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44話 夏休み (クライム視点・セディス視点)
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どこぉぉぉぉん!!
魔術王国に地下迷宮。クライムの放った魔法がモンスターを一瞬で灰にした。
本来ならスペシャルナイトを複数つれて入るべきモンスターの強い迷宮でクライムはダンジョン攻略をしている。
――やっぱり思った通りだ。僕のレベルと熟練度ならここなら楽勝。セレス様の修行は何一つ間違っていなかった――
と、敵をあっけなく倒してしまった自分の魔法の痕跡をみて確信する。
驚異的な熟練度の数値のおかげで、レベル以上の威力をだせる。
レベルは基礎的能力の強さであって技や魔法の威力は熟練度依存なのだ。
これなら戦い方次第では高レベル相手でも十分戦える。
だが、それだけで満足してはだめだ。
セレスの隣に立つには実力が足りなすぎる。
今魔王討伐についていっても足手まといになるだけだろう。
本当なら堕天使討伐もついて行きたかった。
だがクライムは自分の実力は熟知しているつもりだ。
自分など行っても足手まといになると。
――セレス様に追いつくにはせめてスペシャルナイトくらいのレベルは軽く超えなければ歩むことなどできない――
夏休み期間中、この迷宮で上げられるだけ上げなければ。
「行きましょうギル。夏休み中レベルを上げられるだけ上げておきます。
後からジャン達も合流することになっていますから、それまでに少し先行しておきましょう」
と、クライムが言えば、クライムの護衛は「はいっ」と、頷いた。
その様子を隠れて後ろからこっそりみていた国王直属のスペシャルナイトと魔術王国の国王は思う。
(もう一度聖王国に謝罪をいれておこう)――と。
■□■
「――はぁ」
機密文書を読んだ後、セディスは自室に戻りため息をついた。
セレスが王宮に居る間は護衛は別のスペシャルナイトに任せている。
機密文書を読んでシャティルがなぜセレスに事情を聴かないのか、それはわかった。
王族の中には極まれに前世の記憶を持って生まれるものがいる。
そして機密文書によればシャティルの兄もその一人だった。
古代に失われた技術や知識を時々言い当てる事があったのである。
彼の証言によればふとしたきっかけで思い出すのだとか。
それ故、その力を欲しがったシャティルの父や側近たちが、シャティルの兄から色々聞きだそうとし、精神が不安定になってしまった。
そして聞き出すのが難しいと判断した王族がやったことは――記憶を魔道具で無理やり覗くことだった。
結果は悲惨なものだった。
記憶を覗くどころか、覗こうと試みたスペシャルナイトと王子もろとも発狂して死んでしまったのである。
のちの報告で本人が記憶を思い出すまではそれに触れるべきではなかったという報告が上がっている。
シャティルの兄が死んだことは知っていた。
けれど公式には魔法の暴走で死んだことになっていたはずだ。
セディスはシャティルと小さい頃からの悪友で個人的に仲がよかったため、今でもあの頃のシャティルを思い出す事がある。
陽気な彼からは考えられない程人を拒絶していた時期があった。
今思えば、あの頃から前国王とシャティルの間に埋まらない溝ができたのかもしれない。
そして――セレスもシャティルの兄と同じ状態なのだとシャティルは見ているのだろう。
あの親馬鹿のシャティルがセレスに対してあれこれ聞く事はまずないだろう。
兄を失ったシャティルが無理強いをするとは到底思えない。
自分から言い出すまでは、待っているはずだ。
そして、セレスが以前言っていた「気がついたら口からでていた」というのも間違いではないのだろう。
会話中急に思い出し、それを前世の記憶とは知らず喋ってしまう。
大人でもその記憶が前世の記憶か今の記憶かいちいち確認するのは大変な事だろう。
10歳の年齢と言う事を考えれば、仕方ないのかもしれない。
今回の資料でセレスの不可解な行動もある程度合点がいった。
最近は友達の前ではばらしても問題ないと開き直っている部分もあるが……。
結局、何か言いそうになったら自分が止めるしかないのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
