈ったら、母は一時だけよくなった。
けれど、その後事故で無くなり遺体すら見つからなかった。
思わず、ラシューラは父を見る。
父が苦しそうな顔で、ラシューラに手を伸ばし――そこで全て思い出した。
そう、母はラシューラが地下に封印していた魔族ペルシの力を解放してしまい、肉塊と化してしまったことを。そしてまたラシューラも呪われたことも。
それなのに、その事実すらいままで忘れて居たことを。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ラシューラが叫んだ瞬間。
ぼこっ!!肌が盛り上がり、ラシューラの体まで変形していく。
「あはははははは♡ 貴方も母親と一緒の肉塊になりなさい♡ 母親の隣に並べてあげる!!」
ペルシの声が聞こえる。
「痛い、痛い、怖い、寒い、痛い、助けてお父様!!!」
ラシューラが壮絶な痛みに悲鳴にならない悲鳴をあげると、辺境伯が触手を切り払ってラシューラに抱き着いた。
「お…‥おとう さま」
ラシューラが痛みに父に抱き着くと、辺境伯の体までぼこぼこと黒く変形しているラシューラに飲み込まれていく。
「あら、肉塊と化してる娘にだきついて、何をするのかと思えばまさか一緒に肉塊になるつもり?」
ペルシが面白そうに笑う。
「ラシューラ、すまない。少しの間だ、少しの間だけ一緒に痛みに耐え抜こう」
そう言って辺境伯はラシューラを抱きしめ――叫んだ。
「秘儀:【天貫く神々の大槍 アレイデュラングレンド!!!】」
「あははっ♡死ぬ前に私に秘儀なんてそんなのむ……」
言いかけたペルシは息を呑んだ。
辺境伯が天より呼び寄せて神の槍が貫いたのは……辺境伯自身だったのだ。
「ちょ!? 一体何のつもり!?」
肉塊となしてしまったそれは決して死ぬことがない。そして術者が槍をしまわなければその槍も消える事がない。それなのに辺境伯は肉塊になりかけてる自分に神の槍を自らに刺したのである。
「一体何のつもりっっ!!!」
ペルシが叫んだ途端、辺境伯がにやりと笑い――そこでペルシは彼が何をするつもりなのか察した。彼はペルシしかできない肉塊になったのが辺境伯だということを、知らせるためにわざと、自らに秘儀を放ったのだ。
その秘儀の槍が突き刺さっている事が、肉塊が辺境伯だという目印になる。
そう――エルフの大賢者を介入させるために。
国の重要人物が四天王の秘術によって肉塊にされた。
それだけでエルフの大賢者が動く大義名分になる。
しかも辺境伯の召還した槍は、辺境伯が魔力が尽きるまで消えない。
そして肉塊は魔力がつきることはなく、あの槍は肉塊に刺さり続け、槍がある限り他者には肉塊は動かせない。
あの肉塊を消したければペルシが滅びるしかないのである。
「あんたっ!!!まさかそれが狙いだったの!?」
「何でも思い通りになると思うな!!!エルフの大賢者さえ介入できればお前達など、滅びるまでだ!!!」
どす黒く変色しながら辺境伯は笑い、すでに黒い塊になった娘を抱きしめた。
「大賢者様ならペルシを倒してくれるはずだ、それまでの辛抱だ――だから耐えよ、ラシューラ我がカンドリア家の誇りにかけて――」
それが辺境伯が意識を保っていられた最後の瞬間だった。
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