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case3 薔薇十字狂騒曲
1 赤い髪の、変なやつ
しおりを挟む人生って、想像以上だ。三年前のあの日、そう思ったんだ。
――良い場所を見つけた。
肩までかかる金髪と、セーラー服のカラーとを風になびかせながら、亀井十香(かめいとおか)は校舎の屋上で一人ほくそ笑む。ここなら誰かが来る心配もないし、思う存分ゆっくりできそうだ。
十香はいつも、昼休みに入ってすぐに教室を出て購買へ向かい、食べ物と飲み物を買う。その後向かうのは、三階の屋上そばの階段である。十香はいつもそこで昼食を済ませることにしていた。屋上へ出る扉には鍵がかかっていて、生徒は無断で屋上へ行くことはできない。そのため、普段からその階段に人が近づくことは殆どないのだ。だから、十香がその扉のノブに鍵が差さったままであるのを見つけたのは、偶然であり、また必然であるとも言えた。
扉を開け屋上へ出て、周囲を見渡してみた。静かなもので、十香の他に人影はない。おそらく鍵は、整備点検か何かの折に係員が忘れていった……というところだろう。鍵をスカートのポケットにしまい込む。勤勉実直な生徒であれば、ここは素直に職員室に鍵を届けにいくところなのだろうが、十香はもう完全にくすねるつもりでいた。
九月半ばのよく晴れた日である。やや残暑はあるものの、風があって心地よい。にわかに気持ちが高揚してくる。この屋上という空間が、自分だけのものになったかのような気がした。十香は入ってきた扉がある屋上塔の側面に回ると、取り付けられた梯子からその更に上まで登った。
「ひゅう! こりゃいいや」
思わず独り言が漏れる。この学校で最も高い場所なだけあって、眺めは壮観だ。学校の敷地を越えて、夕桜の町並みが見下ろせるようになっていた。屋上塔の屋根部はそれなりに広い平らなスペースになっていて、中央辺りに給水タンクが置かれている。十香は景色を見下ろせるように縁の近くに座ると、購買で買ったコロッケパンの袋を開けた。
いつもの階段だと、近くに教室があるからいくらか騒がしいこともあるのだが、ここは静かで落ち着けていい。頬張ったパンをジュースで胃へと流し込みながら、そんなことを思う。
――去年の春に高校へ入って以来、十香にとって昼休みとは一人きりで過ごすものだった。一緒に昼食をとる友達なんていないし、教室も学食の食堂も、居心地が悪い。別にそれが寂しいなどとは思わない。ただ、周囲から好奇の目に晒されるのは嫌だった。それも自意識過剰なのだろうとは思いつつも、どうしても輪に馴染むということができない。中学の頃まではこうではなかった。それまでは普通にできていたことができなくなってしまったのは、いつの頃からだっただろうか。
十香は手早く食事を済ませると、スカートのポケットから旧マイルドセブンこと、メビウスの紙箱と百円ライターを取りだして、食後の一服を始めた。もちろん、喫煙がバレたら停学は必至であるから、いつもは人があまり来ないトイレなどでひっそりとやるしかないのだが、こういう場所なら他人の目を気にしなくていいから気楽なものだ。
一本吸い終わって、吸い殻を筒型の携帯灰皿に押し込むと、十香はあくびを一つついた。
「……ねみぃ」
いつもなら携帯でも弄って時間を潰すところなのだが、気持ちの良い場所に出てきたせいか、少し眠気を催してしまった。その場に仰向けに寝そべると、目の前に空があって、自分の身体がふわふわと宙に浮いたような奇妙な心地がした。固い床にそのまま寝ると後頭部が痛いので、下で手を組んで枕代わりとする。風の音を聞きながら目を閉じた。
ゆっくり呼吸すると、澄んだ空気が肺を満たしていく。ああ、良い感じだ。この調子なら数分もしないうちに眠りに落ちることができそうだ――そう思ったときだった。
「ん……?」
目の前がうっすらと暗くなる感じがした。いや、目を閉じているのだから暗いも明るいもないのだが、まぶたの向こうからの光が、ふっと何かで遮られたかのような気がしたのだ。それが何なのか確かめようとして、目を開けた。
「あっ」
今のは自分の声ではない。見知らぬ少女が隣で座り込み、十香の顔を上から覗き込んでいた。声を発したのは彼女だった。
――随分と綺麗な顔をしてるんだな。十香はそう思った。
色白の肌にぱっちりとした目、小さめながらも品のある高い鼻、きゅっと締まった唇……全体的にまだあどけなさはあるものの、成熟すれば相当な美女になるであろうことが容易に想像できる顔立ちだった。胸のあたりまで伸びた、艶のある赤髪は緩くウェーブがかかっている。漫画の美少女がそのままここへ抜け出てきたかのような、なんだか現実感のない可憐さだった。
……ところで、こいつはなんでここにいるんだ?
「……うおっ……おおわぁっ!?」
ワンテンポ遅れて、十香は驚き叫んだ。バネが跳ねるような勢いで上体を起こすと、そのままのけぞるように後ろへ下がって少女から距離を取る。
「お、おおまえっ、なんだよ!? なんでここに……」
慌てながらも尋ねると、少女はにこっと歯を見せて笑った。美人系の顔立ちだと思ったが、笑うとまた随分とかわいらしい顔にも見えた。
「屋上の扉、開いてたから。誰かいるのかなーって! あはは、ほんとにいた!」
「あっ」
しまった。そういえば扉をちゃんと閉めた覚えがない。気持ちばかり先走って、アホかあたしは。こいつは偶然、開けっ放しの扉を見つけて入りこんできたのだろう。
「まずいっ。扉、閉めないと」
教師に見つかったら、なんて言われるかわかったもんじゃない。
「だいじょぶ! ちゃんと閉めてきたから」
「あ……そう」
十香は少女を今一度見てみる。こいつ、なにが目的だ……? いや、ただ興味本位で来てみたってだけか。だったらさっさと、ここから追い出してしまおう。せっかく一人で落ち着ける場所を見つけたんだ、邪魔されてたまるか。
「……お前、一年生か?」
この学校の女子生徒の制服は、リボンタイの色で学年がわかるようになっている。赤、青、緑の三色があり、入学した年度ごとに順繰りで割り当てられるのだ。少女の、着崩した制服の上からとりあえず付けただけといった感じのゆるゆるのリボンの色は赤。今年度の一年生の色だった。
少女は頷く。
「うん。そっちは二年生だね?」
二年生が青、三年は緑のリボンとなっている。十香のものは青色だ。
「ああ、まぁな。っていうか、先輩相手に気安いなぁ、お前」十香は頭を掻きつつ言う。「はぁ……まぁいいや」
いちいちそんなこと訂正するのも面倒だし、あたしだって別に先輩風を吹かせたいわけじゃない。
それよりも、こいつのことだ。あたしは、こいつの顔をどこかで見たことがあるような気がする。会ったことがある? いや、そりゃあ同じ学校に通ってるんだからどこかで会ったことくらいあるかもしれないが……。
「お前、名前は?」
気になって、尋ねてみる。名前を聞いたら、もしかしたら何か思い出すかもしれない。
「あたしの名前?」
言って少女は立ち上がると、タタッと十香のほうへ近寄りその目の前でかがみ込む。
「えっ、ちょ……」
なぜ近寄ってくる? 困惑する十香の手を取り、ぐいと顔を寄せてくる。
「名前は志野美夜子(しのみやこ)! よろしくね!」
いやいやいや。距離感の詰め方おかしいだろ……。こっちは名前聞いただけなのに、なんでいきなりそんなフレンドリーなんだよ? ……さては、あれか? ああ、多分、あれなんだな。つまり……こいつはいわゆる、『変なやつ』なんだ……。
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「あ、ああ……よ、よろしく」
十香は曖昧に笑って握手を握り返す。志野美夜子、という名前には心当たりがなかった。やはり、ただのデジャブだったようだ。こんな妙な人間と会ったことがあるなら、そうそう忘れやしないだろう。
「――ふーん……鍵が差されたままで……。それでここにいたんだね」
美夜子は十香の隣に足を伸ばして座っている。結局、十香は美夜子に、自分がなぜここにいたのかということを説明するはめになってしまった。
「それって、先生に言っておかなくていいの? 『鍵、忘れてましたよー』って」
「……いーんだよ。べつに誰かに迷惑かけるわけじゃないんだし」
「んー……そうかな? ……そうかも」
ああもう、めんどくさいな。さっさとどっか行ってくれないかな、こいつ。……いや、その前に一応釘を刺しておくか。
「チクったりすんなよ?」
「え? しないよ! するわけないよ!」
当然だ、とばかりに美夜子が言う。だが、まだ信用はできない。あたしはこいつがどういう人間なのか、まだなにも知らないんだから。
「…………」
話題が途絶えて、沈黙が流れる。
「……えっと」
気まずさに耐えかねた様子で美夜子は何か言おうとする。そのまま「もう戻るね」となってくれたらいいのだが。しかし十香のその希望は叶えられなかった。
「と、十香ちゃんは……好きな人っている?」
「……あ?」
こいつ、気が触れてんのか? 唐突すぎるだろ。
「あのな……なんであたしが初対面のお前にそんなこと教えなきゃなんないんだ?」
「うっ……ごめん」美夜子は頭を抱える。「何の話したらいいか思いつかなくって……」
それにしたって話題の選び方が下手くそすぎる……。あたしも人のことは言えないけど、ここまでひどくはないぞ。
「はぁ……いねーよ。そんなもんは」
律儀に答えてやる義理もないが、あまりにもあんまりな空気感に耐えかねた。
「正直言って、全然興味がねーや。そーいうの」
「そ、そうなんだ!」
美夜子は十香が答えてくれたことに喜んだようで、ぱっと顔を明るくする。
「じゃあ、あたしの番ね。えっとね、あたしは――」
「いいよ」
「へ?」
「言わなくていい。お前の恋愛事情なんざ知ったこっちゃない」
「え、えぇー? そういうこと言っちゃう? ひどいなぁ、もぉ!」
美夜子は露骨に残念がる。大方、始めから自分の話がしたかっただけなのだろう。この手合いは大概がそうだ。
「うーん。しかたない。じゃあ別の話にしよう!」
まだ続くのか……。
「……といっても、何の話すればいいのか思いつかないや」
なんだよそれ……。
「ねぇ十香ちゃん。こういうときって、なに話せばいいのかな?」
おい。それをあたしに訊くのか?
