上 下
127 / 187
3章 魔獣と神々

7. コロネ・ファンバードの過去イベント

しおりを挟む

「……もう時間がない」

 すでに朽ちかけた神殿のような場所で、神官服の男がボソリと呟いた。
 私はこの場所に見覚えがあった。そう聖水を汲みに行ったエルフの隠れ家の神殿だったのだ。
 そして神官服の男の顔を見やれば……確かにコロネだ。
 ただ、私の知るコロネより歳をとっているようにも見える。
 シワも多く、白髪もあるのだ。
 それでも、その精悍な顔立ちはコロネに間違いない。
 これがコロネのオリジナルなのだろうか?

 私は思わず、コロネに手を伸ばすが――するりとすり抜ける。
 他のゲームでのイベント同様、私はここに居ないことになっているらしい。

「……結局、私は何も出来なかった。
 神々が自らの命とともに異界の神々から、守った人間たちは……異界の神々にひれ伏し、見捨てられた」

 そのコロネの言葉とともに、部屋の中央の大きな水晶のようなモノに手を伸ばす。
 私たちが調べた時には何もなかった台座には水晶に入れられた人々が置かれていた。
 そしてコロネが見つめる水晶の中には――金髪の綺麗な女性が眠るようにその中に居た。

 コロネはその水晶の女性に話しかけるように、言葉を続ける。

 その瞳は――とても優しく……きっとこの女性の事が、コロネは好きなのだろうと思わせる。
 そんな表情だ。
 私はちくりと胸の痛みを感じる。
 うん。なんだろうこの感じ。
 ものすごくムカムカする。
 私のムカムカなど知る由もない、過去のコロネは、まだ言葉を続けている。


「本来の神々を退け、別の巨人より生まれし神々が世界を支配したことに、原初の巨人と審判の御子は判決を下した。
 この世界は近いうちに無にかえる。
 魂もなにも――すべて消え失せて存在自体なかったことになってしまう

 そうなる前にせめて――貴方達の魂だけでも――」

 コロネが言いかけたその時、急にコロネは何か気づいたかのように振り返る。

 そして――私と目があった。
 コロネが驚きの表情でこちらを見やる。
 
「――え?」

 いままでイベントムービーでなかった出来事に私は思わず固まる。
 イベントでこちらの存在を気に留めるなどということは決してなかったのだ。
 NPCが勝手にペラペラしゃべって終わりなのがイベントムービーのはずなのだが。
 なのに――
 
 過去のコロネは私を見て……そして認識している。
 先程まで触れる事すらできなかったのに。

「何故――貴方がここに―――」

 過去のコロネが私に手を伸ばし――ー


 △▲△

「猫様っ!!大丈夫ですか!!」

 コロネの心配そうに叫ぶ声で私は目を覚ました。
 いつの間にかコロネに抱きかかえられていたらしい。
 倒れた私の顔を心配そうに皆のぞき込んでいた。

「ネコっ!!よかった!!目覚ましたっ!!」

 よほど心配したのか涙目のリリが私に抱きついてくる。

「大分うなされていましたが、大丈夫ですか?猫様?」

 と、レイスリーネ。

「……ああ、うん。なんだか夢を見ていたらしい」

 私は抱きついてきたリリの背中をぽんぽん叩きながら立ち上がろうとするーーが、目眩にまたコロネに支えられてしまう。

「急激にレベルがあがったせいでしょうか?
 あまり無理をしないでください。もし、目眩がするようなら自分が猫様を運びます」

 と、コロネ。心配そうに私を見つめるその瞳は――恐らく本当に心配してくれている。

 ……でも。もしコロネに今見たことを話せば、コロネはあの女性を思い出すのだろうか?
 恋人か何かで捕まっているのだとしたら――
 その真相を探るために、もしかしたら私達の元から去ってしまうのだろうか?

