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「本が好きなんですね」
「好き?」
「違いますか?好きじゃないと、ここまで熱心になれないと思いますけど」
「好きなんて、とんでもない!」
「?じゃあ、愛している、とか?」
「まさか!」
「???」
「ここにあるのは、人生の一部と言ったろう。そう、読書とは、すなわち人生なんだ。僕にとっての生きる意味、価値、そのすべて!!!」
「は、はぁ…」

すごい人だな…熱意とか、勢いとか、そのほかもろもろ。
本の魅力について語っている顔は、まるで少年のようだ。目がきらきらとしていて、おじさんなのに、子どもっぽい。私は、こんなに夢中になれるものはない。見ていて、圧倒されるがこれだけ人生をささげれるものがあって、うらやましい。
私も読書は好きだが、ここまで好きかといわれると、首をかしげてしまうから。

「君は、読書が好きかね?」
「ま、まぁ人並に…」
「最近、読んだ本は?」
「そ、その恥ずかしながら、読んでいないことに気づきまして…」
「なるほど!だから、この本に呼ばれたわけか」
「本に呼ばれる?」
「そう。本は生きているんだ」
「は」

いや。この人、普通に危ない人だな。
これが噂のマルチ勧誘というやつだろうか。
これから、怪しい教材とか買わされるに違いない。
こわっ。こんななんともない小さな本屋で、勧誘されるとは思わなかった。
確かにこの町は、高い身分の貴族が通っているし、金持ちの子息が通っているから、財布のひもはゆるいし、大通りはハイブランドの店が並んでいるから、そういうことをもくろむ人がいるとは聞いていたが、まさか私が引っ掛かりそうになるとは。

「あ、私、そのこの本を買って、帰ります…」
「本は、生きているんだよ。お嬢さん」
「ひぇ」

がっしりと腕をつかまれてしまった。
普通に怖いんだが。

「本は、呼ぶんだ。自分を必要としている人を。だからこそ、本屋というのは、見合い場といってもいい。目と目が合った瞬間、引き寄せられる。そして、手に手を取り合い、人生とよりよいものにしていく。…そう!だからこそ、本屋とはすばらしい職業なのさ」
「ひぇええ」

こわいこわいこわい。
普通におじさんが怖い。

「あ」

おじさんが、ふと我に返ったような顔をした。
私が怯えていることに気づいたようだった。
慌てて私の腕を離す。

「ごめんごめん…つい、力が入ってしまって…なんだか、お嬢さんを見ていると同胞を見つけたような気分になってしまってね」
「ど、同胞…?」

確かに同じ国の生まれという意味では、おじさんとは同胞なのかもしれないが。

「ああ。違う違う。同じ本好きとして、って意味だよ」

考えを読まれてしまった。
私の顔にわかりやすく書いてあったのかもしれないけど。

「私、そこまで本を読んでいませんけど」
「私だって、お嬢さんくらいの年ごろの時は、読んでいなかったさ。あの学校に置いてある本は、つまらないものばかりだからね。貴族が通うにふさわしいように、という理念で選ばれているようだが、もう少し面白い本も置くべきだと思うが」
「おじさんもあの学校出身でしたか…」

全然そう見えない。
こう言っては、失礼かもしれないが、あの学校に通う人間は、家柄が良いか、そうとうなお金持ちしか通わない、通えない学校だから、こんな小さな本屋を経営しているおじさんに、そこまでのお金はないように見えたからだ。
私と同じで、もしかしたら、実家がすごいお金持ちなのかもしれないけど。
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