「……さぁ。あたしもよくわかんねーけどさ、お前は唐突すぎんだよ。まずはもっと無難な……そうだな、例えば、天気の話とかから入るもんなんじゃねーの?」
「なるほど、天気かぁ!」
美夜子は得心いったように手を打つ。ゴホン、と咳払いをして、
「……今日はよく晴れてるねぇ」
「……そうだな」
「ちょっと、暑いかな?」
「ああ」
「でも風があるから気持ちいいね!」
「おお」
「…………」
「…………」
「ちょっと! 全然話続かないじゃん!」
「知らねーよ! お前の続け方が下手なんだろ!」
なんだかもう、段々いらいらしてきた。
「じゃーあ……そうだ! やっぱりこの話しちゃおう! これ、聞いたらきっと十香ちゃん驚くよ!」
人の気も知らず、脳天気に話を続けようとする美夜子を見ると無性に腹が立った。態度で示してわからないのなら、わかりやすく言葉で言ってやる。十香は勢いに任せて美夜子へぶつけてやることにした。
「あのな……そもそもあたしは、お前とお喋りなんてしたくないんだよ」
「えっ……?」
美夜子は驚いたような顔をする。十香は胸にちくりと痛みが走るのを感じたが、一度堰を切った言葉はもう止まらない。
「一人で誰にも邪魔されず、ゆっくり静かな休み時間を過ごしたいんだ。なぁ、頼むからどっか別の場所に行ってくれないか」
「あ……ええっと……」美夜子は狼狽したように片手で髪を軽くかき乱す。「そっか……。ごめん、気がつかなくて。なんか一人で盛り上がっちゃって、馬鹿だねあたし。……反省!」
美夜子はぎこちない笑みでそう言うと、立ち上がろうとして、何かに気がつく。
「あれ……?」
床に落ちていた何かを拾い上げる。ライターだった。おそらくさっき動いたときに十香のポケットから抜け落ちたのだろう。
「これ、十香ちゃんの?」
「……いや。前にここに来た誰かが忘れていったんだろ」
煙草のことは隠しておきたかった。そういうことをするやつには見えないが、教師に密告される可能性がないとも限らない。
「……じゃあ、あたしが持っていってもいい?」
「え?」
一度自分のものでないと言ってしまった手前、今さら訂正することもできない。
「……勝手にしろよ」
しかしライターなんて持っていってどうするつもりだ? まさか、こいつも煙草を吸うのだろうか? 美夜子はライターをポケットに仕舞うと、立ち上がった。
「邪魔してごめんなさい。もう戻るね」
「…………」
美夜子は屋上塔の梯子を下りていき、十香の視界から消えた。下の方で扉が開き、そして閉じる音がする。これでやっと一人きりになれたのだ。それは自分が望んだものだったはず……しかし、十香の中には熱い腫れ物のような痛みが残る。
ひどいこと、言ったよな……。悪いやつじゃなかっただろうに。
吐き気にも似た自己嫌悪の思いが十香の胸中で渦巻く。
あたしはいつもこうだ。孤立を恐れて孤高を気取る、孤高を気取って孤立する。その繰り返し。こんな人間、嫌われて当然だ。
そう長い時間でもなかったのに、なんだかひどく疲れた。十香はまた、仰向けに横になる。鬱屈とした気持ちを吐き出すように深呼吸すると、ゆっくり目を閉じた。
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――目を覚まし、携帯で時間を確認して十香は面食らった。
「げっ……完全に寝過ごした」
もう既に放課の時間となっている。昼休みの後には五限と六限の授業があったはずだが、サボってしまった。サボり自体はいつものことであるからいいとして――いや、よくはないが――、授業前後のチャイムにも気づかず眠りこけていた自分の呑気さに呆れる。十香は腕を上げて大きく背伸びをしてから、屋上塔を降りる。
屋上から三階、そして二階に下り、自分の教室へと戻る。ホームルームが終わって二十分くらい経つのだろうか。教室の後ろ側から入ろうとして、扉に手をかける。その時、教室の中から女子生徒同士の話し声が聞こえた。
「――そういえばあの人、またサボってた」
「あー亀井さんねー。いつものことでしょ。不良だし」
「なんていうか、何考えてるのかわかんなくて怖いよね。誰とも喋ろうとしないし」
扉に手をかけたまま、動きが止まる。……タイミングが悪かったようだ。少し、時間をずらしてから入ろうか。
「そーそー。なーんか、いっつも怒ったような顔してるしさー、何にそんなにいらついてるんだか」
……元々こういう顔なんだよ。悪かったな。
「ミカは彼氏いるんだから、気をつけなよ」
「は? なんで?」
「ほら、噂になってたじゃん。あの人、男に誘われたら誰とでもする、ヤリマンビッチだって。あんたの知らないところで粉かけられてたりして!」
「まっさかー、マサくんはそんなこと――」
扉を勢いよく開いた。
「あ……」
扉近くに立っていた三人の女子生徒は、十香を見て硬直する。
ああ、嫌だ嫌だ。気まずい。こういう空気はまっぴら御免なんだ。だけど、黙ってこいつらに好き勝手言わせるのもムカつく。でたらめを言いふらされることにももう慣れたが、こいつらに気を遣って、こちらが引くというのも馬鹿らしい。自分の教室に入るのに、なんで遠慮する必要があるんだ。こいつらどうせ、あたしに面と向かって言うだけの度胸はないんだ。堂々と入ってやればいい。
十香は三人を一瞥する。三人とも、半ば怯え、半ば好奇の目で十香を見ていた。
そんな目で見て、あたしにいったい何を期待しているのやら。そんな噂は事実無根であると弁解すること? 傷ついて、涙を流すこと? それとも、キレて掴みかかっていくこと?――アホか、全員死ね。
十香は三人へ、吐き捨てるように言う。
「……なに? 言いたいことあんなら、言えよ」
無視してもよかったが、あまりじろじろと見られるのも不快だった。こいつらに差し出す言葉なんて、この程度で充分だ。
「な、なんでもない……」
三人とも苦笑いを浮かべながら、十香の横を通って教室を出ていった。
十香はため息をついて髪を掻く。
イライラする。今日は早く帰って寝よう……いや、さっきまで寝ていたから眠くはない。どこか気晴らしに寄り道でもするか。ああ、そうだ。今夜は親父が飲みに出かけるから、自分と弟の分の弁当を買って帰らないといけないんだった。
そんなことを考えながら、教室内を見回す。大半が既に部活に行くか帰宅するかしているようで、もう数えるほどの人数しか残っていなかった。
「あれ……?」
十香は、奥の窓側にある自分の机の周りに、三人ほど集まっているのを見た。参ったな。お喋りなら別の場所でしてほしい。こっちは鞄だけ取って、さっさと帰りたいのに。十香はそこへ近づきながら声をかける。
「……ちょっとどいてくれるか」
「あっ……やっと戻ってきた。待ってたのよ、亀井さん」
三人のうち一人が十香を見て言う。真ん中分けの黒髪で、真面目そうな印象の女子生徒。十香は嫌な予感がした。あたしを待っていただって? ……なんでこいつが?
佐村霧華(さむらきりか)。クラス委員長及び生徒会書記であり、整った顔立ちと優れたプロポーション、コミュニケーション能力の高さで男女問わず学内の人気者である。隣の女子二人はいつも一緒にいる取り巻きだったと思うが、印象が薄くて名前はちょっと覚えてない。
はみ出し者である十香にとっては、霧華はまともに会話すらしたことがない相手だった。そんな高嶺の花が、いったい何の用があって?
