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その日、私の部屋に手紙が届いた。
真っ白な封筒。
差出人の名前は、書かれていない。
「なんです?果たし状ですか?」
「なんで、私が果たし状をもらうんですか」
「あなたに果たし状を送りたい方が、この学園にはいっぱいいるからですわ」
「名門貴族の学校なのに、ずいぶんと恐ろしいわね。ラブレターだとは思わないの?」
「婚約者がいる方にラブレターを送るような情熱的な殿方は、いらっしゃらないわ」
もしや、本当に果たし状なのでは?刃物が入っているかもしれません。お気をつけて。など、同居人のはやし声を口で抑え、警戒しながら、封を切る。
意外なことに差出人は、婚約者からだった。
―お願いがあるんだ。裏庭で待つ。
「やっぱり果たし状じゃない」
「… … …」
面倒だな。
◇
授業が終わり、裏庭に向かうと、婚約者と一人の女子生徒がいた。
その生徒と話したことはない。…いや、一方的な会話を押し付けることを話すというのであれば、話したことはある。
名前も知っている。
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。思わず、イエスでもノーでもない曖昧なため息のような言葉を吐き出す。
「その点、私たちってとってもお似合いだと思うのよ。家も名門同士」
「…家の銘柄で、付き合うの?」
「…ぶふっ」
私としては、本人の恋愛感情とか、気持ちは必要なのでは?という純粋な気持ちで、聞いたのだが、よほどおもしろいらしい。
二人は、腹をかかえて、げらげらと(私からしてみれば、その姿こそ貴族らしからぬ姿のように見えたが)笑いこけている。
…そんなにおもしろいかしら。
「当たり前じゃない。あなたみたいな平民は、そうやって感情を優先するんでしょうけどね。私たち貴族は、そんな動物みたいな卑しいことは制御するようにしつけられているの。貴族は、理性というものを大事にしているのよ」
「はぁ…」
家柄。優秀な血筋。まぁ、言いたいことはなんとなくわかる。
馬と一緒だ。
優秀な馬は、優秀な馬から生まれるものだ。
数多くの厳選や交配を得て、天才が生まれる。
彼らが言っているのは、そういうものだろう。
ならば、彼らのほうが、動物的に正しいということになる…ような気もする。
「だから、あなたみたいな汚い血が混じるのは、彼も嫌なんですって」
「へぇ」
じっと、婚約者…いや元婚約者の顔を見つめる。
なにやら、こちらを見下しているような顔をしているが、あなた、最初に二言喋っただけよ。それなのに、どうして、ぼうっと突っ立っているだけのあなたが、偉そうな顔を出来るのか分からないわ。
「あなたは、どう思っているのかしら」
「僕も彼女と同意見さ」
「なるほどね」
あなた。
腹話術のお人形さんなのね。
私の家は、いわゆる成り上がりというやつで、一代貴族なんていう言葉通り、父の代で、仕事が評価され、爵位をいただいている。
そんなわけで、昔ながらの高位貴族の中には当然馬鹿にしてくる人間もいて、中々に愉快な毎日を送っていた。
今もなんやかやと馬鹿にされ続け、貴族ルールなんてものを平民の私はおろか、父も母もなんなら祖父母から使用人に至るまで、平民であるため、貴族とはなんぞやという有様であった。
まぁ、貴族なんかになりたくてなったわけではないし、そもそも私は貴族ではないので、平民だった時の方が気持ちが楽だったなぁと思うこともある。
それでも、貴族の中には、私のような成り上がりや平民に興味を持つ人もいて、そんな人たちと面白おかしく健やかに私は、過ごしていた。
真っ白な封筒。
差出人の名前は、書かれていない。
「なんです?果たし状ですか?」
「なんで、私が果たし状をもらうんですか」
「あなたに果たし状を送りたい方が、この学園にはいっぱいいるからですわ」
「名門貴族の学校なのに、ずいぶんと恐ろしいわね。ラブレターだとは思わないの?」
「婚約者がいる方にラブレターを送るような情熱的な殿方は、いらっしゃらないわ」
もしや、本当に果たし状なのでは?刃物が入っているかもしれません。お気をつけて。など、同居人のはやし声を口で抑え、警戒しながら、封を切る。
意外なことに差出人は、婚約者からだった。
―お願いがあるんだ。裏庭で待つ。
「やっぱり果たし状じゃない」
「… … …」
面倒だな。
◇
授業が終わり、裏庭に向かうと、婚約者と一人の女子生徒がいた。
その生徒と話したことはない。…いや、一方的な会話を押し付けることを話すというのであれば、話したことはある。
名前も知っている。
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。思わず、イエスでもノーでもない曖昧なため息のような言葉を吐き出す。
「その点、私たちってとってもお似合いだと思うのよ。家も名門同士」
「…家の銘柄で、付き合うの?」
「…ぶふっ」
私としては、本人の恋愛感情とか、気持ちは必要なのでは?という純粋な気持ちで、聞いたのだが、よほどおもしろいらしい。
二人は、腹をかかえて、げらげらと(私からしてみれば、その姿こそ貴族らしからぬ姿のように見えたが)笑いこけている。
…そんなにおもしろいかしら。
「当たり前じゃない。あなたみたいな平民は、そうやって感情を優先するんでしょうけどね。私たち貴族は、そんな動物みたいな卑しいことは制御するようにしつけられているの。貴族は、理性というものを大事にしているのよ」
「はぁ…」
家柄。優秀な血筋。まぁ、言いたいことはなんとなくわかる。
馬と一緒だ。
優秀な馬は、優秀な馬から生まれるものだ。
数多くの厳選や交配を得て、天才が生まれる。
彼らが言っているのは、そういうものだろう。
ならば、彼らのほうが、動物的に正しいということになる…ような気もする。
「だから、あなたみたいな汚い血が混じるのは、彼も嫌なんですって」
「へぇ」
じっと、婚約者…いや元婚約者の顔を見つめる。
なにやら、こちらを見下しているような顔をしているが、あなた、最初に二言喋っただけよ。それなのに、どうして、ぼうっと突っ立っているだけのあなたが、偉そうな顔を出来るのか分からないわ。
「あなたは、どう思っているのかしら」
「僕も彼女と同意見さ」
「なるほどね」
あなた。
腹話術のお人形さんなのね。
私の家は、いわゆる成り上がりというやつで、一代貴族なんていう言葉通り、父の代で、仕事が評価され、爵位をいただいている。
そんなわけで、昔ながらの高位貴族の中には当然馬鹿にしてくる人間もいて、中々に愉快な毎日を送っていた。
今もなんやかやと馬鹿にされ続け、貴族ルールなんてものを平民の私はおろか、父も母もなんなら祖父母から使用人に至るまで、平民であるため、貴族とはなんぞやという有様であった。
まぁ、貴族なんかになりたくてなったわけではないし、そもそも私は貴族ではないので、平民だった時の方が気持ちが楽だったなぁと思うこともある。
それでも、貴族の中には、私のような成り上がりや平民に興味を持つ人もいて、そんな人たちと面白おかしく健やかに私は、過ごしていた。
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