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1章 異世界に召喚されました

39話 ガッツの指輪

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「取り乱しました。申し訳ございません」

 新たに座席に座り直しコロネが真面目な顔で謝罪する。

「いや、謝るのは自分の方だ。忘れててすまなかった」

「いえ、それは仕方ない事かと。
 それで猫様、この件について二、三確認したいことがあります」

 至極真面目な口調で言う。
 うう、なんだか軽く流されると怒られてる気分になるのは私だけだろうか。

「その、コロネ、ひょっとして怒ってるか?」

 おそるおそる聞いてみる。うん、だって表情が怖いんだもの。

「……いえ、なんと説明していいのか……、今日はいつもより高ぶりが酷いといいましょうか……
 いつまでこの状態を保っていられるかわからないので、つい結論を急いでしまいました。
 そのように見えていたのなら、申し訳ございません」

「ああ、了解。確認したいことって?」

「まず、私の好感度を他のプレイヤーが上げている可能性はどれくらいなのか。
 好感度を上げた時、私が猫様とカンナ様に何を手渡したのか。
 猫様とカンナ様が私に渡したプレゼントとは何だったのか。

 これを教えていただきたいのですが、宜しいですか?」

「他のプレイヤーが好感度を上げてる可能性はほぼないと思う。
 条件が厳しすぎて、カンナちゃんが気づいた方がほぼ奇跡だし。
 あのゲーム謎技術すぎて、データから情報を引き抜くとかいうのも無理だったらしいし。
 今になって思えば、異世界の神様が絡んでいるっぽいから当然っていえば当然なんだけど。

 それと、好感度を上げた時……コロネに貰ったものか……」

 私は眉根をよせて考え込む。
 ……やばい。思い出せない。
 や、まったく記憶に残ってないという事はぶっちゃけたいした物じゃないと思うのよ。
 もし、そこですごい物がもらえていたなら、他のNPCの好感度もあげまくったと思うし。
 でも本人前にそれはいいにくいしなぁ。

「ネコ、思い出せない?」

 私の表情から読みとったのかリリが聞いてきた。

「すまん思い出せない……」

「ネコがいいなら リリ 記憶引き出すよ?
 コロネとネコとリリで記憶視るけどいい?」

「そんなこと出来るのか?
 ……だったらコロネの思い出せない時の記憶もリリが見ればわかるんじゃないか?」

 私の疑問にリリは首をふり

「もう調べた 白いモヤモヤあって 覗き込めなかった」

「私のNPC時代も私が覚えている事が、レイド戦の記憶が少しあるだけなので、視ていただきました。
 そちらも私が覚えている以上の事は視れませんでした」

 と、コロネ。
 くぅ。なんとか記憶を覗くのを回避しようとしたら、外堀を埋められた。
 いや、記憶見られるのが嫌ってわけじゃないけど、「このNPCゴミしかくれない。使えない!」とか言ってたらどうしよう。

 私がうーーんと考えるポーズをとると、

「もし、私の事を悪く言ってるかもしれない……という可能性を気にしてるなら、大丈夫です。
 むしろ ごほ……いえ、なんでもありません」

 コロネが真顔で言いかけて途中でやめる。
 ちょ!?いま何か言いかけたんですけど!?ご褒美とかいうんじゃありませんよね!?
 やばい、やっぱりこいつ変態だよ!ああ、でも私のせいですごめんなさい!
 私が葛藤していると、コロネはよほど嫌なことだと勘違いしたのか

「わかりました。無理にとはいいません。
 では、私に渡した物が何だったのかは思い出せますか?」

 あっさりと引き下がる。

「それは確か……課金のランダムボックスからでた、ハズレアイテムを渡した気がするんだけど……」

「もしかして、これでは?」

 言ってコロネが私が渡した攻略本の中のアイテムを一つ指さした。

 そこにあったのは「ガッツの指輪」
 もし、死亡しても20%確立で生き返られる課金アイテムである。
 ただ、このアイテムで生き返るとデスペナ(死亡した際のステータス減少のペナルティ)を食らう上、HPが10までしか回復されない。
 その為、復活したけど、その場でまた同じ敵にすぐ殺される……という可能性の方が高いため、ほとんどゴミアイテム扱いされていた。

 うん。ああ。それだ!

「よくわかったな。
 そう、それ!ひょっとしてまだ持ってるとか?」

 私の言葉にコロネは苦笑いをして

「いえ、すみません。既に無くしてしまいました。
 せっかく猫様に頂い物を紛失してしまうとは……なんとういう不覚
 猫様にいただいたとわかっていれば、肌身離さずもっていたものを」
 ぐっと、拳を握りしめる。

 や。なくなってよかったよ。
  ……ってこっちの世界は復活の手段が少ないのだから20%でも復活の可能性があるなら持たせておいたほうがいいのか?

 そんなことを私が考えていると

 ばんっ!!

 唐突に物凄い音をたててテーブルが叩かれる。
 びくりと何事かと見やれば、リリが今にも泣きそうな顔でテーブルに鉄拳をくらわせていた。
 レベル800のリリの攻撃に耐えられるはずもなく、机がピキピキと音をたてて割れてしまう。

 え、え?何事?

「リ、リリ?」

「リリ様?」

 私とコロネが呆然とリリを見やれば

「コロネ 嘘!!!
 その指輪無くしたんじゃない!!
 コロネ それ 使った!!!」

 リリが泣きながら叫ぶ。
 私はリリの言葉に思わずコロネの方に振り返った。

 復活の指輪を使った――それはつまり、コロネが一度死んでいるということを意味している。

 コロネは顔を真っ青にして

「まさか……リリ様。私の記憶を?」

 コロネの言葉にリリがこくりと頷いた。

「記憶覗いた それはリリ悪い 謝る。
 でも、コロネ 隠すもよくない!!
 前、コロネ言った!一人で抱え込んじゃ駄目って!
 コロネ、抱え込んでるっ!!」

「それは……」

 リリの言葉にコロネが困ったように立ち尽くした。
 リリに手を伸ばそうとして、その場で停止したまま動けない。
 どうしていいのかわからないらしい。

 リリは瞳いっぱいに溢れる涙をこらえながら

「ネコ なんで、プレイヤー みんな酷いことするの?
 コロネ 何も悪くない
 プレイヤー リリ殺そうとした カエサルと同じ
 面白がって殺してる」

 言いながら瞳から涙があふれ落ちる。
 
 うん。聞かれても私は記憶見てないからわからないんだけど!?
 でも、リリの様子から見ればよほど酷い事をされたのは痛いほどわかる。

「リリ、その記憶私にも見せてくれるか?」

「猫様っ!?」

 私の言葉にコロネが批難めいた悲鳴をあげるが無視。
 それに知らなきゃ慰めようもない。

「プレイヤーって事はそいつらはぶちのめすのは確定してるんだから、自分も知っておくべきだ。

 それとも、その場で知って、自分が怒り狂ってそいつらを殺す所をコロネは見たいのか?」

「そ、それは……」

「リリ頼む」

 口ごもるコロネを無視し私は、リリに手を伸ばす。
 リリも私に手を伸ばし――

 それは入ってきた。
 コロネの12年前の記憶が。
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