「どこに行っていたの? 捜したのよ」
「あー……いや、ちょっとな」
十香は霧華から目線を逸らせつつ答えた。屋上でサボって寝ていたなど、言えるわけがない。
「……まぁいいわ。べつにあなたが授業をサボったことを咎めようだなんて思ってるわけじゃないの。少し訊きたいことがあって」
「……なに?」
「私の財布を知らないかしら?」
「は……? 財布?」
なにを言ってるんだ、こいつは?
「……なくしたのか、財布を?」
「ええ。間違いなく、鞄に入れていたはずなんだけどね。いつの間にかなくなっていたの」
「間違いなく」を強調して言う。それだけ記憶に自信があるということだろうか。
「それはつまり……盗まれた、ってことか?」
「多分、そういうことになるんでしょうね。まだ先生には言ってないわ。私もそれに気がついたのはホームルームが終わった後だったから。知ってるのはこの子たちだけ」
つまり霧華と左右二人の合わせて三人だけということだ。たった今、十香が追加された。
「ふぅん……そりゃ気の毒にな」
放置される鞄の中にそんな貴重品を入れておくのはどうなのだという見方もあるだろうが、学内で同じようにしている者は少なくない。霧華がとりわけ不用心だったとは言えないだろう。
「で、なんであたしにその話を?」
霧華は左右二人と交互に顔を見合わせるようにする。何やら言い辛そうな雰囲気だ。
「その……私が財布を鞄に仕舞ったのは、学食の帰りだったの。その頃にはもう昼休みも終わりかけで、すぐに五限目の授業が始まったわ。五限目は地学の授業で講義室に移動したから、その間、教室は無人だったわけ」
地学の授業では毎回、教室を移動することになっている。一階の西側にある地学講義室だ。
「私は五限目が終わると早い内に教室に戻ってきて、六限目の英語の授業の準備をしていた。それから授業が終わってホームルームまで、私は自分の机から離れなかったわ。鞄はずっと机の横のフックに掛けてあったから、私が席に座っている間に財布が盗られた可能性はないの。すると、財布が盗られたのは五限目の地学の授業中ということになるわ。私の言ってること、わかるかしら? 亀井さん?」
……なるほど、そういうわけか。それが、こいつがあたしに話しかけてきた理由か。
「ああ、わかるよ。要するに、あたしのことを疑ってんだろ? 五限目をサボってたから」
「疑うだなんて……そんなつもりじゃないのよ」
霧華は心外そうに言ってみせる。……欺瞞だ。そんなつもりでないなら、一体なんだというのか。
「ただ、地学の授業に出てなかったのはあなただけだったから。もしかしたら何かを見ていたかもしれないと思ってね」
「何かって、財布を盗んだ犯人のことか? 残念だけど何も見てないぞ。そもそもあたしだってその時間、教室にはいなかったからな」
「……そう」
霧華はやれやれ、といった風に肩をすくませた。すると、霧華の右隣にいた巻き毛の女子がすました顔で「ねぇ亀井さん」と口を開く。
「あなた……本当に、やってないのかしら?」
「……なんだって?」
十香は相手を睨みつけた。
「やめなさいよ恵美(えみ)」
霧華が友人をたしなめる。しかしその言葉に真剣さは伴っておらず、形だけのもののように思われた。すると今度は霧華の左隣にいた小柄な女子が言う。
「でもさー実際のとこ、どうなのよ。あんたがやってないって証拠、あるの?」
「祐子(ゆうこ)も。よしなさいったら。亀井さんに失礼よ。……まぁでも、そうね」
霧華は穏やかな微笑みを浮かべて、十香に向かって問う。
「もしそういうものがあるなら、話してくれるかしら? それなら私たちも亀井さんを疑う必要はなくなるわけだし」
「……なんだよ。さっきはあたしのこと疑ってないって言っただろ」
「もちろん、私は亀井さんのことを疑ってなんていないわ。でもほら、それでは納得しない人だっているわけ。それに、あなたがやってないという根拠があるなら、それに越したことはないじゃない」
「……よく言うぜ」
反吐が出る。よくもここまで上っ面だけの言葉を並べられるものだ。善人ぶって、そんなに体面が大事なんだろうか。気に入らない。言いたいことくらい、はっきり言えばいいものを。これなら隣の二人のほうがまだマシなレベルだ。
しかし、どうしたものだろう。霧華の話が正しいのならば、客観的に見て、自分が怪しまれるのも無理はない状況だと十香は思う。五限目の地学の授業を受けていなかったのは十香だけ。つまり、十香はクラスで唯一アリバイのない人間なのだ。それに、十香自身の印象というものがある。
目立つ金髪に、常習的に授業をサボる素行の悪い不良女、か。そりゃあ、誰だって財布泥棒の容疑者として筆頭に挙げるよな。
「早く答えなさいよ。霧華の財布を盗ったのがあなたじゃないという説明はできるの?」
恵美と呼ばれたほうの巻き毛の女子は、冷静な口調で十香を問い詰めた。十香はため息をつきながら答える。
「無理だね、残念ながら。あたしはさっきまでずっと一人だったから、アリバイを証明することはできない」
事実を述べただけだったが、それが開き直りと見えたのか、三人は互いに顔を見合わせて呆れたような顔をする。
「もうさー、手っ取り早くいっちゃおうよ?」今度は祐子と呼ばれたほうがへらへらと笑いながら言う。「鞄の中を見せてもらえれば、それでわかることじゃん」
「鞄……?」
「そ。中に財布があるかどうか、確認させてもらえばそれで終わりじゃん?」
「なるほど」恵美もそれに同調する。「まだ手元に持ってる可能性もあるから、身体検査も合わせてやったほうがいいわね」
霧華は少し考える素振りを見せた後、十香に向かって言う。
「……ということなのだけれど。どうかしら、亀井さん? あなたさえよければそうさせてくれると助かるわ」
あくまで自分は積極的な立場でないように言ってはいるが、実のところ、霧華はこの展開になるのを待ち望んでいたのではないか。自分の手は汚さず犯人を断罪しようという、その浅はかな心づもりが透けて見えるようだ。それに当人がこのスタンスである以上、十香が犯人ではないと知れたとしても、やはり形ばかりの謝罪が並べられるだけだろう。持ち物検査などという侮辱まで受けてそれでは、さすがに割に合わない。
「……断る」
十香は毅然として言った。霧華は表情を崩さず問い返す。
「どうして?」
「当たり前だろ。あんたらにあたしの荷物を覗かれたくないからだよ。色々入ってんだ、女子の鞄の中には。そんなことはあんたらにだってわかるはずだ」
「それなら見るのは私一人だけにするわ。約束する」
「同じだっての。痛くもない腹を探られるだけでもたまんないのに、鞄の中まで見られるなんて冗談じゃない。あたしにだってプライドはあるんだ」
「ふぅん。尊厳の問題というわけ?」
「ああ。どうしてもって言うなら、警察でも呼べよ。それで恥をかくのはあんたらだけどな」
言いながら、十香は机横にかけていた自分の学生鞄を手に取る。
「ちょっと待ってよ」霧華は鞄を取った十香の手首を掴んで制止する。「そう頑なな態度を取らなくてもいいじゃない。それとも、見られたらまずいものでも入ってるのかしら?」
十香は舌打ちして霧華を睨みつけた。
「……あのな、話聞いてたか? これ以上うんざりさせないでくれよ。あんたが財布をなくしたことなんて、悪いがこっちにとってはどうでもいいんだ。あたしのこと疑うだけなら勝手だけどな、それを行動に移そうってんなら、そっちも相応の覚悟もってやってもらわないと困るぜ」
……なんて。今のはちょっと、かっこつけすぎたか? まぁいいか。喧嘩ってのは見栄とハッタリが大事だからな。
「……言ってくれるじゃない」
霧華は不快さを表すように眉を寄せる。
「それならこっちだって言わせてもらうけどね。亀井さん。状況から考えてあなたは自分が相当疑わしい立場にあるってことをよく理解するべきだわ。あなたがいくら口で否定したとしても、こちらにはそれを信じるだけの材料がないのよ。だから持ち物検査だろうがなんだろうが、今は私たちに協力して自分の無実を証明することに尽力すべき。違うかしら?」
「……ちっ」
くそ。開き直りやがった。むかつく。むかつくが……言ってることは多分正しいのだろう。自分だって、霧華の立場だったら同じように考えたかもしれない。……どうする? いっそ、このまま走って逃げちまおうか? いや、それはさすがにまずい……本格的に犯人扱いされかねない。
とにかく、今鞄の中身を見られるのはダメだ。検査だけはなんとしても避けなければならない。なんとかこの状況を打破する方法はないだろうか……? しかしそんなものがすぐに思いつくはずもない。頭の固さには自覚があるのだ。学校のお勉強だって数学が一番苦手だし……それは、関係ないか?
