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4.最終章

15. 罠

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「……で、これは何の冗談だ?」

 謁見の間で。
 コロネに顔を間近に近寄せられてテオドールがうっとおしそうに呟いた。

「……いえ、私に男色の傾向が果たしてあるのかと疑問に思いまして」

 はぁーっとため息を付きながらコロネが言う。

「で、何故それを俺で試す?」

「貴方なら万が一にも間違いはおきませんから」

「いや、お前それ猫で試さなきゃ意味ないだろう」

「そ、そんな事出来るわけないじゃないですか!?」

 顔を赤くしていうコロネにテオドールがため息をついた。
 顔を赤くしている時点で答えがでているような気がするが、テオドールは面倒なので、あえてふれない事にする。

 その様子をアルファーとミカエルは無言で見守り……そういえば若いコロネは中身が女だと言うことを知らなかった事に気づく。

「で、アルファー、ミカエル実際どうなのだ?未来でこの二人は?」

 テオドールが聞けば

「答えられません」と、アルファー。
「マスターに直接聞け」と、ミカエル。

 どちらの天使も答える気はないらしい。
 下手に答えれば、猫が男色というあらぬ疑いがかけられてしまう。

 昨日、接吻の話をしたのはまずかったかもしれぬ。とミカエルが後悔するが、すでに話してしまったものは仕方ない。
 真剣に悩んでしまったコロネを見て、若人よ大いに悩むがよいと、わりと他人事でその様子を見守っていた。

「……人がいない間になにやってるんだ。お前ら」

 その様子を外から帰ってきた猫がいつのまにか謁見の間の上に開かれた窓から呆れた様子で見ている。

「ね、猫っ!?」

 顔を真っ赤にして慌てるコロネに

「いつからそこにいたのだお前は」

 テオドールはため息まじりに問う。

「うん。今日の夕飯な何にしようかな……あたり?」

「誰もそんな話は一度もしてない」

 猫の適当な答えにテオドールは眉間を抑えるのだった。


 △▲△


「それよりミカエル、また神力に変な感じがするやつが数人ちらほら混ざってきたんだが」

 と、そのままミカエルの前にぽとんと着地する。

「ああ。魔族だろうな」

 事もなげにミカエルが答えた。

「ちょ、知ってたのに黙ってたのか!?」

「お主が気づけるか、試しておかねばならないだろう?」

「くぅ。人を試すとかスパルタ教師か。で、どうするんだ?殺すのは避けたい」

 猫が恨めしそうにミカエルを睨めば

「何、我が精神世界で倒してくれば大丈夫だ。
 一度魂を魔族と人間に分離して倒せば死ぬことはない」

「じゃあ。倒しにいくのか?」

 猫の問いにミカエルは首をふり

「問題は何故魔族がそんなことをしているかだ」

「え?コロネを殺すためじゃ?」

「魔族は基本狡猾だ。
 既にグレイで手の内がばれている神力所持者に隠れるなどということを何故二度もしているのかが問題なのだ。
 天使がいるのに、既にバレている手の内でコロネが殺せると考えるほど魔族は能天気ではない。
 かといって、神力所持者に入り込むなど、かなり高位な魔族でなければ無理だろう。
 犬死させるために、させているとは考えにくい。
 何か意味があるはずだ」

「どんな意味があるのでしょうか?」

「ふむ、そうさな。奴らも天使がいる以上見抜かれるのは承知の上だ。
 天使である我を精神世界に呼び込んで捕らえるなり殺すなりする策があるか。
 もしくは、神力所持者に隠れているのは何かのカモフラージュで目的は別にあるのか。

 もしくは、そうせざるをえない何かがあるかだが……」

 言ってミカエルは目を細める。

「あちらもこちらが警戒するのは当然考慮にいれているだろう。
 もしくは、その警戒させること事態が目的かもしれぬ」

「警戒させることがか?」

 猫が顎に手をあて問えば

「ああ、高位の魔族なら我も見抜ける。
 だが、相手がエルギフォスならどうだ?奴が神力保持者の中に紛れていれば我でも探すのは難しい」

「……まさか、エルギフォスがすでに神力保持者の中にいるとでも?」

「いるかはわからん。が、いる可能性は高い。
 奴は魂だけでこちらにきたのだ。いま器がない状態だ。
 何かしら器を用意する必要があるだろう。
 神力所持者の中にエルギフォスが混ざっているのではないかという疑心暗鬼にさせるためかもしれん」

「ああ、つまり疑心暗鬼にさせてセファロウス戦の邪魔をしているかもしれないというわけですか。
 悪魔らしいやり口ですね」

 と、アルファーがため息をつく。

「そうさな。魔族も我らには魔族程度では相手にならないとわかっているだろう。
 照準を、セファロス戦にあわせてきている。
 ……もしくはそう思わせている。

 我らが疑心暗鬼になって、神力保持者を捕まえてどこかに幽閉すれば、セファロウス戦いの邪魔ができてよし。
 見抜かれないもしくは警戒して魔族に手出ししないでいれば、セファロウス戦でおそらく魔獣側につく。
 精神世界に我が乗り込めば、護衛の天使が精神世界に行ってるうちにと、残りのものがコロネを殺しにくる」


「……ですが、最後の案は私の存在がまるで無視されているようですが……」

 ミカエルにアルファーがジト目で睨む。

 ミカエルが精神世界に行っても、まだ天使のアルファーがいるのだ。
 アルファーがコロネの護衛につけばいいだけの話である。

「お主が頭の弱い子というのはあちらも見抜いているだろうよ」

 と、ミカエル。

「な、酷いです!?ミカエル様!!」

「だがお主は生粋の天使ではないのだ。どちらかというと戦闘特化であろう?違うか?」

「うっ!?」

 そもそもアルファーは元はといえばゲーム用につくられた守護天使である。
 ゲームで存在しない精神世界に対応できるほどの知識も経験もない。

「そ、それはミカエル様とて同じはずでは?」

「我は例のアレよりいろいろ習った」

「ああ、腹黒3号か」

 と、猫がジト目でミカエルを見る。

「その通りだ。アルファーには叩き込んでも無駄だと思ったのではないか」

 と、ミカエル。

「ううう。自分ももう少し考えるようにします」
 
 アルファーが悔しそうに項垂れる。

「まぁ、話が長くなったが、我らがどのような態度をとっても、それなりに奴らには利がでるように行動しているのだろう。
 これを踏まえた上でも、やはり我が魔族は倒しておくべきだろうな。
 セファロウス戦で邪魔される要素は一つでも減らしておいたほうがいい」

「最初言っていた、ミカエルに対する罠だった場合どうするんだ?」

「それは対策をしていくから心配ない。
 問題は我が不在になったとたん、エルギフォスが直接コロネに仕掛けてくることだが、そうなった場合、マスターとアルファーの二人に任せる。
 我が不在の間、この城に精神世界に呼び込まれないように結界は貼っていこう」

「つまり、このままエルギフォス戦になる可能性もあるのか?」

「そうさな。なるかならないかは……正直微妙だ。
 我がエルギフォスの立場なら一番混乱するであろうセファロウス戦で殺す事を狙うだろう。
 とにかく、あとは任せたぞ」

 言ってミカエルは結界を貼ると、そのまま白銀騎士団の方に向かうのだった。
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