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シーズン2

episode7「Spirit」

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あまりにもの事実に俺は現実に帰ってきた。いや、帰ってきたと言うか強制的に引き剥がされた感じだ。

「先輩……」

樒花は俺が書いた物語を読んで心底驚いた顔をしていた。しかし辻褄は合う、最近自分が関わる記憶を見て思うんだ。記憶の中では姉貴的の樒花が今俺のことを先輩と呼ぶ理由を、しかしわかったよ。俺はこの記憶の中で登場する中藤怜恩じゃなかったんだ。

もう一度言うと、俺は中藤怜恩でもなんでもない人間なのに俺は中藤怜恩を装って刑事をしていたんだ。

「知ってたのか?樒花……」

「すみません、黙ってて」

今まで俺の憶測であってくれと願っていた推理は、樒花による謝罪で確定してしまった。

「じゃあ誰なんだ!?俺は一体誰なんだよ!!」

「先輩落ち着いてください!!」

「こんな状況で落ち着いていられるか!!俺は一体…………」

つい熱くなってしまった自分に怯える樒花を見てようやく気づいた。その目には涙がこもっているのがわかった。そして俺は今更後悔し始める。

「すまない、俺が悪かった」

「いいえ……私が黙ってるのが悪かったの……」

いつも冷静な樒花がここまで感情を出しているのは初めて見た。

「本当は伝えようと思ってたの……でも先輩と一緒に過ごす時間は、本当に怜恩と一緒にいる気持ちになれて……ここで伝えたら先輩は壊れちゃうんじゃないかって怖かったの……もう二度と怜恩に会えなくなるんじゃないかって怖かったの……」

涙交じりに出す声はだんだん小さくなって、なんて言ってるか聞こえないぐらい掠れた声だった。多分彼女は本当の中藤怜恩のことが好きだったんだろう。だからあえて死んでしまった彼を名乗る俺に同調して彼の死を紛らわそうとしていたのだろう。

「そのままでいて欲しかったの……でも何処かで彼に本当のことを伝えた方がいいのかもって思って……わざと先輩呼びしたり、わざと記憶を見させたりしたの……でもあなたは怜恩の記憶を見るたびに彼に似ていく彼に染まっていくの……終いにはこのまま本当の怜恩になるんじゃないかって思ったの……でもそれじゃダメなんだって、私何を信じていけばいいのかってわからなくなって……」

彼女が相当葛藤したのがその短い言葉で伝わった。俺は行き場のない気持ちをどうすればいいのかと考えた。彼女だってしっかり考えていたんだ。俺だって考えないといけないのかもしれないな。

「先輩!?どこに!!」

「少し一人にさせてくれ、すぐ戻る」

俺は少し調べたいことがあり自室を出た。樒花も少し一人になる時間が必要だろう。お互い大変だからな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガチャンと扉が閉まり憧れていた怜恩に似た誰か。顔は全然違うけど、記憶と性格だけそのままだった彼は自室から出て行ってしまった。私の失態によって彼に迷惑をかけてしまった。

「……嫌われちゃったかな」

一人ポツリと立つ部屋でそう一言だけ呟く。もちろん言葉は返ってくるはずがなく返ってくるのは静寂だけ。それがまた私がしてしまったことに対しての後悔と罪深さを見にしみさせてくる。

ギュッと苦しくなる自分の心。心というか心臓というかが、私の寂しさに連動して苦しくなるのを感じた。拳で自分の胸を叩いてみるが痛いだけ、心の苦痛は治らず痛みをさらに煽るだけ。

ずっと立っているのにも疲れて一休みにも近くにあった椅子に座る。いつもは目の前の席にいるはずの彼は今はいない。静寂の中で私は自問自答を繰り返した。

私は間違っていたのだろうか?死んだ彼に似た人を愛すのは間違っているのだろうか?いいや、彼は死んでいない今目の前にいる彼は怜恩本人だと思っていたのは間違っていたのだろうか?少なくとも自分の正しいように動いたと思っていた。けど彼は自分が自分ではないことを知らなかった。だからそれを知っている私が教えてやらないといけなかったのではないか。きっとそうだ。彼が今まで自分は自分だと信じて疑わなかったのはそれを注意しなかった私のせいだ。私が…………?  

終わりそうのない自問自答をやめて椅子の背もたれにピッタリと背をつける。その後は上を眺めてみたり俯いてみたり意味の無い時間が続く。警察のみんなは今頃中尾の電話先に着いた頃だろう。そろそろ連絡が……。

ピリリッピリリッと部屋の端にある黒電話が鳴る。急いで受話器を耳に当て喋る。

「もしもし!?」

「もしもし?樒花、俺だ」

電話の相手は先輩だった。

「もう……大丈夫なんですか?」

恐る恐る聞いてみる。そのことについて怒ってるんじゃないかと正直怖かった。

「ああ、大丈夫だ。そっちも大丈夫か?」

しかし私の予想よりも本人の声は軽かった。意外と気にしていないのかな?

「何かわかったんですか?」

「ああ、俺自身が誰か、どういう経緯で今になったか全ての全貌が見えてきたよ」

その声はなんだか嬉しそうだった。私にはなぜだかわからないが彼が元気そうなら私もそれに合わせること。これが大事だと今は思った。

「聞いてもいいですか?」

そう聞くと、ああ。とだけ返してくれた。いつも通りの先輩だ。何事に対しても''ああ''ばっかりでよくわからない。感情が読み取れないっていうか……でも彼は''ああ''としか言わないが絶対に拒否はしない。私がどんなことを言っても絶対に否定はせずに、だけど容認もせず……やっぱり面倒臭い性格だ。怜恩と全然違う。

「あ………」

私はあることに気づき声を漏らす。

「ん?どうした?」

心配そうに彼は問う。でも大丈夫だ。もう迷わない。

「いいえ、なんでもないです」

それだけ伝えた。

なんだ……私はとっくの昔に気づいていたんだ。彼と怜恩が同じじゃないってことに。



シーズン2   エピソード7「精神」
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