上 下
7 / 21
1章

7

しおりを挟む
「お客さん。起きてください。もうお店閉めますから」

店員の声が私を呼び覚ました。肩をゆすられ、半分寝た状態で、私は起き上がった。いつの間にか、酒に溺れて机につっぷして眠ってしまっていたらしい。
頭の中はぐるぐると回り、胃の中はくらくらとした感覚があった。
酔いがまだ残る私を見て、周りを見渡すと、同じように酔いつぶれた冒険者たちが机につっぷして眠っていた。ある者は、床に転がっていびきをかいていた。

「今...何時ですか?」と、私は店員に尋ねた。彼女は時計を見上げ、微笑んで答えた。

「朝の4時ですよ。これから仕込みがあるんです。帰ってください」

私はポケットの中の財布を探った。お勘定と迷惑料として多めのチップを渡すと、店員はあからさまに喜んだ。嬉しさのあまり、耐えきれずにっこりと笑っている。
―若いっていいな…。
店員の若さとたくましさに感心しながら、私は酒場を出た。
外は、朝の清々しい風が吹いていた。私は深呼吸をして、宿に向かうために歩き出した。
ひんやりとした空気で頭が少しすっきりした気がする。
それでも宿に向かって歩いていると、少しうんざりした気持ちが残っているのを感じた。
パーティーメンバーの離脱。
いや。この場合は、私が追い出されたというべきか。
これからどうしたら…魔王を倒す?私一人で?国にはなんて報告したらいいのか…それよりあの王子様をどうするべきか…。
悶々と考えていると、いつのまにか宿についていて、私はそのままベッドに倒れこむと、眠ってしまった。

目覚めた瞬間に頭痛と吐き気に襲われた。まだ酔いが残っているのだろう。布団から身を起こし、窓を開けて外を見ると、明るい朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえた。冷たい風が頬に心地よく当たる。しかし、その明るさに耐えられず、私は目を閉じ、布団に潜り込んだ。

宿の部屋は静かだった。誰もいないようだ。彼らはすでに次の旅に出発したのだろう。どうせ、ここの宿代も私に押し付けているに違いない。
そういえば、彼らが私に何かおごったことなんて一回もなかったな、と思った。
国からの援助金があるのだから、払う必要も考えもなかったのかもしれない。
しかし、これからはそうもいかない。
私を追い出したことで、国からの補助金はなくなることだろう。
私には、もうどうでもいいことだが。

「う~。頭がぐわんぐわんする…」

久しぶりに酒を飲み過ぎた。反省。しかたない。大人には、飲まなきゃやっていられないことが多すぎなんだ。それでも、昨晩は、ついつい飲みすぎてしまったかもしれないが。今、その代償を支払わされているわけなんだが。

「もう二度と、こんなことはしない」と、心に決めた。しかし、吐き気が収まるまでにはまだ時間がかかりそうだ。私は、布団に横たわって、小鳥のさえずりを聞きながら、二度寝か三度寝を決め込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

処理中です...