「……? ねぇ、あなた」
「あ?」
十香は自分が呼びかけられたのかと思ったが、どうやら違うようだった。
「何か用かしら?」
霧華は十香の後ろのほうを見ていた。十香は背後でその声を聞く。
「あっ……ちょっと、その人に用が」
この声……? もしやと思って十香は後ろを振り向く。
「お前、なんで……?」
そこに立っていたのは、屋上で出会った一年生の少女……志野美夜子だった。ホームルームは終えてきたのだろう、肩に鞄を提げている。
「ダメだよ十香ちゃん。クラスメイトとは仲良くしないと!」
右手の人差し指を立て、軽く咎めるような口調で美夜子は言う。
「う、うるせえな。お前にゃ関係ねーだろ」
どうやら少し前から後ろで話を聞いていたらしい。
「……っていうか、あたしに用があるって言ったか? なんだよ、いったい?」
「あー……うん。まぁ、それは大したことじゃないし後でいいや。それよりもまず、十香ちゃんが財布を盗んだ犯人じゃないってこと、わかってもらわなきゃ」
「わかってもらうって……どうやって?」
「……どうやって?」美夜子は一瞬きょとんとした後、眉間をさすりながら、「ええっと……どうやってだろ?」
「ノープランかよ……」
がっくりとくる。美夜子と話したのは昼休みの最中のことなので、五時限目の授業中のアリバイにはならない。思わぬ乱入者だったが、状況には変わりなしということになる。それにしても、美夜子の言う用事とはなんなのだろう?
「あなた、一年生よね?」
霧華が美夜子に尋ねる。
「あ、うん。そうだよ」
「そうです、でしょう?」
「そう……デス」
ぎこちない。
「悪いけど今、亀井さんとは大事な話をしているところなの。部外者は席を外してくれるかしら?」
「で、でも……十香ちゃんは一人なのに、そっちは三人もいるじゃん! それじゃ不公平だと思う……思い、ます!」
「はぁ……?」
何を言っているのだ、という表情で霧華は左右二人と顔を見合わせる。困惑していたのは、十香も同様だった。
なんなんだよ、こいつ……。わからない。不可解。理解不能だ。なんでこいつは、あたしなんかの味方をしようとするんだ……?
「あの、すみません」
涼やかな声がして、一同の視線がそちらに向かった。十香の席から一つ後ろ……その席に座っていて、先ほどまで友人とのお喋りに興じていた一人の女子が、こちらに向けて声をかけてきたのだった。肩より少し下で切り揃えた髪には艶があり、澄ました表情からは怜悧さが覗える。その女子生徒は、控えめな所作で右手を上げていた。
「部外者ですけれど、発言してもよろしいかしら?」
「……いいわ。なにかしら、岸上(きしがみ)さん?」
霧華は一瞬、躊躇うような表情を見せたが、発言を促した。
岸上薔薇乃(きしがみばらの)――テスト成績の上位者掲示では毎回トップに君臨する、学内一の才媛と謳われる人物。容貌美しく、才色兼備の人という点では霧華と同じであるが、その性質は大きく異なっている。交友が広くクラス委員、生徒会などの活動も精力的に行う霧華に対して、薔薇乃はそういった表立ったことには全くと言って良いほど興味を示さないタイプだった。人当たりは悪くはないが、謎めいた、どこか近寄りがたい雰囲気がある。そこが却って魅力的に感じられるのか、男女を問わず密かに彼女に憧れる者は多いようだ。しかし、彼女と一定以上仲良くなれる人間は稀で、学外の彼女について知る者は殆どいないらしい。十香にとっても、薔薇乃とまともに言葉を交わすのは初めてのことだった。
「失礼ながら、先ほどからこっそりとお話を聞かせていただいておりました。事情はおおよそ把握したつもりです。その上であえて申し上げるのですが……わたくしは、亀井さんが財布を盗んだ犯人であるとは、まだ断定できないように思うのです」
「……どういうこと?」
霧華は憮然とした表情で尋ねた。
「五限目の地学の授業が行われていた最中、犯行が行われた……そう考えるならば、犯人はその時間に自由に動くことができた人物ということになります。今のところ明らかになっているのは、たったそれだけのこと。これでは、亀井さん以外にも容疑をかけられそうな人物はいくらでもいるのではないでしょうか? 理由の有無に関わらず、その時間授業に出ていなかった者は他クラスにだっているでしょう。あるいは、教師や用務員の方の犯行だとも考えられる。それなのに亀井さんだけを疑うというのは、やや、乱暴な話ではありませんか? まぁ……亀井さんのほうにも多少の問題というか、要因はありそうですけれど」
おお、いいぞ! 最後の余計な一言を除けば、あたしの言いたかったことを見事に代弁してくれている!
「そんなことは……言われずともわかっているわ」霧華は面白くなさそうに横髪を弄りつつ、「でも、真っ先に疑うとするなら同じクラスの亀井さんということになるのは仕方がないじゃない。彼女は持ち物検査だって拒んだのよ。やましいところがないなら、鞄の中くらい見せられるはずでしょ?」
「その持ち物検査とやらですけれど、効果的な手段とは言いがたいと考えます」
「ど、どうしてよ?」
「検査を行って、それで財布が見つかれば良いですが。見つからなかった場合、佐村さんたちはそれで亀井さんの無実を完全に信じることができるのでしょうか?」
「……何が言いたいの?」
「犯行が行われたと考えられる五限の授業からはもう随分と時間が経っておりますし、その間に盗んだ財布をどこかへ隠したとも考えられる。もしもわたくしが犯人ならば、このような事態を警戒してそうしておいたでしょうね。さて、こうした可能性が考えられる以上、亀井さんが今この時点で財布を持っていないことが、そのまま無実の証明とはならないということがご理解いただけるかと。佐村さんも、その点については既に気がついておいででしょう?」
「…………」
霧華は黙ったまま薔薇乃から視線を逸らす。薔薇乃は気に留めず、先を続けた。
「そうなりますと、亀井さんがもしも無実であるならば、彼女にとってはその検査……ただ持ち物を物色されるという辱めにあうだけ、ということにはなりませんか?」
なるほど。言われるまで気がつかなかったが、正直に持ち物検査を受けたところで自分の容疑が晴れるわけではなかったということか。だが、霧華にとってはそれが一番手っ取り早い方法ではあるのだろう。ここで鞄の中身を調べて、財布が入っていたならそれは犯行の何よりの証拠となるわけだから。そうしたくなる気持ちもわからないではない。
「で……でも、それはあり得ないわ」霧華は反論する。「予め盗んだ財布をどこかに隠していたなら、亀井さんは持ち物検査にはむしろ乗り気でないとおかしいんじゃない?」
「そうですね。しかし、あえて拒んだとも考えられる。あまり簡単に了承すればそれはそれで怪しいということになりますから。もちろん、財布を盗んではいないが、それはそれとして鞄の中に見られたくないものがあるから拒んだだけ、という可能性もあるでしょうが」
「じゃあ……どうしろって言うのよ!? 亀井さんが疑わしいのは事実でしょう? 」
「ですから、順序が違うのではないでしょうか。大切な財布をなくされて焦る気持ちは理解できますが、まずは今一度、状況を整理してはみませんか? わたくしたちで情報をつきあわせ、よく考えてみましょう。そうすれば、新たな事実が顔を見せるやもしれません。――もっとも、それより先に盗難の被害について先生方、あるいは警察に連絡をすべきという考え方もあるでしょう。そのあたりは、佐村さんの判断に任せますが……?」
霧華は少しだけ悩んだようだったが、すぐに答えを出した。
「……いいわ。私だって、あまり騒ぎを大きくしたくはないもの。それで犯人がわかるかもしれないなら、少しくらい時間を割いてもいい。二人も、付き合ってくれる?」
霧華は横の恵美と祐子に尋ねる。
「霧華がいいなら、私は構わないけど」と、恵美。
「なんかめんどーそー……でも、霧華ちゃんの頼みだったらいいよ!」と、祐子。
霧華らの答えに薔薇乃は満足気に頷くと、何かに気がついたように視線を動かす。薔薇乃の右隣に、女子生徒が立っていた。
「薔薇乃ー? 一緒に帰るんじゃなかったの?」
声をかけられ、薔薇乃は顔を向ける。
「すみません魅冬(みふゆ)さん。もう少しだけ、お待ちいただけますか? なかなか面白い……いえ、そう言っては佐村さんに失礼ですね。……そう、なかなか興味深い事態になっているようですから」
いや、その言い換えはたいして意味がないと思うが。
薔薇乃へ声をかけた女子生徒は肩をすくめて、「仕方のないやつめ」と言いたげに笑う。