セディスは自分のベッドで大きな大きなため息をつくのだった。
魔術王国に地下迷宮。クライムの放った魔法がモンスターを一瞬で灰にした。
本来ならスペシャルナイトを複数つれて入るべきモンスターの強い迷宮でクライムはダンジョン攻略をしている。
――やっぱり思った通りだ。僕のレベルと熟練度ならここなら楽勝。セレス様の修行は何一つ間違っていなかった――
と、敵をあっけなく倒してしまった自分の魔法の痕跡をみて確信する。
驚異的な熟練度の数値のおかげで、レベル以上の威力をだせる。
レベルは基礎的能力の強さであって技や魔法の威力は熟練度依存なのだ。
これなら戦い方次第では高レベル相手でも十分戦える。
だが、それだけで満足してはだめだ。
セレスの隣に立つには実力が足りなすぎる。
今魔王討伐についていっても足手まといになるだけだろう。
本当なら堕天使討伐もついて行きたかった。
だがクライムは自分の実力は熟知しているつもりだ。
自分など行っても足手まといになると。
――セレス様に追いつくにはせめてスペシャルナイトくらいのレベルは軽く超えなければ歩むことなどできない――
夏休み期間中、この迷宮で上げられるだけ上げなければ。
「行きましょうギル。夏休み中レベルを上げられるだけ上げておきます。
後からジャン達も合流することになっていますから、それまでに少し先行しておきましょう」
と、クライムが言えば、クライムの護衛は「はいっ」と、頷いた。
その様子を隠れて後ろからこっそりみていた国王直属のスペシャルナイトと魔術王国の国王は思う。
(もう一度聖王国に謝罪をいれておこう)――と。
■□■
「――はぁ」
機密文書を読んだ後、セディスは自室に戻りため息をついた。
セレスが王宮に居る間は護衛は別のスペシャルナイトに任せている。
機密文書を読んでシャティルがなぜセレスに事情を聴かないのか、それはわかった。
王族の中には極まれに前世の記憶を持って生まれるものがいる。
そして機密文書によればシャティルの兄もその一人だった。
古代に失われた技術や知識を時々言い当てる事があったのである。
彼の証言によればふとしたきっかけで思い出すのだとか。
それ故、その力を欲しがったシャティルの父や側近たちが、シャティルの兄から色々聞きだそうとし、精神が不安定になってしまった。
そして聞き出すのが難しいと判断した王族がやったことは――記憶を魔道具で無理やり覗くことだった。
結果は悲惨なものだった。
記憶を覗くどころか、覗こうと試みたスペシャルナイトと王子もろとも発狂して死んでしまったのである。
のちの報告で本人が記憶を思い出すまではそれに触れるべきではなかったという報告が上がっている。
シャティルの兄が死んだことは知っていた。
けれど公式には魔法の暴走で死んだことになっていたはずだ。
セディスはシャティルと小さい頃からの悪友で個人的に仲がよかったため、今でもあの頃のシャティルを思い出す事がある。
陽気な彼からは考えられない程人を拒絶していた時期があった。
今思えば、あの頃から前国王とシャティルの間に埋まらない溝ができたのかもしれない。
そして――セレスもシャティルの兄と同じ状態なのだとシャティルは見ているのだろう。
あの親馬鹿のシャティルがセレスに対してあれこれ聞く事はまずないだろう。
兄を失ったシャティルが無理強いをするとは到底思えない。
自分から言い出すまでは、待っているはずだ。
そして、セレスが以前言っていた「気がついたら口からでていた」というのも間違いではないのだろう。
会話中急に思い出し、それを前世の記憶とは知らず喋ってしまう。
大人でもその記憶が前世の記憶か今の記憶かいちいち確認するのは大変な事だろう。
10歳の年齢と言う事を考えれば、仕方ないのかもしれない。
今回の資料でセレスの不可解な行動もある程度合点がいった。
最近は友達の前ではばらしても問題ないと開き直っている部分もあるが……。
結局、何か言いそうになったら自分が止めるしかないのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
セディスは自分のベッドで大きな大きなため息をつくのだった。
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