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1章 異世界に召喚されました

60話 国王陛下

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「……にしても、精神世界でちょっとリュートの過去の記憶を見たけどリュート王子って何か母親に問題でもあったのか?」

 リリを起こさないように隣の部屋に移動して私が聞けば、コロネが温かい紅茶をいれてくれる。

「はい、彼女の母親は前国王の第三夫人だったのですが……。
 人間の男と駆け落ちしたと聞いております」

「ああ、なるほど……」

 言って私は紅茶を一口すすり、

「それにしても、あの魔族達の狙いはわかったのか?」

 私が聞けば、コロネは首を横に振って

「魔族達の話をそのまま鵜呑みに信じるならば、魔王復活が彼らの目的だったのでしょう。
 それならば、国王陛下を狙いにきた理由も、祭りに来ていた人々の魂を集めようとした理由も納得できます。
 多くのエルフの魂とエルフの国王の魂を捧げれば、魔王であれば、結界を破る力を得られる可能性も十分ありますから。

 ですが、魔族が本当の事を言っているとは限りませんので」

「結局わからないってことか」

 私が紅茶を飲みつついえばコロネが頷く。
 うん。精神が落ち着くという紅茶は美味しい。
 やっぱり王宮にあるお茶は一味違うのだろうか。

「で、セズベルクはどうなったんだ?」

「勿論牢に投獄されました。
 彼はそれだけの罪をおかしていますから」

 その言葉に私は息を飲む――

「……ひょっとして、私がリュートのレベルを上げたから、あんな犯罪をムキになっておこしたのか?」

 そう。もしそれが理由なら、今回の事件の責任は私にあるともいえるのだ。
 だが、コロネは首を横にふって

「猫様がこの世界に転移してくる前から、セズベルクは魔族と接触していました。
 魔族は結界内にいるにもかかわらず言葉巧みにセズベルクを騙していたようです。
 カルネル山には三人の魔族が居た記述の古文書も彼が王族の立場を利用して70年以上前から隠し、その古文書の内容を知る神官も殺していましたから。
 猫様は無関係です」

 コロネの言葉に私は胸をなでおろす。
 助かったとはいえ、自分のせいであんな大勢の人が殺されそうになったとかは寝覚めが悪すぎるし。

「なんでセズベルクはそんな事をしたんだ?」

 私の問いにコロネはため息をついて、

「話は先程のリュートの母親の話に戻ります。
 前国王の正妻であったセズベルクの母親、第一王妃が狂ってしまったのも、リュートの母親が第三王妃として迎え入れられてからです。
 リュートの母、レスティアは国王に寵愛されていたと聞きます」

「――つまるところセズベルクの母親の嫉妬?」

「はい。そうなりますね
 セズベルクの母親、第一王妃ははそれから狂ってしまいました。
 いままで自分が一身に受けていた寵愛が別の女性に移ってしまったことを認められなかったのでしょう。
 そして――憎しみのあまり魔族と契約してしまったのです。
 そういった意味ではセズベルクも被害者と言えるかもしれません。
 彼も母のせいで魔族の思惑誘導をずっと受けていたようですから」

 言ってコロネはコーヒーを一口すする。

「詳しくは今取り調べているところです。
 魔道具で自供させているはずでしょう」

「なるほど……でもさ、コロネ」

「…はい?」

「何で前国王の子達がいま第一王子とかやってるんだ?
 今の国王の子供が普通王子扱いじゃ?
 この世界の王位継承っていったいどういう扱いなんだ?」

 私が言えば、コロネの顔が引き攣り

「それにはいろいろ事情がありまして……」 
 
 と、コロネがため息をつくのだった。


 △▲△

「猫まっしぐら様。リリ様お二人にお会いできて光栄です」


 華やかな髪飾りに煌びやかなドレスを着た女性が上品な笑顔で微笑んだ。
 そう、国王陛下と呼ばれていた、金髪美女で現国王フェルデル・エル・サウスヘルブだ。
 めちゃくちゃ美人で女に見えるが――元は男だったらしい。
 元々女装趣味があったのだが、プレイヤーの持っていた性転換の薬で女になってしまったとのこと。

