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43 主従百合の契約
しおりを挟む「首謀者の名はルクセンス・ヴィルヘルム。当時は司祭だったそうですが、現在は聖神教の現教皇です」
そう言って真剣な顔を浮かべて話すレーテに、彼女が何を考えてこの聖王国に同行を願ったのかを理解したリア。
先程のアイリスが口にした言葉、『復讐を果たす前に』という復讐はつまりそういうことなのだろう。
リアは納得すると頷き、真っすぐに向けてくるレーテの視線を正面から受け止める。
「……なるほど、貴方が聖王国に同行したいと言った理由はわかったわ。その誘導した存在、現教皇に復讐がしたいということでしょう?」
言葉を切り、何処か不満げな顔を浮かべ黙って話を聞いているアイリスへ振り向く。
この子が『話さないなら殺す』と言った理由。
正直、お気に入りでもあり愛しているレーテを殺されるのはリアとしてもやめてほしい所ではある。
しかし、彼女がそこまで強い意志を見せ、強制に近い脅しとも言えるソレを行ったのには何かしらの理由があるように思えた。
聖王国に復讐対象が居る、だがその相手は聖神教のトップ。
復讐を果たすにはレーテ単独では難しい、ではどうするか。
「私のことを想って怒ってくれたのは嬉しいけど。貴方が私の大切な人であるように、レーテも私の大切な人なのよ? 殺すのは遠慮してほしいわ」
リアは嬉しい気持ちと困った気持ちを織り交ぜた表情を浮かべながら、諭すようにアイリスへと語りかけた。
するとアイリスは不機嫌そうな顔から豹変して、次は思い出したかのようにバツが悪そうな顔をして俯く。
「あっ、そうですわよね。私の全てがお姉さまのモノなのだから、レーテもお姉さまのモノ。私ったら……勝手に、申し訳ございません。でも、あまりにもお姉さまの優しさに甘えた行為、それを見過ごすことなど私には出来ませんわ」
「ええ、それは本当に嬉しい。貴方が言ってくれたことで、この子が何を想ってこの地に足を踏み入れたのか知る事ができたんだもん。レーテ、貴方私を利用しようとしてたのよね?」
アイリスが殺気を向けてまで自身の眷属を脅した理由、それは私にあるのだろう。
単独で復讐が難しいのであれば周囲を出来そうな存在を利用すればいい。
いや、賢く用意周到な彼女であれば既に実行していても可笑しくはない、主人であるアイリスに頼ったのか疑問ではあるが、未だ果たせていない時点でそれは未達成だとわかる。
そんな状況で達成できそうな存在が目の前に現れたのなら、誰でも利用するのではないだろうか?
レーテは神妙な顔つきを浮かべたまま視線を落とし、リアの言葉に同意するように言葉を返した。
「……はい、始祖であられるリア様であれば聖神教の総ては難しくても、教皇であるルクセンス・ヴィルヘルムには手が届くと、復讐を諦めかけていた私に起きた最後の奇跡だと思いました」
俯き気味に語るレーテ。
その雰囲気は今にも宙に溶けて消えてしまいそうな程に弱弱しく、語られる言葉に込められた想いから彼女が本心を話しているのが伝わってくる。
「ですから……頂いたこの機会、復讐の成否に問わず全てが終わった後にはリア様に包み隠さずお話し、私の持てる何もかもを差し出す覚悟でございました」
「……そう」
言葉の節々から彼女の覚悟が感じられ、その言葉通り本当に全てを差し出す覚悟がレーテにはあるのだろう。
リアはそんな彼女の言葉に嬉しくもあり悲しくもあった。
レーテの全てを貰えるのは魅力的であり、それはリアが目指す理想郷を創る上で必須ではある。
だがしかし、"終わって"から言うつもりだったということは、リアのことを完全には信用できていなかったということではないだろうか。
(いや、吸血鬼の階位社会だと上の階位の存在にものを言うことすら難しいのか。 私は階位的にも前世的にもそういったものはなかったけど、彼女達は長年それが当たり前の世界にいた。 正直、利用されてると言われてもそんな嫌な感じはしないし、なんなら私が二人を利用してるのもあるしね)