 よくわからない不安がもやもやと心を占める。

「コロネ、審判の御子って知ってるか?」

 私の問いにコロネは眉根を寄せて――

「それは……ゲームの話か何かでしょうか?
 申し訳ありません、わかりません」

「じゃあ、原初の巨人は?」

 その問いにコロネは黙って首を横に振る。

 そして……私は何故か安心した。

 うん、ならまだ今見たことを話さなくてもいいよね。
 だってわからないんだから。ずるいのはわかってる。
 それでも――今は話したくなかった。
 
 そして、安心したのか――私はそのまままた意識を失うのだった。

 

 △▲△

「レベル1114だと……!?」

 私は上がったステータスを確認して……絶句した。
 特殊イベントをクリアしたおかげか、私もリリもコロネもレベルがきっちり+200されたのだ。

 私   レベル1114
 リリ  レベル1046
 コロネ レベル1037

 ちなみに、私たちはすでに帝都に戻り、城の中にあてがわれた部屋で休んでいる。
 私が目を覚ますと、安心したのかリリはすぐお昼寝タイムにはいり、守護天使達は魔獣セファロウスの放った魔素で生まれてしまったモンスターを倒しにいった。
 ザンダグロムは結局到着することなくコロネの指示で魔王にそなえエルフ領に帰ったらしい。
 いま部屋にいるのは寝ているリリと私とコロネだけだ。

「はい。
 それと、報告なのですが……」

 言ってベットに座っている私の前でコロネが何故か上着を脱ぎだした。

 え!?ちょ!?何故脱ぐし!?
 慌てまくる私を他所にコロネは上着を脱ぐと、シャツも脱ぐ。
 そして脱いだその先には――義手ではなく、神々の紋章の刻まれた右腕がコロネの腕にはあった。

「――何故か私の腕がアルファーの回復魔法で復元しました。
 魔獣セファロウスを倒したのが関係しているのかもしれません」

 と、コロネ。
 ああ、それを見せたかったのか。
 なんだ。物凄くびっくりした。

「おお!?やったなコロネ!おめでとう!!」

「はい。――ただ」

「……ただ?」

「背中に別の紋章ができました。
 猫様はこの紋章が何かご存知でしょうか?」

 言って、コロネが背中を見せれば――確かに以前はなかった紋章がコロネの背中に刻まれている。
 私はじっとその紋章を見つめ――


「………うん。わからん」

 いや、でもどこかで見たことある気もする?
 どこだったっけ?
 なんか中央のちっこい模様がゲームの中で見たことある気がするんだよなぁ。
 罠関連で似たようなのがあった気がする。
 でも罠なら全部文様丸暗記してるしなぁ。
 確か神様関連だった気がするんだけど。

「コロネ、もうちょっと近くに」

「あ、はい」

 コロネがベットに寄りかかり私に近づこうとしたその瞬間

「コロネ様、少しよろ……」

 何故か窓から入ってきたアルファーが言いかけて、その言葉を止める。

 ベットに乗った状態で上半身裸のコロネと私を見比べ――

「も、申し訳ありませんでしたっ!!」

 と、顔を真っ赤にして飛び去ろうとする。
 うん。ちょっと待てや。
 思いっきり勘違いして飛び立とうとするアルファーを私は罠のロープで捕縛した。

「だ、誰にも言いませんからっ!!」

 と、まだ勘違いしてるアルファーに、やっと状況を理解したのか

「そ、そういう事をしていたわけではありませんっ!!」

 コロネが顔を赤くして反論するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。 ※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~

雨露霜雪
ファンタジー
底辺貴族の末っ子で七歳の少年であるブリッツェンへと転生した、三十五歳で無気力なライン工。 魔術の才能がない彼は、公言するのは憚られる魔法の力があるのだが、それを隠して生きていかねばならない。 そんな彼が様々な人と巡り合い、時には助け時には助けられ、エッチな妄想を抑えつつ十、二十代と心がじっくり成長していく様を描いた、日常的まったり成長記である。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しております。 ※第五章から、小説家になろうに投稿している原文のままですので、ルビや傍点が見辛いと思います。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

転生先は魔王の妹?〜蕩けるほど愛される〜

みおな
恋愛
 私は公爵令嬢の娘として生まれ、10歳の時、王太子殿下の婚約者になった。  だけど、王太子殿下は私のことがお嫌いのようで、顔を合わせれば睨まれ、怒鳴られる毎日。  そんな関係に疲れ果て、私から笑顔が消えた頃、王太子殿下には好きな女性ができたようだった。  所詮は、政略結婚の相手。 相手の気持ちなど求めないと決めて、王太子殿下の浮気も放置していたのに、彼は私に婚約破棄を言い渡した挙句、私の首を刎ねさせた。  そして、目覚めた時ー 私は見知らぬ城にいた。そして傍には、黒髪黒目の・・・魔王と呼ばれる男がいたのだった。

処理中です...