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シーズン1
episode2「Beginning」
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「わあー!見てください先生!!海ですよ。う、み!」
和泉さんは電車の窓側の席に座っており、窓に手を当て覗き込むように外を眺めながら俺に訴えかける。
「ああ、そうだね。とっても綺麗だ」
しかし俺も嘘偽りなくとても綺麗な海だと感じており、外の景色に見惚れていた。
「さぁて、今日の現場はどんなところかな~」
「ちょっと和泉さん、別に俺たちは観光に行ってるわけじゃないんだよ。至って真面目に事件現場になると思われる場所に行くんだ」
「そりゃそうですけど~」
そう、俺たちが向かっているのは「洽崎館」と呼ばれる洋館である。なぜその現場に行くことになったのかと言うと、それは五日前の話。
俺はいつも通りにスーパーで買い物をした帰りだった。家に上がる前にポストを確認すると。
「今日から五日後の1985年12月24日あなたたちを洽崎館へと招待します。長塚さん、和泉さんお二人だけできてください。くれぐれも誰にも公開しないように。もししてしまった場合、お二人のどちらかを殺します。脅しではございません。いつでも私はあなたたちを見ています。 地獄の使者ミノタウルスより」
と言う脅迫文まがいの手紙が入っていた。最初こそ信じなかった俺らだったが、その日を境に誰かにつけられていたり、家の前をやたら闊歩している不審人物を見て不安になってきた。だから今こうして従って来ているのだ。そんなことがあったのに和泉さんはすっかり観光の気分というか、とりあえず上機嫌になっている。なぜなのだろうか?
「和泉さん、どう思います?あの手紙」
「うーん……どうって言われてもな~もしかしたら意外と誰かからのドッキリだったりして!先生有名人だからな~!いずれテレビデビューも近いと思っていましたが、最初がドッキリ番組だなんて先生もなかなかついてませんね!!」
ああ、だめだ。聞いたのが間違いだったか。と今更後悔したが、逆に俺ばっかり警戒しているのも疲れた。意外と和泉さんぐらい楽観的な考えをする時も大事なのかもしれないな。
ため息をこぼして今までもたれかかっていなかった電車の椅子に背中をぴっちりと沈める。こうして見るとかなり気持ちが良くなって来た。そして自然と意識は朦朧として来た。最近寝不足だったためその反動が帰って来たか。少しぐらい寝てもいいかな。そう思い瞼を閉じた。
・
・
・
・
・
・
ハッとする。
目を開けると目の前に知らない風景が広がっていた。眠っていたのか、本来降りる場所を通り越してしまっていた。横を見るとまだ眠っている和泉さんがいた。
「和泉さん!!起きてください!!」
体を揺さぶって起きさせる。未だ眠いのか目を手で擦ったり瞼をパチパチさせていたが、俺が状況を教えると驚きで目をカッと見開く。
「ど、どうしましょう!?」
「でも仕方ない今から引き返すのも難しい、先に今日泊まるに行こう」
宿まではまだ距離があったのでもう少し後に降りてその後のことは宿についてから考えよう。俺たちは少し急足で電車を出て歩き出した。
宿までの距離は結構あり、舗装された道から舗装のほの字もない森の中の道をひたすら歩き、ようやく宿へと繋がる道に出た。
「はあ、はあ。かなり歩いたな……疲れた……」
「ですね……宿に着いたらまず一番にベッドに寝てやりましょう」
そんな会話をしつつ、ボロボロになった足をがんばらせて動かし、ようやく宿が見えてくる所まできた。
「わあっ!あそこですか?その宿っていうところは……」
「ああ、そうだ。少し予想外れていますけど」
そうそこにあったのはとても宿とは言えない。言うなれば''館''の方が正しいかもな。見た目は明らかな洋風で正面のドアを含め入口はなし、沢山ある窓は灯がついたもの、消えたもの。様々あった。
俺は近づきドアの横にあるインターホンのようなものを鳴らす。
「ゴーン……ゴーン」
とインターホンの音とは思えないような重厚な鐘の音がする。と、ドアが重い下を鳴らしながら片方だけが開く。
「どちら様ですか?」
中から出て来たのは渋くかなり歳を取って見える。だが、その姿には何か信頼できるような頼もしさがあるそんな人だった。使用人だろうか?黒いスーツ?のようなものをきっちりと纏っている。
「あの、ここに泊まる予定をしていた長塚と和泉というんですが……」
すると胸ポケットからメモ帳を取り出して何かを確認している。
「長塚さんと和泉さんですね。いらっしゃいませ、どうぞおあがりください」
片方だけ開けていたドアを両方とも開けて俺たちを館内に招く。
「使用人の中尾と申します。短い間ですが、よろしくお願いします」
頭を下げて来たので、俺たちも会釈した。そうこうしているといい匂いがしていることに気がついた。昼から何も食べていなかったためそれと同時にお腹が鳴る。
「ちょうど食事の準備ができています。荷物を置いたら一階の食堂に来てください」
それを見て少し笑顔を見せて中尾さんは言った。それまで硬い雰囲気だったため少し俺たちも安堵し、笑って見せた。
「了解です。ちょうどお腹が空いてたんですぐ降りて来ます」
俺たちも一応返事をしておく。
「準備して待っています」
中尾さんも一礼し、鍵や部屋の場所などを教えてもらった後、俺たちは自分たちの部屋がある三階へ向かった。
そう、この館に入った時。全ての惨劇は確定してしまった。
シーズン1 エピソード2「始まり」end
和泉さんは電車の窓側の席に座っており、窓に手を当て覗き込むように外を眺めながら俺に訴えかける。
「ああ、そうだね。とっても綺麗だ」
しかし俺も嘘偽りなくとても綺麗な海だと感じており、外の景色に見惚れていた。
「さぁて、今日の現場はどんなところかな~」
「ちょっと和泉さん、別に俺たちは観光に行ってるわけじゃないんだよ。至って真面目に事件現場になると思われる場所に行くんだ」
「そりゃそうですけど~」
そう、俺たちが向かっているのは「洽崎館」と呼ばれる洋館である。なぜその現場に行くことになったのかと言うと、それは五日前の話。
俺はいつも通りにスーパーで買い物をした帰りだった。家に上がる前にポストを確認すると。
「今日から五日後の1985年12月24日あなたたちを洽崎館へと招待します。長塚さん、和泉さんお二人だけできてください。くれぐれも誰にも公開しないように。もししてしまった場合、お二人のどちらかを殺します。脅しではございません。いつでも私はあなたたちを見ています。 地獄の使者ミノタウルスより」
と言う脅迫文まがいの手紙が入っていた。最初こそ信じなかった俺らだったが、その日を境に誰かにつけられていたり、家の前をやたら闊歩している不審人物を見て不安になってきた。だから今こうして従って来ているのだ。そんなことがあったのに和泉さんはすっかり観光の気分というか、とりあえず上機嫌になっている。なぜなのだろうか?