内心で価値観の違いや世界の違いについて思い悩むリアに対し、黙ったことで不快にさせたと思ったのかレーテはその場で地面に座りだし、姿勢を真っすぐに伸ばした状態で見上げてくる。
「……ご不快なのであれば今、私を殺して頂いて構いません」
「え」
(え……? 私がレーテを殺す? ないないないない、それだけはない! それなら言葉通り普通に貰うわよ! でもレーテの気持ちはわかった)
真剣な面持ちで見上げるレーテ。
彼女の発する言葉の全てに重みがあり、同時にそれらを捨ててでも復讐を遂げたいという気持ちは伝わってくる。
なら、彼女を愛してる者でもあり、彼女の主人の姉でもあるリアがすることは一つではないだろうか。
「――ですが、お願い致します。教皇を……奴をッ、殺してください。 どうか、どうか重ねてお願い申し上げます。……リア様、いえ……始祖様」
想いを話そうとするリアに断られるともしくは成し遂げられないと思ったのか、聞いてるこちらが胸が痛くなる程に切実な願いを懇願しだすレーテ。
周囲の森の中には只々レーテの呟く願いが響き渡り、やがてその場には静寂が広まるのだった。
レーテの思惑を知り、それでもリアの中で聖女を一目見ることと、ついでに豚からのお願いを聞くのも気分や状況ではありだという考えは変らない。
リアはいつまでもそうしているレーテを見てられず、地面に膝を彼女を包み込むようにいつもより小さく見えるその体を抱きしめた。
胸にはレーテの体温と抱いてる想いがこれでもかと伝わってくる。
「貴方の復讐、この"始祖"に任せなさい。 違うとわかった以上、私の中では聖女を見るより大事なことに今なったわ」
「始祖……様、私は、私は……貴方様を利用しようとっ」
胸の中で見たこともない程に、感情的になるレーテにリアは嬉しくなり思わず微笑みを浮かべてしまうが確かにそれは看過できない、やってしまったことの責任は取るべきだと無責任なリアは考えた。
「そうね、本当に悪い子だわ。始祖って呼んだのも気に入らないし、ちゃんと名前で呼んで欲しいわ。それと私を利用しようとした埋め合わせは、必要よね?」
リアは胸の内に静かに涙を見せるレーテに、その美しい黒髪を生やした頭を優しく撫でながら問いかける。
レーテは誰もが見惚れる程の綺麗な顔を歪めながら顔を上げ、一言一句違わずにはっきりとした口調でリアへと誓いの言葉を口にする。
「……はい、リア様。私の全てを差し出します、身も心も忠誠もリア様が望むのであればその全てを」
「ふふ、それは本当に嬉しいわ。貴方の全てを私に頂戴、レーテ」
美しい声に乗せられ紡がれる言葉はリアが求めて欲していたものであり、そんな始祖は表面ではお姉さま然とした態度を崩さず微笑みを浮かべたまま抱きしめる力を僅かに強めるのみに留めていた。
しかし、内心では狂乱の嵐が吹き荒れ、歓喜と祝福がリアの胸に溢れ、全てを迎えれる"聖神の祈祷"にやる気を漲らせていた。
(やった!遂にやったわ!! これまでも私のモノだと思ってたけど、これで完全にレーテの全てが私のモノってことよね!? ふふっあははっ、黒髪美人メイドさんが私のモノ!! 今日はなんて素晴らしい日なの。 騙される?利用される? 全て貰えれば細かいことは良いのよ! ああ、でもまだね)
リアは完璧な表情筋制御によって内なる欲望を一切表には出さず、涼し気な顔でレーテの主人であるアイリスへと振り返る。
(だ……駄目よ、まだ笑っちゃ駄目。堪えるのよリア、……し、しかし)
「アイリス、貴方はレーテが私のモノと言ったけど主人は貴方。 レーテを完全に私のモノとしても扱っていいかしら? 大切な貴方の意見は聞いておきたいわ」
リアとしてもレーテは自分のモノという独占欲はあったつもりだが、それでも眷属にしたのはアイリスであり主人は彼女。
なら、本人の意志は確認したのだし、主人のアイリスに許可を貰うのは当然だと考えたリア。
これが仮にどうでもいい相手、もしくはリアが話すに値しない相手であった場合は有無を言わさず自分のモノにしただろう。
「もちろんですわ! 私はお姉さまのモノですがレーテがそういうのであれば、御嫌でなければ貰ってあげてください」
