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ベビーシッターなんて言わせないっ!

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 それから俺は数日に渡り食後に海里に男女の性行為とはどういうものか、ということを教授されている。そういえば雑誌は無事取り戻すことが出来て岡田に返した。俺の鞄に雑誌を入れたのは岡田自身だったらしい。
 あの後案の定アニキにバレて言い訳に必死だったらしいが、お前もそんな年になったのかと、何故か感心されてもう少し貸しておいてやるよと言われたらしい。俺は一人っ子だから、そういうことに対する兄弟の感覚っていうのはよくわからないけれど。
 俺はというと本当にウンザリだ。最近海里に対しての反発心が芽生えてきたというのにその海里からの性教育とか。必要なことかもしれないけれどベビーシッターというのはそんなことまで教えないといけないのだろうか。毎日生々しい説明を真顔でされて、こっちは変にいろいろなことを妄想したりして赤面したり慌てたり、そんなことはお構いなしだ。
 しかしよくあんなに微動だにせずに性とはなんたるものかを語れる。かといって手取り足取り教えられても困るけれど。どんどん知識だけがついていって、話を聞いて妄想するたびに、あまりに材料がなさすぎて海里といるかどうかもわからない海里の彼女っぽい顔にモザイクのかかった女の人を想像してしまうから自分でもそれをどうにかしたい。
 一人で部屋にいる時もなんだか勉強に集中出来なくて頭がぼんやりする。色ボケなんていうけれど、こういうのがそういうものなのだろうか。
 知識ばかりで体が追いついていかない。ただなんとなくいやらしい妄想するだけでも中心がなんだか火照ってくる感覚が妙に生々しくてため息が出た。こういう場合、きっとそこを触って火照りを散らすような行為をするべきなのだと今ではわかっているのだけれど、抵抗感があってそれも出来ない。でも欲望は裏腹に溜まっていって溢れてしまいそうになってどうしたらいいのかわからない。その欲望を晴らす相手もいない。しかし、誰かにソレを発散するためだけに近づくなんて傲慢だ。
 毎日ぐるぐるして、限界だった。
 そんなある朝、事件が起きた。
 目が覚めて、下半身が妙にべとついている事に気がついたのだ。
 飛び起きて布団をはいで恐る恐る確認する。そしてすぐに何が起こったのか、理解した。
 理解して、パニックになった。
 どうしよう。どうしよう。
 どう、処理したらいいんだ。
 汚れた下着を履いたまま風呂に行く? でも、風呂を出た後になんで下着を洗ったのか海里に詮索されたらどうしよう。捨てようと思ってもそのままでは捨てられない。ゴミの処理をする時に見つかったら言い訳が出来ない。そもそも布団までシミになっているから下着だけの問題ではない。
 こんな状態にも関わらず、登校時間は刻一刻と迫ってくる。
 もう限界だった。高校生になったんだ。大人なのに。子供じゃないのに。そう我慢して最近は弱音も吐かないようにしていたのに涙がボロボロボロボロと溢れて止まらなくなった。
「玲さん、時間ですよ」
 海里が扉を叩く。しかし何も答えられずただ嗚咽だけが漏れる。
「玲さん? 入りますよ」
 答えないことを不思議に思ったのか海里が部屋に入ってきても涙を止めることは出来なかった。
「かい、り……っ……」
「玲さん……!?」
 泣きじゃくる俺に何事かと海里が駆け寄ってくる。
 そして、すぐにソレを察したようだ。
「大丈夫、大丈夫です」
 そっと海里が俺の体を抱き寄せる。フワッと、広い胸に包み込まれて子供の頃のことを思い出した。
 いつもは厳しかったが、怪我をして泣いている時や、辛いことがあって泣いていた時、海里はすぐに駆けつけて俺をこうして抱き締めて慰めてくれていた。その温かさを、思い出した。
「海里、どうしよう~……」
 俺は我を忘れて泣きじゃくりながら海里の胸に縋り付いた。そんな俺の頭を何度も撫でながら海里は大丈夫、大丈夫と、言葉をかけてくれた。
 その後少しして落ち着いた俺は後の処理を海里に任せて学校に行く準備を整えた。
 あんなに泣いたのなんていつ以来だろうか。
 結局一番知られたくなかった海里に自分の粗相を始末してもらったなんて。オムツを替えてもらっていた赤ちゃんの頃に戻ったみたいだ。その頃のことを、覚えているわけではないけれど。
 どんな顔で海里を見ていいのかわからない。しかし、海里はいつもと変わらずに俺を学校まで送迎して帰っていった。
 授業中、不思議な感情が湧き上がっていた。
 俺が学校にいる間、海里は何をしているのだろうか。
 少し前にも思ったけれど、その時はこんなには気にならなかった。
 なんだか今では気になって仕方がなかった。
 夕飯の買い出し? それとも俺の知らない女の人とでも会っているのだろうか。
 もし女の人と会っているとして、何をしているのだろうか。
 デート?
 あのつり目でほとんど笑わない海里が笑顔を見せていたりするのだろうか。
 どうしてだろう。
 どうして、こんなに気になるようになったのだろう。
 授業にも身が入らない。先生の声は右から左に流れていって、そんなことも、初めてだった。
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