「和泉さん、どう思います?あの手紙」
「うーん……どうって言われてもな~もしかしたら意外と誰かからのドッキリだったりして!先生有名人だからな~!いずれテレビデビューも近いと思っていましたが、最初がドッキリ番組だなんて先生もなかなかついてませんね!!」
ああ、だめだ。聞いたのが間違いだったか。と今更後悔したが、逆に俺ばっかり警戒しているのも疲れた。意外と和泉さんぐらい楽観的な考えをする時も大事なのかもしれないな。
ため息をこぼして今までもたれかかっていなかった電車の椅子に背中をぴっちりと沈める。こうして見るとかなり気持ちが良くなって来た。そして自然と意識は朦朧として来た。最近寝不足だったためその反動が帰って来たか。少しぐらい寝てもいいかな。そう思い瞼を閉じた。
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ハッとする。
目を開けると目の前に知らない風景が広がっていた。眠っていたのか、本来降りる場所を通り越してしまっていた。横を見るとまだ眠っている和泉さんがいた。
「和泉さん!!起きてください!!」
体を揺さぶって起きさせる。未だ眠いのか目を手で擦ったり瞼をパチパチさせていたが、俺が状況を教えると驚きで目をカッと見開く。
「ど、どうしましょう!?」
「でも仕方ない今から引き返すのも難しい、先に今日泊まるに行こう」
宿まではまだ距離があったのでもう少し後に降りてその後のことは宿についてから考えよう。俺たちは少し急足で電車を出て歩き出した。
宿までの距離は結構あり、舗装された道から舗装のほの字もない森の中の道をひたすら歩き、ようやく宿へと繋がる道に出た。
「はあ、はあ。かなり歩いたな……疲れた……」
「ですね……宿に着いたらまず一番にベッドに寝てやりましょう」
そんな会話をしつつ、ボロボロになった足をがんばらせて動かし、ようやく宿が見えてくる所まできた。
「わあっ!あそこですか?その宿っていうところは……」
「ああ、そうだ。少し予想外れていますけど」
そうそこにあったのはとても宿とは言えない。言うなれば''館''の方が正しいかもな。見た目は明らかな洋風で正面のドアを含め入口はなし、沢山ある窓は灯がついたもの、消えたもの。様々あった。
俺は近づきドアの横にあるインターホンのようなものを鳴らす。
「ゴーン……ゴーン」
とインターホンの音とは思えないような重厚な鐘の音がする。と、ドアが重い下を鳴らしながら片方だけが開く。
「どちら様ですか?」
中から出て来たのは渋くかなり歳を取って見える。だが、その姿には何か信頼できるような頼もしさがあるそんな人だった。使用人だろうか?黒いスーツ?のようなものをきっちりと纏っている。
「あの、ここに泊まる予定をしていた長塚と和泉というんですが……」
すると胸ポケットからメモ帳を取り出して何かを確認している。
「長塚さんと和泉さんですね。いらっしゃいませ、どうぞおあがりください」
片方だけ開けていたドアを両方とも開けて俺たちを館内に招く。
「使用人の中尾と申します。短い間ですが、よろしくお願いします」
頭を下げて来たので、俺たちも会釈した。そうこうしているといい匂いがしていることに気がついた。昼から何も食べていなかったためそれと同時にお腹が鳴る。
「ちょうど食事の準備ができています。荷物を置いたら一階の食堂に来てください」
それを見て少し笑顔を見せて中尾さんは言った。それまで硬い雰囲気だったため少し俺たちも安堵し、笑って見せた。
「了解です。ちょうどお腹が空いてたんですぐ降りて来ます」
俺たちも一応返事をしておく。
「準備して待っています」
中尾さんも一礼し、鍵や部屋の場所などを教えてもらった後、俺たちは自分たちの部屋がある三階へ向かった。
そう、この館に入った時。全ての惨劇は確定してしまった。
シーズン1 エピソード2「始まり」end
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