 私はいま、国王陛下とやたら豪華なテーブルでお茶をしながら話を聞いていた。
 テーブルにはズラリとお菓子がおかれ、私とリリが席に付き、その横にはコロネが控え、国王の後ろにはリュート達が立ったまま控えている。
 コロネがいままでは国王陛下でも猫様はそういった事が嫌いですから、と国王に会うのをガードしていてくれたらしいのだが……。
 流石に命を助けられてお礼一つできないのでは……と、国側の要請を流石のコロネも今回は断れなかったらしい。

 結局妥協点として、こうしてお茶会という形で会うことになったのだ。

 この国王、コロネの話だと結婚を嫌っており、我が子に王位継承の争いをさせたくないと、子供を作るのを拒否しているらしい。
 因みに現国王は前国王の兄弟で、前国王の子ではないとのこと。
 第一王子のセズベルクがまだ成人しておらず魔力量がたりず、当時は国王になれなかったらしいのだ。

 ……まぁ、リュートとセズベルクの関係を見ていれば、子供作るのを嫌がるのもわからんでもない。

「この度は我国の不祥事に猫まっしぐら様を巻き込んでしまい……」

 言って国王陛下は悲しげにセンスで顔を隠しながら、長々と謝罪を述べる。
 その憂いを含んだ瞳はとても儚げで……。
 うん。マジ女性。マジ美人。
 元男性なのに、私より女子力高そう。

 セズベルク関連の謝罪といままでエルフの国を助けてきたことのお礼を一通り言われ、にっこり微笑まれる。
 きっと男性の時から美形だったのだろう。めちゃくちゃ妖艶の美人さんだ。

 しかし国王からお礼とか。やばい。全然頭に入ってこないんですけど。
 私が冷や汗だらだらな所、リリの方が堂々としたもので、テーブルに置かれたお菓子をパクパク食べていた。

『お菓子美味しい でも ネコのお菓子のほうが おいしかった』

 などと、呑気にパーティーチャットで感想を漏らすほど余裕である。

 ある意味一番リリちゃんが肝が据わっていると思う。


「さて、形式的な挨拶はここまでに致しましょう。
 猫まっしぐら様は堅苦しい事は好まないとお聞きしましたので、これから先は無礼講でもよろしいでしょうか?」

 先ほどまでよりずっと砕けた口調で女王もとい国王が言い、にっこり微笑む。

「ええ、そちらの方が助かります。
 それと呼び方も猫で結構です」

 私の答えに、国王は微笑んだ後、目配せで部下達に合図を送る。
 エルフの高官達は皆一礼してぞろぞろと部屋から退出しだした。

 残ったのは私とリリ、女王  (もうこっちでいいや)にリュート、コロネの五人。

「警備は構わないのですか?」
 
 私が聞くと

「ふふ。ご冗談を。猫様達に手に負えない相手が来としたら、私の部下ではそれこそ手も足もでません
 私は今こここそが世界で一番安全な場所だと思っておりますわ」

 答える女王。
 私は曖昧に愛想笑いで返した。
 言葉の中には私たちが何か変な気を起こすことなど微塵も心配してませんよアピールも含まれているのだろうか?
 これが噂の上流貴族のやり取り(キリッ)かもしれない。
 何か気の利いた言葉を返すべきなのかもしれないが
 日本に生まれた平々凡々の私には貴族のやり取りとか無理です。勘弁してください。

「それにしても……本当に猫様は無欲ですね。
 こちらとしても何か謝礼をさせていただきたかったのですが」

 と、センスごしに女王が言うが

「いえ、特に欲しいものもありませんので」

 と、私が答える。

 いや、だってマジお金はいらないし、コロネの話だとエルフの秘宝も、ダンジョン産のアイテムと比べてしまうとゴミ当然って話だからなぁ。
 領土とかくれるとか言われても統治できるわけじゃないから困るし。
 欲しいモノが何も思い浮かばない。

「それでは、謝礼というには心もとないのですが……
 このような物を用意させてみましたが、もし宜しければお納めくださいませ」

 言って、女王が、リュートに合図をし、リュートが布に包まれた何かをテーブルの上においた。
 そしてその布をぱっと外せば……そこにあったのは中二病心をくすぐる、見かけがものすごくカッコイイ武器の数々だった。
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