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―カラン。

来客を告げる鈴の音が聞こえて、店主のおじさんと一緒に入り口の方向を見ると、ルドルフの姿があった。その時私は、お貴族様も、こんな町外れの店に来るのねという感想が最初にあった気がする。

まだこのころは、私もルドルフもそこまで仲が良いとはいえなかったし、何かと突っかかってくるルドルフを邪見に思っていた。
ルドルフに何か言われると、それを見ていた女子生徒が嫌みを言ってきたり(なぜだか私とルドルフが、仲良く見えるらしい。
実際は、嫌みを言われているだけなのだが)、ルドルフの嫌みを聞いた女子生徒が、それに乗っかって、一緒に嫌みを言ってきたり(そして、それを聞いたルドルフがなぜか激高するという事態になる。私も女子生徒もそれには、目が点になったが。
怒るなら、最初から嫌みを言わなければいいのに。自分は言いたいのだろう。そういう点も嫌いだった)と何かと面倒だったのだ。

私がルドルフから、目をそらすと露骨にいじわるな顔になり、笑いながら、

「おや。ご機嫌よう。平民は、目が合った相手と挨拶も出来ないくらい躾がなっていないらしい。気を付けよう」
「…ごきげんよう。まさかこんなところでも会うなんて思ってもみなかったから。厳格だと思ってしまいましたの」
「おや。平民は、薬でもやっているのか?どこをどう見たら、僕の姿が幻覚に見えるんだ。隣の店主を見ろ。店主も僕の存在が見えているのだから、幻覚なわけがなかろうに」
「ふん」
「ほぉ~」

おじさんは、なにやら面白そうに私たちの様子を見守っている。
子どもの喧嘩と思って、ほほえましく見えるのだろう。羨ましいことだ。

「じゃあ、おじさん。私この本、買っていくから。またね」
「うん。また来てね。待ってるよ」
「どいてちょうだい。あなたがそこにいると出れないのよ」
「おや、これは失礼」

そう言って、ルドルフをどかし、店の外に出た。
まったくルドルフのせいで、せっかく楽しかった休日が、台無しである。
本屋のおじさんは、変わっているが、別に悪い人ではなさそうだし、…変な人ではあるが…。また来ることにしようかな。
本の感想も言いたいことだし。
…それにしてもルドルフは、いったいこんなところまで何しに来たのかしら。
彼も本が好き…?とか?
そういえば、図書館でよく会っているし、好きなのかもしれないな。
ちらりと、中の様子を見てみれば、おじさんがルドルフにちょっかいをかけているのか、ルドルフが真っ赤な顔で、なにやら叫んでいる。
あの男、わりと怒りっぽいから、おじさんにも怒っているのかもしれない。
貴族は、感情を表に出さず、とか言われているくせに、ダメじゃない。

まあ、よくわからないが、このままいてルドルフが店の外に出てきてまた鉢合わせても面倒である。
それに早くこの本を読みたいし、このまま寮に戻ろうかな。
そうして、私は来た道を引き返した。
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