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こういう時にどうしたらいいのだろう。
手紙一つで、大げさな気がする。自意識過剰と噂されるかもしれない。

「なにかが起こってからでは遅いんだ。君は、もう少し自分が魅力的な女性であるということを自覚したほうがいい」
「み、魅力的って…」

本気で言っているのだろうか。
顔が熱くなって、手でパタパタと仰ぎながら、ルドルフを見ると。ルドルフの顔は、すでに私を見ていない。いつのまにか、手袋をつけて手紙を見ている。

「僕たちの指紋がついてしまったから、もう犯人の指紋は残っていないかもしれないが、念のため、これは僕が預かっておこう」
「え?どうするの?」
「指紋を調べる」
「指紋を調べるって…警察、そこまでやってくれるかな」
「僕が調べるんだ」
「ルドルフ、指紋調べることができるの!?」

名門貴族は、指紋を調べる勉強までさせられるのだろうか。

「別に難しいことじゃない」
「で、でも、よく知ってたね。もしかして、小さいころ、警察官とかになりたかったとか?」
「……探偵だ」
「探偵…?浮気調査とかしたいの?」
「違う!殺人事件とか、難しい事件を調べて、犯人を探し出す…そういう探偵にあこがれていたんだ」
「あなたも推理小説とか読むのね…」

私も推理小説は好きだ。
ミステリーや、怖い話なんかも好きでよく読む。
前に部屋で読んでいた時にリリーが、意味深な目で私を見ていたから何か気になるかと尋ねたことがある。

「アリシアもそういった小説を読みますのね」
「これ?今、流行っているみたい。とっても面白いよ。リリーも読む?」
「私はいいですわ」
「リリー?」
「その…そういった小説を学校で読むのは、よしたほうがいいですわ。部屋の中だけでしたら、いいのですけど」
「どうして?誰が、何を読んでいるかなんて、誰も気にしないでしょう?」
「アリシアは、元平民ですから。…その…」
「私が、元平民だと本を読んではいけないの?」
「違います。読んでいる本がよろしくありませんの。その、そういった本は、貴族の間で、三文小説と呼ばれていて…その平民が読むものと馬鹿にされておりますの」
「貴族は、小説にまで貴賤があるの…?」

ある意味、カルチャーショックだ。
確かに小説に限らず、本というのは内容が全くないといってもいいようなものだってある。つまらないものやくだらないもの、下品なものがないわけではない。
でも、それらのすべてを否定しているわけではない。
人の数だけ本がある。
だから、リリーの言葉は、ショックだった。

「でも、おもしろいよ…?」
「関係ありません」

リリー曰く、ああいった小説は、科学的根拠に基づいていない。だとか、文法がめちゃくちゃだ。だとか、とにかく文学者の間では評判が悪い。雑誌にも評論家たちが、こぞって夢物語だと断言していて、「推理小説は、庶民が読むものだ」と貴族たちの間で言われているらしい。
だから、元平民で一代貴族と今でも馬鹿にされている私が、そんな貴族たちが通っている学校で、貴族たちが、馬鹿にしている三文小説を読んでいるところを見られたら、また馬鹿にされるといわれてしまったのだ。
おかげで、部屋でこっそり読むしかない。
どんでん返しの感動も犯人の悲壮な過去も主人公のきらめくような推理も、誰とも共有できないでいる。

それなのに、名門貴族筆頭のルドルフが、それを読んでいるなんて。
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