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第33話

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「ちょっとシド、あんたそれでも本当にイカサマやってないの?」
「まさかの配牌、即イーシャンテンが三連発なんて、ありっスか?」

 一向聴イーシャンテンとはあと一手で聴牌テンパイという、リーチの直前状態のことだ。

「ヤバいぞ、シドに振り込むなよ」

 と、共同戦線を張ろうとするフレドにヘイルが呻く。

「振り込むなったって、一巡もしてないのにどうやって避けるんだ?」
「字牌はダメ、高目たかめ跳満ハネマンでアガられるわよ」
「ごちゃごちゃ五月蠅いぞオーディエンス。手牌をべらべらとバラすんじゃねぇよ」

 愉しそうで結構である。
 ハイファは各人にミカンを配り、湯飲みに玄米茶を淹れて配給した。それが終わるとシドの傍でミカンを剥き一房ずつシドの口に運ぶ。

「ん、サンキュ」
「あれっ、シド、リーチは?」
「メンゼンじゃないと四暗刻スーアンコウにならねぇ……だから黙ってろって」
「おーい、シドが対々トイトイリーチだぞ! ところであんたらは結婚してるのか?」
「結婚はしてねぇが似たようなモンだ。フレド、あんたに訊くのはおかしいか?」
「おかしくない。俺も二百三十五年前と百四十八年前、七十六年前に結婚した」

 途端に地元組がざわめき出した。

「何です、それ? 局長の結婚話なんか俺たちも初耳っすよ」
「ふうん。それも三回とはフレドも結構やるんだね」
「人を遊んでるみたいに言わないでくれ。三人ともちゃんと最期まで連れ添って看取ったぞ。ったく、こういう話こそギルに聞かせてやりたいもんだが」
「はーい、質問! 付き合った女性の数は何人なんですか?」

 マイクを持つフリをしたオランジュにフレドは咳払いをする。

「ノーコメント」
「あ、すまん。フレド、そいつはアタリだ」
「くそう、動揺させるんじゃない。四万八千持ってけ!」

 そうして何度か面子の入れ替えをし、シドも観戦側に回ったときシドとハイファのリモータが同時に震えだした。発振パターンは別室からで、二人は宜しくない予感に顔を見合わせる。

「まだ【任務完遂を祝す】ってヤツには早いよな?」
「ここにきて更に任務なんてアリなのかな?」
「俺に訊くなよ、別室員」

 シドとハイファのシリアスな雰囲気が伝染し、皆が二人を注視していた。時刻は十一時半近く、あと二十分でスターゲイザーは機動開始である。

「何だか急ぎっぽい予感……ゴネないで見ようよ」
「ああ、分かってるさ」

 全員の注目を浴びつつ二人は揃ってリモータ操作した。小さな画面にライトグリーンの文字が浮かび上がる。


【中央情報局発:緊急。スターゲイザーから発せられた誘導波によりフォボス第一艦隊とタイタン第二艦隊が異常機動しタイタン上空に集結中。原因究明し誘導波の解除に従事せよ。選出任務対応者、第二部別室より一名・ハイファス=ファサルート二等陸尉。太陽系広域惑星警察より一名・若宮志度巡査部長】


「付属資料もなしか。どういうことなんだ?」

 今度はフレドに視線が集まった。顔をしかめたフレドが口を開く。

「このスターゲイザー以外にウイルス艦をワープさせる手がひとつだけある」
「えっ、本当に? じゃあ何でそれをやらないの?」
 
 苦いものを噛んだような表情でフレドは説明した。

「犠牲が大きすぎるからだ。フォボス第一艦隊とタイタン第二艦隊の旗艦、護衛艦群に巡察艦群、駆逐艦群、練習艦群、電子戦闘艦を集結させてウイルス艦に全て接舷させる。タイミングを同期させれば全長三キロのウイルス艦もワープさせ得る計算だ」
「もしかしてその場合も――」

 頷きつつフレドは続ける。

「オートでは無理だろう。TF557系には所在の掴めていない小惑星がゴロゴロしてるからな。避けるための機動は誰かが手ずからやらにゃならん」
「おまけに『アステロイドを避ける人員』だけじゃねぇ、それらの艦隊全部に乗組員が乗って、もろとも突っ込ませなきゃならねぇってことか?」

「それだけならまだいいが、その通信を鵜呑みにするならば最低限の操艦人員を残してる訳じゃない、総員退去命令すら出されていない普段通り人員満載の艦が、突然ダイレクトワープ通信の電波で動いてるってこった」
「って、やっぱりギルか?」
「ああ。あいつも気付いたってことだな。潮時だ。ギルを止めてタイタンに行く」

 厳しい顔をしたフレドに続いて皆が立ち上がった。部屋を出て靴を履くと皆で観測センターのドームに向かって歩き出す。

「あいつは知識こそ耳から溢れるくらいに詰め込まれているが感情は子供のままだ。多少、手こずるかも知れん」

 ほどなく着いた観測センターに入るとフレドは一階の管理室のオートドアのセンサに無造作に感知した。だがドアは開かない。ドア脇のパネルにリモータを翳しても開かなかった。

「キィロックコードまで変更して籠城してやがる」

 呟いたフレドはリモータから引き出したリードをパネルに繋ぐ。しかしなかなかロックは解除できなかった。

「これがヴァージョンの違いってヤツか……時間がない、ウイルス艦と艦隊に跳ばれる前に何とかしないと」
「フレド、退いてろ。このドアくらいなら叩き壊してやる」

 巨大レールガンを抜いたシドはマックスパワーをセレクト、オートドアのロック機構部分に向けてトリガを引いた。
 分厚い金属ドアに二発で穴が開き、三発目でロック機構が吹き飛ぶ。
 重たいドアを皆で押し、ずらして開けた。
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