優雅な姿勢でカーテシーをして頭を僅かに下げるアイリス。
再び顔を上げた彼女は一切の不満を感じさせない笑みを浮かべており、リアとレーテの契約は今この瞬間なされた。
「貴方がそういうのであれば二人ともまとめて私のモノ。ふふっ、末永くよろしくね」
リアは抱きしめるレーテの首元に顔を埋める様にして全身で彼女を感じ、十分に堪能すると抱きしめる手の位置を変えて立ち上がらせる。
目元には何よりも尊い滴が浮かんでおり、リアは堪らず手を伸ばし指で優しく掬い取ると口元にペロッと出した舌で舐める。
「そんな表情の貴方も素敵だけど、出来れば笑った顔が見たいわ。教皇は私が責任を持って、貴方の元に届けるわ」
どうしようもなく愛おしく感じるレーテの頬に手を添え、困ったようにそれでいて自信の満ちた表情で囁くリア。
そんな始祖の言葉にコクリと頷き、口元を一目でわかるほど緩ませ安心したように微笑むレーテ。
「ありがとうございます、リア様。 よろしくお願いいたします」
そう言って浮かべた表情にリアは思わず見惚れてしまい、主人であるアイリスですら隣で口をポカンと開け目を見開いた状態で唖然とするのだった。
リアはレーテに他に話してないことはないかと確認し、全てを包み隠さず話したと告げる彼女の言葉に森を後にして高級宿へと帰ってきていた。
相変わらず白と金が煩い部屋ではあるが、置かれている家具やその材質は確かに一級品のように思える。
袖越しに感じられるベッドの感触はふかふかでありながら確かな弾力を感じさせ、素肌を露わにさせた足からは肌ざわりが良い質感が伝わってくる。
ベッドへ横になったリアはいつもの様に室内装備、《白雪のルームウェア》を装備しており、全身白のモコモコで覆われた胸元が開けたプルオーバーのロングカーディガン姿である。
そんなリアが抱き枕にしているのはメイド服を着崩し弄られた後が垣間見える赤面したレーテだ。
「あぁ、この時が一番……落ち着くわ」
「リア様……そのもう少しだけ、ご容赦いただけると」
レーテの胸元に顔を埋め、聴こえないふりをするリアだったが、後方からの暖かみにより思わずにやけてしまう。
背中越しに感じられるはぷにっとした柔らかい感触にレーテより気持ち高めの暖かい体温。
「お姉さま、レーテばかりずるいですわ。私も可愛がって欲しいです!」
アイリスはコアラのようにリアの後ろから抱き着き、抗議のつもりなのか近くにあった胸を鷲掴みにすると絶妙な力加減で揉んでくる。
「んっ、……あっ、はぁ、……ごめんなさい、今日はまずはこの子を愛したい気分なの」
流石のリアもそこまでされると反応せざるを得ないわけで、決して無視してたわけではないのだが、口元から嬌声漏れ出てしまう。
今夜、というにはもうすぐ日の出ではあるのだが。
リアは人間時代のレーテが純潔を護った素晴らしい功績を称え、労うと聞いた時から決めていたことなので、アイリスには悪いが今夜はまずは目の前の子を全力で愛すことにしたのだった。
「リア様、私は大丈夫ですので、アイリス様を……」
「あら、それには及ばないわ。 貴方は昔から内に秘めすぎなの。 今夜はお姉さまに思う存分暴かれて、反省なさいな」
レーテが遠慮しようとする言葉を呟き、リアの胸を揉みながら背中ごしに一刀両断するアイリス。
いつものアイリスであればそれが当然のことと割り込むものと思ったが、らしくない妹の態度に疑問を持ちながらもリアとしては嬉しい傾向でもあった為、口元を緩める。
「そういうことだからレーテは私を愛し、愛されなさい。 アイリスは好きに私の体を触っていいから、もう少し待っててね」
「よろしいんですの!? であれば、……失礼致しますわ。 ふふ」
抱き着きながら声明するアイリスは白雪ルームウェアを弄り、裾から腕を侵入させるとその冷っとした手で遠慮なくリアの体を触り始めた。
(ひゃっ、……冷たい。 この子も契約した時から遠慮が無くなってきたわね。まあ、私も気持ちいしいいんだけど。さて、それじゃあ私のメイドさんの味を堪能しますか!)