十香も彼女の名前は覚えている。御堂魅冬(みどうみふゆ)。長身のすらりとした体型に、中性的な顔立ちが印象的だった。長めの髪は、後ろをテールにして緩くねじりヘアピンでまとめている。薔薇乃には一歩及ばないが、彼女も相当な成績優秀者である。また、文武両道というのか、優れた運動神経の持ち主でもあり、体育のときなどにはいつも注目を集める存在だった。
薔薇乃と魅冬はよく一緒にいることが多く、傍目から見ても親友同士なのだろうとわかる二人だ。先ほども薔薇乃がこちらに話しかけてくるまでは、魅冬と話していたようだった。ちなみに、二人とも耽美な雰囲気があるからか、二人セットで女子からの人気は高い。
「よろしければ、魅冬さんもご一緒にいかがですか? 今までの話は聞こえていたでしょう? 人は多いほうが、色々と検討するのにも有利でしょうし」
「うーん……まぁ、ただ待ってるだけってのもあれだしね。べつにいいよ。役に立てるかどうかはわからないけど」
魅冬の了承を得ると、薔薇乃は十香とその後ろの美夜子に向けて、
「では、亀井さんのお友達の方にも参加していただきましょうか?」
美夜子は意外そうな顔をする。
「あたしも……いいの?」
「亀井さんの味方をしてあげてください。わたくしと魅冬さんはあくまで中立の立場ですから。あなたの言うとおり、三対一では不公平ですものね?」
「あ、ありがとう!」
「ふふ、かわいらしい方ですね」
嬉しそうに顔を輝かせる美夜子と、それを愛玩動物でも愛でるようににこにこ眺める薔薇乃に対して、十香は思わず口を挟む。
「待てよ! こいつは、べつに、友達でもなんでもないし、一年だし……その……ほんとに、まるっきりの部外者なんだぞ? いいのかよ?」
「いいではありませんか。かわいいですし」
「かわいいかどうかは関係ねぇだろ!?」
なんか、納得がいかない。
「どうでもいいわ」霧華が切り捨てるように言う。「その子も一緒でいいから、さっさと始めましょうよ」
結局、美夜子も入れて合計七人での審議会が始まる。議論の口火を切ったのは、薔薇乃だった。
「まずは前提を確認しておきましょう。繰り返しになるかもしれませんが、ご容赦を。……佐村さんがご自分で財布を最後に確認したのは、いつでしたか?」
霧華は立ちっぱなしで疲れたのか、机の一つに腰掛けながら答える。
「昼休み。学食から帰ってきてすぐに鞄の中に入れたわ。学校に来るときは基本的に鞄の中に入れてあるの」
「ということは、学食のため食堂へ向かう際にも鞄から財布を取り出したわけですね。食堂へはお一人で?」
「いいえ。二人も一緒だったわ。そうよね?」
問いかけに、恵美と祐子がほぼ同時に頷く。
この学校での昼食の取り方は概ね三つに分けられる。弁当を持参してくるか、売店でパンなどの食べ物を買うか、食堂で食べるか、だ。
食堂は校舎一階の東側から渡り廊下を少し進んだ先にあり、小さな分棟になっている。昼食時はいつも学食目的の生徒でごった返すので、弁当組と売店組は基本的に教室で食べるというのが原則である。
「食堂から帰ってからは?」
質問者が魅冬へと変わった。彼女は薔薇乃の後ろで窓際の壁にもたれかかるようにしている。
「昼食はお喋りしながらだったから、戻ってきたときにはもう昼休みは終わりかけだったわ。残り五分くらいだったかしら? だからすぐに次の授業である地学の準備をして……あっ――いや、待って」
思い出したように言い直す。
「その前に、一度トイレに。その後、準備をして講義室に向かったわ」
「そこで一度鞄から離れたわけだ。食堂からは二人と一緒に帰ってきたんだろ? その二人はどうしてたの?」
魅冬の問いかけに、まず恵美が答えた。
「ふつーに授業の準備をしていたけど?」
「そっちは?」
次は祐子。
「私も一緒」
「その間、佐村の鞄に誰かが近づいたのを見たりはしなかった?」
「さぁ、どーだろ? 私は教室の後ろ側の席で、霧華ちゃんは一番前の席だからちょっと見てなかったかな。見てたとしても、そんなの覚えてないよ。恵美ちゃんはどう?」
「私も見てない」恵美はリボンタイの先を手で弄りながら、「でも、その時はまだ教室に大勢人がいたんだよ。そんな中犯人が堂々と霧華の鞄の中を漁ったとは考えづらいんじゃない? 霧華もすぐに戻ってきて、私たちは一緒に講義室へ向かった。だから霧華が席を離れたのはほんの二、三分ってとこ。その間に盗まれたっていうのは、ちょっとね」
「なるほど。一理ある。――どう? そっち側からは質問がある?」
魅冬から水を向けられ、十香は何か訊こうかとも思ったが、咄嗟には思い浮かばない。
「……お前、何かあるか?」
後ろの美夜子に訊いてみる。
「……ええと、佐村先輩の席って、どこなんですか?」
一応、敬語を使うことを学習したらしい。
「私の席はあそこ。教卓の前よ」
祐子が言ったとおり、教室の一番前の位置になる。最前線の中央だ。息が詰まりそうだが、優等生な霧華にとっては苦でもないのだろうか。
「わかりました……あと念のために、他の人の席も教えておいてくれると助かります」
順次、自分の席の位置を答えていく。まず今皆で話し合っているこの位置――窓際後方が十香と薔薇乃。恵美が反対の廊下側で、前後の位置は真ん中くらい。祐子が中央後ろ側。魅冬は教室のほぼ中央の位置だった。
「ん……」十香はふと気がついて、尋ねてみる。「あんたは何も見てないのか、御堂? 位置的には、この中じゃ一番佐村の席に近いけど」
訊かれた魅冬は、両手で「お手上げ」のポーズをとる。
「悪いね。何も見てないし、覚えてないよ。そもそも私は昼休みが終わるぎりぎりまで、薔薇乃の隣にいたからなぁ。自分の席にいたなら、何かしら気がついたかもしれないけど」
「ああ、そうか……」
薔薇乃と魅冬の二人は弁当組で、いつも魅冬が薔薇乃の隣の席に移動してくるのだ。すぐ後ろの席のことなので、いつも昼休みが始まって早々に教室を出て行く十香も、そのことは知っている。学食や他クラスへ行く者も多いので、教室に残った連中は大体が好き勝手に席を移動して、友達と席をくっつけあったりしているようだ。
「では、昼休みの終わり際から時間を先に進めてみましょう」
薔薇乃が再び進行を取る。
「五限目の地学の授業中……今日は欠席者もおらず、亀井さんを除く全員が講義室にいたわけですね。また、亀井さんも教室以外の場所でおサボりになられていた、と?」
「ま、まぁな」
十香はぎくりとしながら頷く。
「どちらで、おサボりあそばされていたのでしょう?」
さりげなくあたしのこと馬鹿にしてないか、こいつ?
「……言わなきゃダメか?」
屋上(あそこ)は秘密の場所だから、あまり人に知られたくない。そもそも立ち入り禁止の区域ではあるが。
「……まぁ、ひとまずは『教室にはいなかった』ということにしておきます。……さて。その間、教室の中は無人状態だったということになりますね。そこへ泥棒が入ったのだとしたら、犯人の特定は困難になるでしょう。目撃者も望めませんし……」
ややうつむいて考え込む薔薇乃を尻目に、魅冬が意見を述べた。
「他に何かが盗まれたって話は聞かなかったから、盗まれたのは佐村の財布だけってことで良さそうだね。騒ぎを大きくしたくないから一つだけ盗んでいったのかな。もしかしたら、佐村に恨みのある人物の犯行かもしれないけど。心当たりはない?」
「知らないわよ……」霧華はため息をつく。「嫌われてるってのなら多少はあるかもしれないけどね。それでも財布を盗られるなんてひどいことをされるような覚えはないわ」
どうだろうか、と十香は思う。自分がどれほど恨まれているかなんて、気がつかないときはまったく気がつかないものだ。ただ、今回のことでは恨みの大小はそれほど問題ではないように思えた。犯人は金が必要で、盗むのに抵抗がない相手であればそれでよかったのかもしれない。霧華のことは少し気にくわないという程度だったか、もしくは、まったく意識もしたことがない相手だったという線も充分考えられる。
「はぁ……ほんとに最悪。二万も入ってたのよ」
霧華は額を手で押さえる。二万と言えば、高校生が普段持ち歩くにしては大金だ。
「……いつも、それくらいの額を入れてらっしゃるのですか?」
気になったようで、薔薇乃が尋ねる。
「……いつもってわけじゃないわ。昨日、ちょっと臨時収入があったから。帰りに新しい香水でも見てみようかと思ってたの」
霧華は窓の外へ視線を逸らせながら答えた。
「……?」
……なんだ、今の反応は?
霧華はなぜか、そのあたりについてあまり訊いてほしくなさそうな感じだ。気のせい、だろうか?
「そのことは、誰かにお話されたのですか?」
薔薇乃は特に気に留めなかったようで、質問を続けた。
「いいえ。誰にも話してないわ」
「それでは、佐村さんが大金を持っていることを犯人が予め知っていたという線はなさそうですね」
「あ……でもさ」十香は一つ思いついて、発言する。「佐村が話してなくても、犯人が財布の中身をどこかで見ていた可能性はあるよな。例えば、学食の支払いの時とかさ……」
言ってから、「しまった」と思う。恵美と祐子が、十香を責めるような目で見ていた。
「なに? 学食で霧華と一緒だった私たちを疑ってるってわけ?」と、恵美。
「そ、そういうつもりじゃないんだ。あくまで可能性の一つってやつで」
「ていうか、一番怪しいのはあんただってことに変わりはないんだからね?」
今度は祐子が釘を刺すように言う。
「だから、あたしは違うって!」
「はいはい、わかったわかった」
絶対わかってねぇ。
「はぁ……なんかさ、もうやめにしない?」祐子は退屈に耐えかねた様子で、「結局何も新しいことはわからなかったじゃん。ねぇ、この話し合い、意味あるの?」
「祐子……」
霧華が何か言おうとしたところで、薔薇乃が一つ咳払いをした。髪を一度掻き上げると、いたって冷静な面持ちで祐子に言う。
「……一応、最後まで確認を続けてみませんか? 地学の授業が終わった、その後について。この話し合いに意味があったかどうか、その結論を出すのは、それからでも遅くはないと考えますが?」
「……ま、いいけど」
祐子は呆れつつそう言うと、手近な席から椅子を引っ張ってきて、腰掛けた。
しかし正直に言って、十香にはこの話し合いが成果をもたらすとは思えなかった。だって、そうだろう。手がかりはあまりに乏しく、素人が何人か集まって知恵を絞ったところで、犯人を見つけるだなんてまず不可能だ。自分への助け船を出してくれた薔薇乃には悪いが、そう考えざるを得ない。
「授業が終わって、佐村さんはすぐに教室へ戻ったのでしょうか?」
薔薇乃の問いに、霧華は少し考える。
「そうね……特に寄り道もせずまっすぐ戻ってきたから、だいぶ早いほうだったはずよ。私より先に教室に戻っていたのは二、三人ってとこかしら。それもほぼ同時だったと言っていいはず」
「佐村さんより先に犯人が教室へ戻り、財布を盗んだとは考えづらいですね。……ところで、そちらのお二人は今度は一緒ではなかったのですか? 講義室へ向かったときには一緒だったそうですが」
恵美と祐子に問いかける。まず、恵美が答えた。
「私は他の子と話してて戻るのがちょっと遅くなったから、一緒じゃなかった。といっても、何分も遅れたわけじゃないけど」
次に、祐子。
「私は職員室に行ってから戻ったよ」
「職員室? 何かご用事が?」
「ほら、昼休みに係の人が進路希望調査の紙を集めてたでしょ? 私持ってきてたのに、うっかり出し忘れちゃっててさ。講義室と職員室は近いし、ついでに出していくことにしたの」
「え……? なんだそれ?」
十香は思わず尋ねる。
「ああ、亀井はすぐ教室出ていっちゃったから知らないか」魅冬が代わりに返答する。「昨日配られてたでしょ、第一次進路希望調査票」
「……ああ、あれか」
そういえば、そんなものをもらった気がする。自分の卒業後の進路について、現在の考えを書いて教師に提出するというものだ。期限はまだ先だし、何よりめんどくさそうで、自分はまだ一字も記入していないが。
「本当なら朝のうちに集めるんだろうけど、係のやつが怠慢してたみたいで、昼休みに思い出したように集めだしたんだよ。教卓の上にちっちゃいプリント籠(かご)置いて、そこに出しといてくださいってね。昼休みの終わる十分前くらいに職員室へ持っていったみたいだけど」
「教卓じゃなくて、私の机を使ったのよ。教卓の上は、六限目の英語で使う予定だったプリントが先に置かれてあったから」
霧華が訂正する。
「ああ、そうだっけ?」
「プリント籠の置き場所がなくて困っていたようだから、私からそうするように言ったの。私はどうせ学食に行くから机は使わないしね」
「プリント籠……」
美夜子が後ろで小さく呟くのが聞こえる。十香は顔だけ振り向いて、
「どうかしたか?」
「あ……いや、ちょっとね。気になったっていうか……佐村先輩」
霧華はしばらく発言のなかった美夜子から突然尋ねられ、少し驚いたようだった。
「え? ……なに?」
「そのとき、机を前に……教卓のほうに少し寄せたりしませんでした?」
「ええ……。そのほうがただ机の上に籠を置いておくよりも、集めていることがわかりやすいかと思って。教卓の……こちらから見て右側に、椅子ごと移動させて、くっつけるようにしていたけど?」
要するに、元の位置から机を右斜め前へとずらしたということになる。
「そう、ですか……」
「それがなにか?」
「……いや、とりあえず、いいです。続けてください」
変な子ね、と言いたげに霧華は眉をひそめたが、美夜子は何かを考えこみ始めていて、気にもしていない。
「佐村さんは、それから六限目の英語、その次のホームルームが終わるまで、ご自分の席を離れなかったとおっしゃいましたね」
薔薇乃が確認する。
「つまり、その間に犯行があったとは考えられない、と」
「そうよ。財布がなくなっていたことに気がついたのは、ホームルームが終わってしばらくしてから……そろそろ帰ろうと思って鞄の中身を確認したときだけど」
「なるほど……それでは、やはり盗まれたのは地学の授業中ということになるのでしょうか」
結局、辿り着く結論は同じだったというわけだ。新しい手がかりがない以上、これ以上話を続けても無駄だろう。薔薇乃が小さくため息をつく。
「力及ばず、といったところですね……残念です」
「あの……もう一つだけ、良いですか?」
美夜子がひょいと右手を上げる。
「まだ、なにか?」
「佐村先輩に訊きたいんですけど……そのお財布って、鞄のどこに仕舞ってました?」
「どこに、って……ちょっと待って」
霧華は傍らに置いていた自分の学生鞄を机の上に持ち上げた。大半の学生が使っているものと同じ、学校指定のボストンバッグ型で、紺色のものだ。十香も同じものを使っている。
「――ほら、ここのポケットよ」
霧華が指さしたのは、真ん中の主収納部ではなく、鞄の両サイドに取り付けられたポケットのうちの一つだった。それほどサイズの大きなポケットではないが、財布を入れておく程度ならば充分可能だろう。ファスナーを閉じるようになっているため、揺らしても転がり出るようなことはない。
「もしかして、別の場所に入れていたのを私が忘れたんじゃないかって思ってる? さすがにそれはないわ。私だって、きちんと確かめたもの。この鞄のどこにも、私の財布は入ってなかったのよ」
「違うんです、そういうことじゃなくて……」
どこか歯切れの悪い美夜子を見て、薔薇乃は問いかけた。
「あなたには、なにか考えがあるようですね?」
「うーん……ちょっと思いついたことはあるよ。でも、これって言ってもいいのかなぁ……」
美夜子は悩ましげに眉間を指で擦っている。
「何よ? 遠慮することないわ。言ってちょうだい」
霧華に促され、美夜子は観念したように頷いた。
「じゃあ……まず佐村先輩にだけ、聞いてもらうってことでいいですか?」
「……? いいけど」
美夜子は霧華の側に寄ると、小さく背伸びするようにして、何かを耳打ちする。
「…………え?」
霧華の目が驚いたように見開かれる。美夜子が話を聞かせ終わって離れると、霧華は動揺を隠そうとするかのように、口を手で覆って何かを考え込む。
「そんな、まさか……」
「……どうですか?」
美夜子の問いかけに、霧華は大きくため息をついてから返答する。
「言われてみれば……そうだった気がする。……ああ、そうか、きっとそうだわ。……最低。こんな滑稽なことって……」
滑稽? 何の話だ?
「だったら、早めに確認とったほうがいいと思います」
「そうね……ありがとう。あなたに言われなきゃ、気がつかなかったかも。……亀井さん」
「ふぇ!? な、なんだよ?」
油断していたところに名前を呼ばれ、十香はたじろぐ。
「疑って悪かったわね。許してほしいだなんて都合のいいことは言わないけど……ごめんなさい」
霧華はそう言って、頭を下げる。
「へ……?」
「――じゃあ私、もう帰るから……恵美と祐子も、付き合わせてごめん」
「ちょっと、霧華!?」
恵美が呼び止めるも、霧華は鞄を持ってそそくさと教室を出ていってしまう。
「なんなの……? あんた、霧華に何を言ったのよ?」
「ええっと……」
答えるべきか戸惑う美夜子へ、薔薇乃が助け船を出す。
「ともかく、財布盗難の件は解決したと考えてよいのですね?」
「あ、うん! それは多分、もう大丈夫」
薔薇乃は安心したように微笑んで、席を立つ。
「でしたら、後は佐村さんと……財布を持っていかれた方とで話し合うべき。そういうことですね?」
「……うん、そう思う」
「事の真相がどうであったか、気にならないわけではありませんが……仕方ありませんね。わたくしたちも帰るとしましょうか、魅冬さん」
「ああ」
薔薇乃と魅冬は二人して教室を出かけるが、薔薇乃がふと何かを思い出したかのように立ち止まり、こちらを振り返る。
「そうでした……あなたのお名前を、聞かせていただいてもよろしいかしら?」
「……あたし?」
美夜子は自分を指さして言う。薔薇乃は小さく頷いた。
「志野美夜子、だよ」
「……美しい名です。覚えましたよ」薔薇乃はそう言ってからもう一度十香たちへ目を向けて、「では……皆様ごきげんよう」
スカートの裾をつまみ上げ、右足を内側後ろへ軽く引いて挨拶をする。また随分と気取った所作であるが、薔薇乃がそうすると似合って見えるから不思議だ。
「ごきげんよー」
魅冬もひらひらと手を振りながら、薔薇乃に続いて教室を後にする。
「もー……なんだったんだろ、霧華ちゃん」
置いていかれて不満げな祐子に、恵美が提案する。
「明日、また本人に聞いてみようか」
「うん、そうしよっか。 ――あ、そうだ! 亀井さん亀井さん!」
「な……まだ、何かあんのかよ?」
いい加減、さっさと解放してほしい。
「亀井さんって、岸上さんと仲いいの?」
「え? いや、べつに。ちゃんと話したこともなかったけど」
「なんだ、そうなの」祐子は露骨に興味を失う。「あの噂について何か知らないかな、と思ったんだけど……」
「あの噂って?」
「知りたいの? まぁ……いいか。私もちょっと言い過ぎちゃったし、教えてあげる」
そりゃどーも。それでさっきのことを取り消しにしてほしいというつもりらしいのが、少し引っかかるけど。
「岸上さんって、ああ見えて、実はかなりヤバいらしいよ?」
「……ヤバいって、どうヤバいんだ?」
「街でヤクザみたいな人たちとつるんでるのを見たって人が何人かいるのよ。それに、ウリとかもやってるらしいし」
「ウリって……売春かよ? そういうことするやつには見えないけどな……」
「人は見かけによらないってね。ほら、あの人って友達らしい友達もあんまりいないみたいだし……っていうか、まるで、あえて人と深く関わらないようにしてるみたいじゃない? そのへんも関係あると思うのよ」
「はぁ……」
言っていることはわからないでもない。傍目から見ていて、そして実際に話してみても、上品で柔和な人物であるというのが薔薇乃の印象だった。しかしそれでも、どこか人を寄せ付けようとしない雰囲気はたしかにあった気がする。クラスから浮いた人物という点では十香と薔薇乃は同じかもしれないが、その性質や要因はまた別のものだろう。
「でも岸上の友達ってんなら、御堂がいるじゃん。あいつに確かめればいいだろ?」
「ああ……あの人はダメよ」
「ダメ? なんで?」
「とにかく、ダメなのよ。……気になるなら、亀井さんが自分で確かめてみれば? おすすめはしないけど」
そう言われてしまっては、なにやら恐ろしくて確かめようがない。……興味はあるが。
「――まぁ、岸上さんの話はあくまで噂よ、噂。私が言ってたって、他の人には話さないでよ?」
「祐子。そろそろ帰ろう」
恵美が鞄を肩にかけながら言う。
「はーい。それじゃ、ばいばーい」
祐子と恵美が出て行くと、教室に残ったのは十香と美夜子の二人だけだった。美夜子は机の一つに腰掛けながら、窓の外を眺めている。校庭には、野球部員たちがランニングする姿が見えた。そろそろ部活動が始まってくる時間か。少し開いた窓から風がそよいで、美夜子の赤い髪が揺れている。
「……窓」
外へ視線を送ったまま美夜子が言う。
「窓から飛び降りたくなること、あるんだよね」
「……はぁ?」
自殺願望でもあるのか? だとしたら……かなりヤバい。ここは二階だから、落ちてもせいぜい足の捻挫程度だろうけれども。
「だって、そうしたら学校終わってすぐに帰れるでしょ? あっ、でも上履きのままじゃダメか!」
なに言ってんだこいつ。
「――十香ちゃん、まだ帰らないの?」
「……帰るよ。その前に、ちょっと聞かせてくれ」
ちょうどいい。こいつには、訊きたいことがたくさんある。恵美と祐子が教室から充分に離れたであろうというのを待ってから、続ける。
「お前、佐村になんて言ったんだ?」
美夜子はこちらを振り向く。
「あたしはあいつに犯人として疑われてたんだ。それくらい聞く権利はあるだろ?」
「うん、そうだね。あたしもそう思う」
「……で? 解決したってことは、犯人の目星がついたんだろ? いったい誰があんなことやらかしたんだ?」
「犯人なんていないよ。あえて言うなら、佐村先輩が犯人だった……かな?」
「……はぁ?」
意味が分からない。財布を盗まれたと主張していた霧華本人が犯人だった? またもや気が触れているのではと疑いたくなる言動だが、実際に霧華がそれで納得したわけだから、何か事情があるのだろう。詳しく聞いてみる必要がある。十香は人差し指をピッと美夜子へ向けた。
「説明っ!」
美夜子は頷く。
「あのね、佐村先輩は学食へ行く前に、机を教卓にくっつけたって話してたよね?」
「ああ、プリント集める係に協力して、プリント籠を置くのに自分の机を使わせてやったってやつだろ」
「でも佐村先輩、学食から戻ってきたくだりを話すときにはそのことについて触れてなかったよね? 机を動かしていたなら、まずはそれを元の位置に戻そうとするんじゃないかな?」
「まぁ……そうだろうけど。でも、そんなのちょっと説明を省いただけだろ? 何も、一から十まで取った行動の全てを話せと言われていたわけじゃないんだから」
「そうかもしれない。でも、こうも考えられる。もしかしたらその時、佐村先輩は机を元の位置に戻さなかったんじゃないか、ってね」
「戻さなかった……?」
いまいち、話が掴めない。
「どういうことだ? つまり、学食から戻ってきたその時には机はそのままで、その後の地学の授業から帰ってきた後、元の位置に戻したってことか?」
美夜子は首を横に振る。
「ううん。そうじゃなくてさ。佐村先輩が学食から帰ってきたとき、机は既に元の位置に戻っていたんじゃないかってこと」
「既に戻って……? ああ、そうか!」
十香は手を打つ。
「プリント係が先に机を元に戻してたってことだな? 係のやつが集めたプリントを職員室へ持っていったのは、昼休みの終わる少し前だったって御堂が言ってたな。それは佐村が学食から戻るよりも前だったんだろう。人の机を使わせてもらってたんだから、礼儀として元の場所に戻そうとするのは自然なことだ」
「うん、そういうこと。でも、机は元の位置には戻されていなかったの」
「はぁ!?」
「きゃあっ!?」
十香が大声を出したので、美夜子は驚いて机の後ろへひっくり返りそうになる。
「あっ……ごめん。いやでもおかしいだろ!? お前さっきと言ってたことが違うじゃん! 机が戻ってるって言ったかと思ったら、今度は戻ってなかったって……あたしのこと馬鹿にしてんのか!?」
「あぅ……違う! 違うの! そんなつもりじゃない! 十香ちゃんのこと馬鹿にしたりなんて、あたし絶対しないよ!?」
なにやら慌てて弁解する美夜子を見て、自分の早とちりだったらしいと十香も気がつく。ばつの悪さを誤魔化すように、髪を掻きつつ言う。
「……わりぃ。あたし、頭あんまり良くねーからさ。なんつーか……わかりやすく説明してくれると助かる」
「う、うん。あたし、こーいうややこしいこと説明するの慣れてないから下手くそかもしれないけど……がんばる!」
美夜子は気を取り直すように大きく呼吸を一度してから、続けた。
「元に戻っていたけど、戻ってなかった……っていうのはね。一見、そのように見えたというだけで、机は本来の位置には戻っていなかったということなの。たぶん、本来の位置から右隣の席……そこに佐村先輩の机は移動していたんだと思う」
「右隣に……? ええっと、待ってくれよ……。じゃあ、その席にあるはずの机はどこに移動したんだ?」
「もちろん、佐村先輩の席。つまり、二つの机の位置が入れ替わっていたってことなの」
「はぁ……? なんでそんなことになるんだよ? 意味がわかんねぇ」
美夜子は教室の前の方を指さし、当時の教卓とその近くの机の位置関係を説明する。
「佐村先輩の机は、教卓の右横に移動していた。その間、本来の佐村先輩の席は、空白のスペースになっていたわけ。これは、大丈夫?」
「ああ、それはわかるぞ」
「そこへ、右隣の席から机が移動してくるような事態が起こった」
「あっ……」
十香はそれに思い当たった。
「……飯、か?」
美夜子は頷いて、右手の指をパチンと鳴らす。
「そう! 教室でご飯食べる人たちは、友達同士で机をくっつけ合うよね? その時も同じことが起こってたの。佐村先輩の席から見て、おそらく左側か後ろ側、そのどちらかで、グループを作るのに机が一つ足りないって状況が生まれた。その人たちが毎回同じ位置でグループを作っていたとすると、もしかしたら、いつもは佐村先輩の机を使ってたのかもしれないね。でも、その時は佐村先輩の机を使うことができなかったから、その右隣の席から机を拝借した。ここまでなら問題は無かったんだけど、ちょっとした手違いからややこしいことになっちゃった」
「机がきちんと元の位置に戻されなかったんだな?」
「うん。そういうこと。説明する前に、右隣の席の人を仮にAさんとしておくよ?」
その席にどんなやつが座っていたのか、クラスの人間にあまり興味がない十香は思い出せない。脳内で顔にAと書いたシルエットを思い浮かべる。
「Aさんの机を拝借したご飯グループと、佐村先輩の机を使っていたプリント係……そのどちらが先に間違いを起こしたかまではわからないけど、とにかく、机を戻そうとしたのに、正しい場所からずれた位置に戻してしまったわけ。さっき言ったように、ご飯グループがいつもは佐村先輩の机を使っていたんだとしたら、いつもの癖で同じ位置に戻してしまったってこともあるかもね」
「なるほど、それでもう片方もつられて間違った位置に戻してしまったんだな。空いたスペースはちょうどひと席分になってるんだから、ついそこに戻してしまったってのは、まぁ、あり得そうな話だ」
整理すると、こうなる。霧華の机をプリント籠の置き場所として使っていたプリント係と、昼食時に友人と机をくっつけ合うためにAの机を使っていたグループの二組が存在していた。その時点で霧華の席と、その右隣のAの席の二つ分の空きスペースが出来ていたことになる。
実際どちらが先に机を戻したのかは定かでないが、美夜子の仮説に則るなら、まずはご飯グループがAの机を霧華の席の位置に戻してしまい、それに伴って、プリント係が職員室へと赴く前に霧華の机を教卓右横からAの席の位置へと戻してしまった……という手順になる。
では、霧華と机の位置を取り違えられたのがAだとする根拠は何か? これは簡単だ。霧華の机は教卓の右横にあったので、位置を取り違えるとするならそこから最も近くて、しかも真正面の位置になる霧華の席の右隣……つまりAの席しかあり得ないということになるだろう。
「そうか……佐村が犯人だって言ってたのは、そういうことか。机が入れ替わってたってことは、そこにかけてあった鞄も入れ替わってたってことだ。『佐村は、学食から戻った時に財布をAの鞄に入れちまったんだな。それが自分の鞄だと思い込んで』」
「そう。当人はもちろん、他の人たちからも自分の鞄に財布を入れているだけにしか見えないから、全く不審に思われることもなかったんだね。しかも、佐村先輩が財布を入れたのは、鞄のサイドポケットだった。真ん中の収納口だったら、まだAさんのほうが後で気がついた可能性もあったかもしれないけどね」
おそらく、Aは普段鞄のサイドポケットを利用しないのだろう。気がつかずに帰ってしまったということは充分あり得る。
「でも、問題はまだあるぜ。その後、佐村もAも自分たちの机が入れ替わってたってことには気づかなかったんだろ? そりゃいったいどうしてだ? 普段から使ってる机なんだ、よく見れば自分のじゃないって気がつくはずだろ? 机の収納に入れてあるものだって違うわけだし」
「もちろん、その後で机はちゃんと元の位置に戻ったんだよ。あと、気がついてなかったのは佐村先輩だけ。Aさんはそのことを知っていたはずだよ。机を戻したのは、たぶんAさんだから」
「なんでそんなことがわかる?」
「佐村先輩が学食から帰ってきて、まず財布をAさんの鞄の中に仕舞った。その後、佐村先輩はトイレに行ったって話してたよね? それと入れ替わりにAさんがやってきたの。Aさんは次の授業……地学の準備をしようとして、自分の机が佐村先輩のものと入れ替わっていることに気がついた。どうしてそうなったのかまではわからなかっただろうけど、そのままにしておくわけにもいかないから、当然元に戻すよね。そして、佐村先輩が戻ってくる。戻ってきたときには、机も鞄も元通り、財布だけがAさんの鞄に入ったままという状態が生まれたの。もしもそのとき、Aさんがそのことを佐村先輩に伝えていたらこんな誤解は生まれなかっただろうけどね。それも含めて、色んな偶然が重なった結果だったんだよ」
「…………」
「あ、あれ? 十香ちゃん? どうかした? あたしの説明、どっかおかしいところあったかな?」
不安そうに訊く美夜子に、十香は首を横に振って否定する。
「いや……お前、すげぇって思ってさ。さっき聞いた話だけで、そこまで推理したってことだろ? 正直、驚いた」
そう言うと、美夜子は照れたように笑って、髪をくしゃくしゃ弄りだす。
「えへへ……そぉかな? すごいかな?」
「ああ。屋上で話したときは、ただの馬鹿だと思ってたんだけどな」
「ひどいっ!」
わかりやすくショックを受ける美夜子。頭はいいのに、馬鹿みたいに素直なやつだ。
「――で、その話を佐村に聞かせたんだな?」
「うん。良く思い出してみたら、思い当たるところがあったみたい。Aさんと話がつけばいいけど」
その時には気がつかなかったとしても、財布を入れたのが他人の鞄だったという違和感は、霧華の中で密かに燻り続けていたのかもしれない。美夜子の話が、その違和感をはっきり思い出させるきっかけとなったのだろう。
「あのね、十香ちゃん」
「なんだよ?」
「佐村先輩も、悪気があったわけじゃないって思うの。だから、許してあげてほしいな」
「……お人好しだな、お前」十香はため息をついた。「……そんなんじゃ、いつか痛い目を見るぞ」
美夜子は十香の返答に困惑したようで、目をぱちくりさせる。
「え、ええと……?」
「安心しろよ。佐村はちゃんと謝った。きっちり筋を通した相手のことを、いつまでも恨んだりはしねーよ。……あたしも、あいつのことはちょっと偏った見方をしてたかもしれないしな。お互い様だ。――そして、あたしも筋は通しておかないと気が済まない。だから、言わせてくれ」
十香は美夜子の目をまっすぐ見据える。
「ありがとう。お前のお陰で助かったよ。それと……屋上でひどいこと言って、悪かったな」
「…………あ」
美夜子はなぜかうつむいてしまう。
「えっ!? ちょ……どうかしたのか?」
十香はなにかいけないことをしてしまったような気がして、慌てて駆け寄り美夜子の肩に触れた。
「な、なぁ……どうしたんだよ? あたし、なんか気に障るようなこと言ったか!?」
「ち、違うの! そうじゃなくて……そうじゃなくてね。嬉しい、から……嬉しすぎて、変な顔になっちゃいそうで」
顔を上げた美夜子の目には、うっすらと涙が溜まっていた。その表情を見て、十香はひとまずほっとする。
「な、なんだ……驚かせんなよな。はぁ……」
「あっ……そだ、十香ちゃん。これ、返すね」
美夜子はふと思い出したように言って、スカートのポケットから取りだした何かを十香へ渡す。
「お前、これって……」
「十香ちゃんのものだよね?」
ライターだった。屋上で落として、咄嗟に自分のものではないと嘘をついてしまった、あのライター。
「どうして……?」
「ほんとはね。最初から気づいてたんだ。あたしがあそこに行ったとき、煙草の煙のにおいがしてたから。佐村先輩たちに鞄の中身を見せようとしなかったのも、煙草のことで?」
「……煙草の空箱が入ってんだよ。服のポケットには中身入りのやつもある。だから持ち物検査も身体検査も受けるわけにはいかなかった。くだらねー理由だけど、あいつらの性格考えたら、チクられると思った。それで停学くらうのは、さすがにまずいしな」
十香はライターをポケットに入れると、肩をすくめる。
「やれやれ、何もかもお見通しかよ。名探偵だな。――これを返すためだけに、ここに来たのか?」
「屋上で十香ちゃんに素っ気なくされたのが悔しくって、つい持っていっちゃったんだけど……やっぱり返そうと思って二年の教室を見て回ってたの。それにもしかしたら、十香ちゃんと仲直りできるかも……って思ってたんだ」
十香は歯を見せて笑う。
「へへっ……それなら、うまくいったじゃん」
「ねっ、ほんと!」
美夜子からも笑みがこぼれた。
「……あのさ、質問があと二つあるんだ」
十香は二本指を立てて言う。
「ん? なぁに?」
「一つは……そうだな。なんでお前は、初めっからあたしのことを信じて、その上味方をしてくれたのか――って、訊こうと思ってたんだけど……それはいいや」
「どうして? 教えてもいいよ?」
「いや。その代わり、これを訊きたい。……あたしたち、前に会ったことがあるよな?」
美夜子はぱぁっと顔を明るくする。
「うそ……思い出してくれたの!?」
「話してるうちに、なんとなくな。といっても、かなりぼんやりした記憶だから、はっきりとは思い出せねぇんだけどさ」
屋上で会ったときに感じた美夜子への既視感は、気のせいではなかったのだ。
「まぁ、その話は後だ。――んで、もう一つの質問。お前さ、この後なんか用事ある?」
「え? 用事? ……ないけど?」
「喫茶店でも寄ってかないか? おごるよ」
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