上 下
101 / 187
2章 人間領へ行くことになりました

19.カシューのクエスト

しおりを挟む
「この洞窟に入るときに唱えた呪文ですが……
 あれは私とテオドール、そしてグラッドが幼い時に3人で作った秘密基地に入る時の合言葉と一緒です。
 3人で適当に言葉を組み合わせて考えた言葉でした。
 ……おそらく、この洞窟の入口を作ったのは、グラッドのオリジナルでしょう。
 既に壊れて作動しなくなっていましたが、あの入口の前には、扉を認識できないように幻覚を施す魔道具が置いてありました」

 グラッドの墓の前で。
 コロネはしゃがみながらそう告げた。

「……えーと、つまり?」

 リリがよくわからないようで小首をかしげる。

「1000年前。異界の神と神々の戦いが起きたとき、何かしらの理由で世界は滅んだのだと思います。
 そして、神々は滅んでしまった世界を再生させた。
 理由はわかりませんが、神々は再生させたときに世界をゲーム化したのでしょう。
 今まであった世界をそのまま手本とした世界をゲームとして復活させた
 以前そこに存在していた人間やエルフの記憶を植え付け、NPCとして記憶と役目をあたえ……それをそのまま世界に適用させた。
 ですから、この墓に眠るグラッド達がオリジナルで、いま生きているグラッドやサラたちは偽物、猫様の世界の呼称で呼ばせていただくならレプリカです」

 と、コロネ。
 確かにそれが今のところ一番しっくりくる。
 それならばここに墓があるのもうなずけるのだ。

「うーーん。よくわからないけど、じゃあ、リリの友達のサラ達 死んでない?無事?」

 リリが小首をかしげながらコロネに聞けば

「はい。リリ様が遊んでいるサラやロロ、ルーベルトは死んでいませんよ」

 と、コロネが答え

「よかった!!!リリと仲良しのサラ達無事!!」

 と、にっこり笑う。コロネは一瞬面食らったような顔をしたあと

「………そうですね」

 と、ニコニコ顔のリリの頭を撫でてやった。

「うん。そうだな。
 仲良くなったのは今のサラ達だもんな」

 言って私もリリの頭を撫でてやる。
 コロネには……正直なんと声をかけていいのかわからなかった。
 
 自分が本当は作り物だと知ったら、自分ならどう思うだろう?

 わりといまなら、別にそれでもいいと思ってしまうのは所詮人事だからなのか。
 それとも実際もしそうなら落ち込んでしまうのか。
 自分にはよくわからなかった。
 コロネはどんな気持ちなのだろう?

