上 下
6 / 41

しおりを挟む
私が、店に戻ると、「詐欺師」「恥知らず」「死ね」「神を驕った悪魔」だの誹謗中傷の張り紙やらペンキやらで汚されていた。

「はぁ…」

せっかく代々守ってきたお店なのに、こんなことで、すぐに潰されることになるとは、思ってもみなかった。
先だった父と祖父に申し訳がない。

「本当にお守りの力、なくなっちゃったのかな…」

私は、手元のお守りを見つめる。
これ一つ作るのだって、時間がかかっている。
確かに流行りの店に売っているのような可愛らしさや煌びやかさは、ない。それでも外見より中身が大事だと思って、そう信じて、頑張ってきたけども、このざまである。

「はぁ… これから先、どうしたら…」

私は、手元のお守りを見つめる。
開運招来のお守り。
あの男が、私に叩きつけるように返したのだ。

「申し訳ございません。私の力不足で、こんな扱いをさせてしまい…」

お守りは、さぞかし乱暴な扱いを受けてきたのだろう。
中の護符が、折れている。
お守りの袋も汚れているし、ところどころほつれている。
先日、買ったばかりで、どうやってここまでひどい状態に出来るのだろうか。

―こんこん。

扉が叩かれる音に思わず私は、身を固くする。
もしかしたら、またお守りを偽物扱いして、八つ当たりしに来たのかもしれない。
そう思うと、警戒して扉を開けることは出来ない。

「ど、どなた…でしょうか」
「俺だよ、俺」
「ああ…ロナルド」

声を聞いて、安心した。ロナルドは、私の婚約者だ。
もしかしたら、なぐさめに来てくれたのかもしれない。そう思うと、私は嬉しさで胸がぽかぽかとしてくる。
元々、親同士の仲が良くて、幼いころから遊んでいた。その延長線で、恋人になり、この度、婚約をした。来月には、そろそろ式の準備もしようか、という話もしていたのだ。

「ロナルド…会いたかったわ」

扉を開けて、彼の顔を見たら安心したのか、涙があふれて止まらない。
私は、思わず彼に抱き着いた。普段はなんとも思わないが、こうやって、自分が誹謗中傷の的になるのは、すごいストレスだった。それに本当はずっと怖かった。
彼らに詐欺師扱いされているときは、自分の人生を真っ向から否定されている気持ちだった。ずっと気が張っていたから、こらえられた。でも、今はもうだめだ。
そんな私が弱りきっていることなど、何も知らないのだろう。
ロナルドは、抱きついている私をそっと剥がし、私の目を見つめて、言った。

「俺たち、別れよう」

弱りきった私にとどめを刺すには、十分な言葉だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

処理中です...