「早速、いただきます。 ……はぁ、ぺろっ」
胸元でレーテの落ち着く香りを堪能し、顔を上げたリアは首元に顔を近づけ、ちろりと出した舌で舐める。
舌触りから感じられる素肌に味はない筈なのに、甘く美味しく感じられるのはきっとリア自身のレーテに対する心情が更に強まっただろうか。
「あっ……くすぐったい、です」
「あはっ、そう? んっ、……私もとってもくすぐったいわ。 ちゅ、はむっ」
リアは容赦なく弄ってくるアイリスを一度意識から外し、全力で目の前の子に集中する。
ずぶりとした感触から綺麗な肌を突き破り、あっという間に味覚へと彼女の美味しい血が広がりだした。
美食家リアによって日々、改良が重ねらえているレーテの血液。
「んむっ……ちゅ、……んっ……」
「……んっ、……はぁ、……如何、ですか? んっ」
首元に牙を埋め、ちゅうちゅうとストローのような感覚で次から次へと際限なく送られてくる芳醇な血を味わい、リアは返事の変わりに更にレーテを抱きしめる。
「はぁ、……はぁ、……んっ、ちゅぅぅ」
「……満足、んっ……はぁ、頂けて……います、ぁっ、か」
何かを我慢するかの様に漏れ出す吐息が頭上から聴こえ、微かに色っぽさが混ざりだしたのを感じたリア。
(如何ですかって? 最高よ! え、なにこれ? 昨日も飲んだのに全然味が違うのはなに? 以前の様なさっぱりとしていて濃すぎないちょうど良い甘味ではあるんだけど、後味っていうの? これがやヴぁいわ。 臭みというより雑味が完全に消えてて、トロッとした濃度ではあるんだけど濃すぎずちょうどいい塩梅で甘味と濃度、そしてこの鼻腔につく爽やかな甘い香りが調和してるわ! これ、やばいわっ!)
内心で美食やとなり食レポに励むリアは一飲み一飲み味わいながら口内で舌を動かし、同時に擦り付けるように彼女から放たれる香りを堪能する。
「んっ、んっ、……ぱっ! はぁ、はぁ……貴方、最っ高よ。アイリスとはまた別の、最高の血だわ」
「はぁ……はぁ、んっ……ふぅ。それは、良かったです。毎日美味しい血を頂いてるので、その賜物ですね」
息が切れきれなレーテは恍惚とした表情を浮かべ、甘声を洩らしながら妖艶な笑みを浮かべる。
額には汗が浮かび、とろんとした赤い瞳は真っすぐにリアへと向けられ、我慢しようにも漏れ出す吐息はリアの内から溢れる吸血欲求を促進するには十分すぎるものがあった。
「あはっ、もう少し、貴方を味合わせてね? はむっ」
「……んんっ! ……ふぁ、んぅっ、はぁ……」
そうして夢中になって味わうリアの部屋には一切の灯や月明かりはなく、暗闇の部屋には漏れ出る嬌声と布の擦れる音が鳴り渡り、やがて3人目の少女が加わったことで甘く蕩けるような密室の空間は日の出まで続くのだった。
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