 私がそんな気持ちでコロネを見ていれば彼はリリににっこり微笑んだ。

「ですが、リリ様、このことは他の誰にも言ってはいけませんよ?
 私たちだけの秘密です」

 と、コロネがしーっと指をたてて口元でやれば、リリが「おぉぉっ」と目を輝かせて

「秘密!
 大丈夫リリ絶対秘密守る!」

 と、ふんむーと言わんばかりにガッツポーズをとるリリちゃん。
 少しコロネの表情が緩むのがわかった。
 こういう時、無邪気な子供というのは強いのかもしれない。

「探せば、私のオリジナルの墓もどこかにあるのかもしれませんが、今はそれよりも聖水を優先しましょう」

 と、コロネがポンポンとローブの汚れを払う。

「ああ、そうだな」

「ああ、ですがピンクスライムとブルースライムは是非一度、倒してみたいですね。
 古文書や日記などは今でもドロップするのでしょうか?」

 そう告げるコロネの顔は……いつもの好奇心旺盛なコロネの表情に戻っていた。


 △▲△

「エルフの日記はドロップしませんでしたね」

 墓地を抜けたその先の通路で、わらわらと湧いたピンクスライムを問答無用で魔法で全部ぶっぱなしたあと、宝箱を物凄い勢いで開けていたコロネが落胆したかのように言う。

「まぁ、クエストアイテムはクエストを受理してないとドロップしないしな」

「では今からカシューのところへ!!!」

 どこかへ イソイソと行こうとするコロネの首根っこを掴むと

「もう死んでるだろ。300年前の話だぞ」

「それならば、子孫の所へ行きましょう何か所持しているかもしれませんっ!!」

「君は本来の目的を忘れてないかなー?」

 と、私がコロネに凄めば、「まさか、ははは」と露骨に視線を逸らした。
 うん、こいつきっと忘れてたわ。

「あ、コロネ!あっちにもピンクスライム」

 リリが言うと笑顔で問答無用で魔法をぶっぱなすコロネを見つつ、元に戻ってよかったんだか、悪かったんだかと私は頭をかかえるのだった。


 △▲△

「結局ドロップはありませでんでしたね」

 聖水の泉の前で鎮座するブルースライムを倒してコロネが落胆したかのように呟いた。
 うん。本来の目的はその奥の聖水の泉のはずなのだが、コロネの中ではすっかり、過去に何があったかの方に興味が移ってしまっている。
 探究心が強いのはいいことだが本来の目的を忘れてるのはいかがなものか。

「ねーねーネコ、この泉が全部聖水?」

「ああ、そうだ。これダンジョン産だから消費してもまた湧くと思うんだが」

 私が覗き込みながら言えば

「そうですね。後で検証してみる必要があります」

 とりあえず今は持てるだけ持って帰りましょう。コロネが言って、モンスターの皮でつくった水筒をいくつも取り出した。
 一応魔道具で見かけよりずっと量が入るらしい。

「に、しても、国中に配る量を私たちだけで運ぶっていうのはキツイものがあるな」

 私が言えばコロネは頷いて

「そうですね……エルフの騎士のレベルを上げて彼らに頼んだ方がいいかもしれません」

「人間の領土の事をエルフに頼めるのか?」

 私がふと疑問に思って言えば

「あまりいい顔はされないと思いますが……。
 人間のレベルを上げるくらいなら、と引き受けてくれるでしょう。
 それなりの報酬はもちろん人間に請求させていただきますが」

「なら確かにエルフのほうがいいな。
 人間だとどうしても寿命が短いし」

 などと、コロネと私で話していると

「ネコー!こっちの扉は何があるのー?」

 と、泉の奥に扉を発見してリリが叫ぶ。

「ああ、そこは人が住んでいた形跡の遺跡があったはずだけど……
 とくにめぼしいものはなかったはずだが」

「遺跡ですか!?」
 
「……行きたいのか?」

 私がジト目で睨めばうっと言う表情になる。
 が、好奇心には勝てなかったようで

「猫様、今後この場所に聖水を取りに来る者達のためにもきちんと最後まで遺跡をそれはもう隅々まで調査すべきだと思います!」

 いかにも今まとってつけたかのような、理由を言うコロネ。
 本人も欲望を隠すつもりはあまりないらしい。

「あー、わかったわかった。じゃあ行ってみるか」

 私が言えばコロネは嬉しそうに頷くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

《異世界ニート》はニセ王子でしかも世界最強ってどういうことですか!?

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
秋月勇気は毎日筋トレしかやることのないダメニート。そんなある日風呂に入っていたら突然異世界に召喚されてしまった。そこで勇気を待っていたのは国王と女宮廷魔術師。二人が言うにはこの国の家出していなくなってしまったバカ王子とうり二つの顔をしているという理由だけで勇気をその国の王子になりすませようということだった。

【完結】スライム5兆匹と戦う男

毛虫グレート
ファンタジー
スライムくらいしか狩れない雑魚魔法使いレンジはまたパーティを追放された! もう28歳だよ。二十歳そこそこの連中に老害扱いされはじめてんのに、一向にレベルも上がらない。彼女もいない。なにやってんの。それでいいの人生? 田舎町で鬱々とした日々を送るそんなレンジの前に、ある日女性ばかりの騎士団が現れた。依頼はなんとスライムを倒すこと。 おいおい。俺を誰だと思ってんだ。お嬢ちゃんたち。これでも『雷を呼ぶ者』と呼ばれた偉大な魔法使い、オートーの孫なんだぜ俺は! スライムなんていくらでも倒してやるYO! 20匹でも30匹でも持って来やがれ! あと、結婚してください。お願いします。 ............ある日突然、スライム5兆匹と戦うことになってしまった男の、絶望と灼熱の日々が今はじまる!! ※表紙画像はイラスト自動作成のhttps://www.midjourney.com/ にてAIが描いてくれました。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...