55 / 187
1章 異世界に召喚されました
54話 家族
しおりを挟む気が付けば――白い空間に浮いていた。
隣には気を失った状態のリュート王子がぷかぷかと浮いている。
ああ――前にコロネときたことがある。精神世界だ。
コロネが念のためと精神世界の防御用の腕輪を作ってくれていたので、意識を乗っ取られることはないはずだけど――。
『ネコ!?大丈夫!?』
『猫様っ!!』
リリとコロネの声が念話で聞こえてくる。
どうやら念話はそのまま通じてくれるらしい。
『なんとか、大丈夫。それよりもリリ、自分をここからだせそう?』
精神世界なので女の姿に戻ってしまった私が問うた瞬間。
リリとコロネの思考だろうか。外の様子がダイレクトに脳の中に入ってくる。
魔族ジルがリリとコロネの前に立ちふさがっているのだ。
ああ!?ヤバイ!?
あの二人はレベル800だ。
ジルにダメージを与えられない!!早く精神世界からでなきゃ!!
『リリっ!!はやく私達を外に!!』
『ダメっ!!誰かが邪魔してて、ネコひっぱれない!!』
リリが悲鳴に近い声をあげ――
「無理だ。もうあのプレイヤーはこちらの世界には戻れない」
外の世界で魔族ジルが、リリとコロネに無情な事実を告げる。
ってか、いやいやいや。信じちゃだめだ。
ここは精神世界。信じたら本当になちゃうし。
「まさかそんな戯言を信じるとでも?」
コロネが問えば、魔族ジルがニヤリと笑って
「ではなぜ、そのホワイトドラゴンは、さっさとあのプレイヤーを連れ戻さない。
戻せなかったのではないか?」
魔族の言葉にリリがぴくりとなる。
「リリ様。魔族の言うことを信じてはいけません。ここも精神世界化しかけています、信じればそのようになってしまいます」
コロネが言うが
「でもっ!!魔族が言う前に、リリ、ネコ引っ張れなかった!!」
「当たり前だ。マーニャが生きている限りあそこからはでられない。
外から連れ戻す事は不可能だ。
あのプレイヤーは永遠に精神世界で苦しむ事になる。
見たくもない過去を永遠と繰り返されるのだ」
ジルが言ったその瞬間。
ふと、私は気配を感じ振り返る。
そこには――水ぶくれで変わり果てた姿の、両親と兄が、立っているのだった。
▲△▲
ああ――よくあるやつだ。
漫画とかアニメで。
幸せだった頃に戻れて、でもそれは全部幻で。
最終的には一番見たくなかった、両親の死と兄の死を見せつけられる。
アニメや漫画でありきたりなそのシーン。
私は今、その中にいた。
見渡せば、そこは昔私が暮らしていた家で。
気が付けば、私は高校生だったときに戻り、両親と兄と、幸せに暮らしていた時に戻っている。
「楓、何やってるの?朝ごはん食べなきゃ遅れるわよ?」
母がにこやかに微笑みながら、温かいわかめスープを差し出した。
食卓の上には、私が大好きだった母のスクランブルエッグや母特製のドレッシングのサラダ。
焼きたてのパンが置いてある。
母の死後、一生懸命味を再現しようとしても食べられなかった母特性のドレッシング。
一生懸命マネしようとしても作れなかった母のパン。
それが今目の前にあった。
「母さん、俺のネクタイ知らない?」
と、兄がスーツ姿でうろうろと私の後ろを通り。
父はのんびりとコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
大好きだった家族。もう会えることのない人たち。
そう、私の両親と兄は死んだのだ。
私のせいで。
家族で旅行するはずの日。私は物凄い嫌な予感がしていた。
それでも、どうせ何かの気のせいだろうと思った。
だって、漫画やアニメじゃあるまいし、予知能力とか、そんなものが自分にあるとは思えなかったから。
結局、嫌なモヤモヤを抱えたまま私は家族に何も言わずに一緒に旅行に出かけ――
旅先で、ハンドル操作を誤った父のせいで車が海に落ち、そのまま三人とも帰らぬ人となってしまった。
私だけは、地元の人に道を聞いていたので助かったのだ。
もし、あの時、嫌な予感がするから辞めようと、勇気をだして言えていれば、家族は死ななくてすんだのに。
あの時の私は自分のカンを信じてやることができなかった。
「もう、拓也、ネクタイならそこにかけてあるでしょ?
楓もはやくご飯たべて、学校遅れるから」
と、私の葛藤など知らない母が何時もの口調で言い
「あー、なら今日は俺が車で送ってってやろうか?
今日は会社に寄らず直接営業先に行く予定だから、お前の学校近いし」
と、兄。
「それはいい。そうしてもらえ楓」
と、にっこり微笑む父。
ああ――。
もし、私に漫画やアニメなどの知識がなければ、純粋にこの幸せな世界に浸れたのだろうか。
父も母も兄もいる、高校生の自分に戻れたのだろうか。
よく考えれば、ゲームの世界に引きこもるようになってしまったのも、現実逃避だった気がする。
ネトゲをやっているときだけは、リアルの嫌な事を忘れられた。
ゲームキャラになりきって、現実逃避できたのだ。
このままこの世界に逃げ込めばまた私は幸せになれるのだろうか?
何も嫌なことを考えずにすむのだろうか。
――でも、それじゃあダメだ。
外ではリリとコロネが戦っている。
リュートだってどうなってるかわからない。
私がすぐにでも戻らないと――現実から逃げてなんていられない。
逃げたら、また大切なものを失ってしまうから。
「楓?」「どうしたんだ楓具合でもわるいのか?」「………」
大好きだった人たちの視線が私に集まる。
――でも、ここにいるのは違う。
私の好きだった人たちじゃない。
幻だ。
一緒にいればいるほど、虚しくなるだけなのだ。
「ごめんね、皆」
私はアイテムボックスから鎌を取り出し――そのまま全てを切り刻むのだった。
0
お気に入りに追加
687
あなたにおすすめの小説
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
【完結】スライム5兆匹と戦う男
毛虫グレート
ファンタジー
スライムくらいしか狩れない雑魚魔法使いレンジはまたパーティを追放された! もう28歳だよ。二十歳そこそこの連中に老害扱いされはじめてんのに、一向にレベルも上がらない。彼女もいない。なにやってんの。それでいいの人生? 田舎町で鬱々とした日々を送るそんなレンジの前に、ある日女性ばかりの騎士団が現れた。依頼はなんとスライムを倒すこと。
おいおい。俺を誰だと思ってんだ。お嬢ちゃんたち。これでも『雷を呼ぶ者』と呼ばれた偉大な魔法使い、オートーの孫なんだぜ俺は! スライムなんていくらでも倒してやるYO! 20匹でも30匹でも持って来やがれ! あと、結婚してください。お願いします。
............ある日突然、スライム5兆匹と戦うことになってしまった男の、絶望と灼熱の日々が今はじまる!!
※表紙画像はイラスト自動作成のhttps://www.midjourney.com/ にてAIが描いてくれました。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
スラムに堕ちた追放聖女は、無自覚に異世界無双する~もふもふもイケメンも丸っとまとめて面倒みます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
どうやら異世界転移したらしいJK田崎 唯は、気がついたら異世界のスラムにどこかから堕ちていた。そこにいたる記憶が喪失している唯を助けてくれたのは、無能だからと王都を追放された元王太子。今は、治癒師としてスラムで人々のために働く彼の助手となった唯は、その規格外の能力で活躍する。
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる