上 下
23 / 36

23:三度目の夜

しおりを挟む
 
 コンドームが入った袋を手に、武流が気恥ずかしそうに、それでいてどこか嬉しそうな苦笑を浮かべた。

「俺も用意していたんです。凪咲さんの体の負担もあるし、……それに心のどこかでまた貴女を抱きたいと思っていたから」
「……武流さん」
「俺の独りよがりになったらどうしようとか、用意したことで凪咲さんに引かれたらどうしようとか、そういう事も考えていたんです。だから、凪咲さんも『次』を考えてくれていて良かった」

 武流がはにかむように笑う。年上なのにあどけなく感じさせる照れ笑い、それでいて彼の手にはコンドームがある。
 そのギャップは凪咲まで気恥ずかしくさせてしまう。武流の気持ちも嬉しく、そして同じことを考えていたことが面白く、凪咲もまた小さく笑みを零した。
 ベッドの上で肌を晒しながらコンドームについて話すのは恥ずかしい。だが今はこの恥ずかしさすら心地良い。

 そんな心地良さを感じていると、武流がそっと身を寄せてキスをしてきた。慌てる凪咲を宥める時の軽いキスではなく、時間を掛けた、深いキス。
 部屋の中に満ちていた穏やかな空気が毛色を変える。密事の再開を感じさせる艶めかしい空気に、凪咲は解放された唇で微かに武流を呼んだ。
 照れ臭そうに笑っていた彼はいつの間にか真剣な表情に戻っており、じっと凪咲を見つめると、深いキスと共にゆっくりと押し倒してきた。

「んっ……」

 舌を絡め合う官能的なキスを終えて唇を放すと、武流は今度は首と肩に何度も唇を寄せ、耳にも軽いキスを贈ってきた。
 耳元から聞こえるリップ音はまるで耳の中から入り込んで体中に染み込むかのようで、くすぐったさと快感の狭間のような感覚。そのもどかしさに鼻にかかった小さな声をあげながら、シーツに投げ出していた腕を武流の背へと回した。
 ぎゅっと抱き着く。耳元に唇を寄せて名前を呼べば、武流の体がピクリと小さく震えたのが分かった。

「武流さん……、早く……」

 恥ずかしさを意識の隅に追いやり素直に求める。
 首筋にキスをしていた武流がゆっくりと顔を上げ、瞳の奥にぎらついた色を見せた。返事の代わりに唇にキスを一度贈ってくる。
 そのキスが離れると凪咲は軽く吐息を漏らし……、「あっ!」と声を漏らした。

 はいってくる。
 硬い熱が。己の一番弱くやらかなところに。

「は、ぁ……、ん……」
「凪咲さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫、だから……、動いて」

 凪咲の体を気遣い、武流は時間を掛けて挿入を深めようとしている。
 本当ならすぐに動きだしたいはずだ。今この瞬間にも凪咲の最奥を突き、荒々しく抜き差しして快感を貪りたいはず。それでも武流は我慢している。
 大事にしてくれているのだ。それが分かるからこそ彼の荒々しい欲さえも受け入れたいと思う。

「武流さんの、望むように……、ん、動いて、大丈夫です」

 彼の背中に腕を回し撫でるように触れながら告げれば、武流が返事替わりに一度頷いた。
 彼の瞳に浮かんでいた欲の色が濃くなった気がする。知的な顔付きの中にそれでも欲望に突き動かされる男の性を感じ、凪咲の体にそわりと言い知れぬ感覚が走った。普段は理性で隠している彼の奥底にある純粋でいて抗いがたい欲を見た気がする。
 次の瞬間、凪咲の中に納まっていた熱がぐっと奥を突いた。自然と凪咲の背が逸れるが、熱はそれを許すまいと更に奥を押し、かと思えば引き抜かれ、中を擦り上げるようにして再び押し入ってくる。

「あっ、は、ぁあ! んぅ、んっ」

 雄々しい熱が抽送されるたび凪咲の口から声が漏れる。
 前戯よりも激しい快感が意識をも飲み込むかのように体中に溢れ堪らず武流の体にしがみつくも、しがみついた体ごと揺さぶるかのように荒々しく突かれる。

「凪咲さん……!」
「んっ、あん、あぁ、武流さんっ、んぅ、気持ち、いい……、あっ」
「俺も気持ち良いです。凪咲さんの中、熱くて、絡みついてくる……」

 熱に浮かされるように武流が話す。その最中にも抽挿を続けており、快感と動いているからか彼の額に薄っすらと汗が浮かんでいる。
 快感を貪りながらも意識を保とうとする彼の表情は男らしく、すっかりと快感に溺れた凪咲は揺らいだ視界でそれを眺め、自ら顔を寄せて彼にキスをした。深く唇を重ね、離れると「は、あっ」と嬌声をあげ、続く声を飲み込まれるように今度は彼からキスをされる。
 舌を絡め合えば口内を愛撫される快感が湧き、腹部からせり上がる快感と混ざり合う。体中が快感に満たされ、触れていない場所さえも溶けてしまったかのように気持ち良い。

「武流さん、あぁっ、んぅ、んっ、ふぁ」

 荒く突かれれば喉から甘い声が漏れ、快感が体の中で弾け、蕩け、体中に満ちていく。
 無意識に涙が溜まり視界が潤み、目尻から涙が零れた。それに気付いた武流が顔を寄せ、肌を伝い落ちる涙が耳に掛かる時になめとってきた。熱い舌が耳に触れ、その感覚に思わず凪咲の口から「んぁ」と声が漏れた。
 その声に気を良くしたのか武流が笑みを零し、もう一度耳にキスをし、唇で耳朶を食む。
 耳への愛撫という初めての感覚、それに合わせて中を突かれると快感が繋がり合う。耳に武流の熱い吐息がかかった瞬間に自分の下腹部がうずいたのが分かった。無意識に締め付けてしまったのか、一瞬、武流が小さく息を呑んだ。

「耳、気持ち良いんですか? すごい締め付けて……んっ、」
「あ、や、やだ、そんな……、恥ずかしい……こと……」

 恥ずかしいことを言わないでと訴えようにも喘ぎ声にしかならない。
 それどころかその反応もまた武流の欲を誘うようで、彼はわざと耳元で名前を呼んできた。

「凪咲さん」

 と、その声は耳を、それどころか耳から流れ込んで体全てを、心までを愛撫するように凪咲の体中を巡る。
 堪らず彼の背に回した腕に力を入れて強く抱き着いた。
 体の中で快感が弾ける。もう無理、と感じるのと同時に、体の中で暴れていた大きな波が意識ごと飲み込んだ。

「ん、ぁ! ふあぁ!」

 快感が限界を迎えた大きな衝動に耐え切れず声をあげ、体が強張るままに武流の体に抱き着く。
 凪咲の体が小さく震え、次の瞬間、覆いかぶさっていた武流が眉根を寄せ「……っ!」と詰まった声をあげた。彼の背がふるりと震えるのと同時に、凪咲の中に埋まっていた荒々しい熱がドクンと脈打った。



「……ふぅ、ん……、あ……」

 強張っていた体から一気に力が抜け、武流の背に回していた腕をポスンとシーツに戻して短い呼吸を繰り返す。
 武流の名前を呼ぼうとするも吐息が漏れ、それでもといまだ自分の上に覆いかぶさった武流をゆっくりと見上げた。
 彼の中にもまだ余韻が残っているのか、武流は疲労と微睡の半ばといった様子で目を細め、凪咲の視線に気付くと少し掠れた声で「凪咲さん」と名前を呼んできた。性交の後とは思えない穏やかで優しい声、それでいて額には薄っすらと汗が浮かんでおり、細められた瞳の奥にはまだ密事の燻りのような熱がちらついている。

「体、大丈夫ですか?」
「はい……、大丈夫です」

 武流からの気遣いに返せば、覆いかぶさっていた彼が一度額にキスをしてゆっくりと身を離した。
 秘部から熱が抜かれる。ぬるりと異物が引き抜かれる感覚にそわと体が小さく震えた。痛くも苦しくも無い、快感の名残りのような不思議な感覚。
 終わったのだと思えば心地良い疲労感が増し、体の中を焦がすほどに暴れていた熱が落ち着いていく。

「いま、時間……」

 ふと気になって、ヘッドボードの時計を見るために体を起こした。
 だがその途中、武流の手が肩を掴んで抱き寄せてきた。元より力が抜けていた凪咲の体は促されるままに彼の腕の中に納まってしまう。
 肌と肌が触れ合う。まだ武流の体は熱を残しているが、きっとそれは凪咲の体も同じだろう。
 真冬の夜、暖房も着けていない部屋だというのに暑い。

「まだそこまで遅くありません。……だから」
「武流さん……」
「だから、もう一度良いですか?」

 耳元で囁かれるように求められ、凪咲はくすぐったさに小さく「んっ」と声を漏らしてしまった。
 彼の手がそっと体を撫でてくる。宥めるように、それでいて誘うように。先程までの熱を再び灯そうとしているのだ。そうして乞うように耳元で「凪咲さん」と呼んでくる。
 武流の声が体中に流れ込み、凪咲の体が疼きに似た期待を宿し始めた。その熱に浮かされるように、凪咲はそっと武流の背に腕を回して自ら彼に擦り寄った。

「武流さん、ずるいです。そんな風に言われたら断れるわけない……」

 そう訴えれば、武流が柔らかく笑ったのが耳元で聞こえてきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

快楽のエチュード〜父娘〜

狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい…… 父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。 月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。 こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。

女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集

恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。

【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜

船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】 お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。 表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。 【ストーリー】 見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。 会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。 手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。 親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。 いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる…… 托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。 ◆登場人物 ・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン ・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員 ・ 八幡栞  (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女 ・ 藤沢茂  (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

【契約ロスト・バージン】未経験ナースが美麗バツイチ外科医と一夜限りの溺愛処女喪失

星キラリ
恋愛
不器用なナースと外科医の医療系♡純愛ラブ・ストーリー 主人公の(高山桃子)は優等生で地味目な准看護師。 彼女はもうすぐ三十路を迎えるというのに 未だに愛する人を見つけられず、処女であることを嘆いていた。ある日、酔った勢いで「誰でもいいから処女を捨てたい」と 泣きながら打ち明けた相手は なんと彼女が密かに憧れていた天才美麗外科医の(新藤修二) 新藤は、桃子の告白に応える形で 「一夜限りのあとくされのな、い契約を提案し、彼女の初めての相手を務める申し出をする クリスマスの夜、二人は契約通りの関係を持つ たった一夜新藤の優しさと情熱に触れ 桃子は彼を愛してしまうが、 契約は一夜限りのもの 桃子はその気持ちを必死に隠そうとする 一方、新藤もまた、桃子を忘れられずに悩んでいた 彼女の冷たい態度に戸惑いながらも 彼はついに行動を起こし 二人は晴れて付き合うことになる。 しかし、そこに新藤の別れた妻、が現れ 二人の関係に影を落とす、 桃子は新藤の愛を守るために奮闘するが、元妻の一言により誤解が生じ 桃子は新藤との別れを決意する。 怒りと混乱の中、新藤は逃げる桃子を追いかけて病院中を駆け回り、医者と患者が見守る中、 二人の追いかけっこは続きついには病院を巻き込んだ公開プロポーズが成功した。愛の力がどのように困難を乗り越え、 二人を結びつけるのかを描いた医療系感動的ラブストーリー(※マークはセンシティブな表現があります)

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

処理中です...