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【第十話・波乱愛憎渦巻く前世編*咲名*②】

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青葉城で、姫様の護衛生活にも慣れたある時・・・。

「陽葵咲名さん」

背後から声を掛けられ、振り返る。
身嗜みの整った綺麗な女性。
確か、調理担当の女中だったと、咲名は記憶していた。

「いきなり声を掛けて御免なさいね」
「いえ、何か?」
「随分と、透夜に気に入られている様ね」
「そう、ですね。仲良くさせて貰ってます」
「夜も、かしら?」
「下衆な事を伺ってくるんですね」
「あら、何にも卑下する事じゃないわ。人間に備わっている性だもの」
「そうだとしても、人の事情に易々踏み込むのはどうなのでしょうか」
「ふふ、そう睨まないで。ちょっと悔しいから、意地悪したくなっちゃっただけなの。全くもって、貴女の言う通りだわ、御免なさいね。最近、透夜に声を掛けても、ぞんざいにされるだけだから、少し妬いちゃったのよ。ま、今日も振られる覚悟で、声は掛けてみるけど、それじゃぁね、可愛い忍さん」

女中は、綺麗な笑みを残し、踵を返して行った。

ーーーー抱きやすいお手頃な相手ってだけでしょうね、私は。でも、私にとっては・・・だめだめだめ、余計な感情を交ぜてはだめ。

近頃、透夜は情交の相手として、自分を抱く様になった。
自身は忍だ。
今までの様に、情交に愛慕など用いてはならない。
女の忍びとして、熱心に精進している男性を癒やす為、褒美として身を捧げるのもまた務め。

ーーーーそう、いわば、透夜さんが日々健康元気に舞姫様の身辺を守っていられる様に、私は透夜さんの心身の労いをさせて貰っているのだけで、私欲で抱かれている訳じゃない、あくまで仕事の一環、現を抜かしてる訳ではない、うん!!

「咲名」
「は、はい!!」

意中の男性が急に目の前に降り立ち、思わず上擦った声で返事をしてしまう咲名。

「悪い、驚かせたか?」
「ちょっと考え事をしてました。忍びとして情けないですね、常に緊張してないといけないのに」
「気にするな。たまに気を休めるのもいいさ」

透夜の手が延び、なでなで、と頭を撫でられる。
それが余りにも毎度心地よく、ついされるがままに、手の感触を堪能してしまう。


「・・・咲名、今夜、相手願えないか?」

お誘い、お受けしたいのは山々、だけど・・・。

「その、今日は、御免なさい、月のものが来ていて」
「そうか、別に謝る必要はない。体、冷やさない様にな」

強弱ないぶっきら棒な言い様だけど、思い遣りのある言葉。
去ろうとする透夜の右手を、咲名は両手で掴む。
さっきの女中の言葉が、ふと頭を過ぎる。

ーーーー今夜は、あの女の人を抱くの?

「咲名?どうした?気分でも悪いのか?」
「・・・・っなら」
「咲名?」
「口、でなら」

言葉にして、すぐさま後悔する。
自分はなんてはしたない提案をしてしまったのだろうと。
穴があったら今すぐそこに飛び込みたい心境だ。

「ご、ごめんなさい、やっぱり無しですっ聞かなかった事にして下さい」

透夜を握っていた手を離し、言い逃げしようとしたが、背後から透夜の片腕が胸下に回され捕まる。

「逃げるな」
「・・・今は、逃して欲しいです」
「咲名の親切を無駄にするのもなんだし、今夜は咲名の小さな口で、奉仕して貰うのもいいね」

耳元で色のある声で囁かれ、咲名は腰が抜けそうになる。
自分で提案しておきながら、了承されると、経験浅い自分には時期尚早な熟練技な気がして、怖気付いてしまう。
でも、これも仕事仕事仕事!と自身に言い聞かせ、奮い立たせる。

「冗談だ、無理しなくていい」
「だ、大丈夫です、で、出来ます!」
「なら、今夜は沢山の口付けを、咲名にさせて貰おうかな」
「え?」
「嫌か?」

首を振る。
嫌いな訳ない、むしろ・・・透夜との口付けは毎度、頭がふんわりボヤけて上下左右前後が分からなくなる程、気持ち良くさせられる。

「じゃ、また今夜、いつもの隠し部屋で」

咲名に絡めていた腕を離し、触れるだけの口付けをすると、透夜は廊下を闊歩していく。
全身が煮立ち、咲名は暫くその場から動けずにいた。


【第十話、波乱愛憎渦巻く前世編*咲名*ーーー終】
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