上 下
28 / 36

第28話

しおりを挟む
「それではお客人と新局長の歓迎晩餐会を始めたいと思います。まずは、乾杯!」

 総員九名それぞれがビールやジュースのコップを持ち上げてから口にした。何となく拍手が湧いて、収まると皆が大きな座卓の上の料理に箸やフォークを伸ばし出す。

「では自己紹介を俺から。旧局長のフレデリック=エリス、フレドと呼んでくれ」

 それだけ言うとフレドは右隣を見た。隣の薄い金髪の中年男がフォークをマイクのように握ってみせる。

「俺はヘイル。システム担当。ここに来て六年になる。次」

 指されたのは同じく金髪の中年男だ。ヘイルより若い、三十歳前後だろう。

「パーカーと呼んで下さい。俺もシステム担当です。二年前にきたぺーぺーです」

 次が黒髪で一番年嵩に見える長身男だった。

「スチュアートだ。医者をやってるが着任七年、患者は捻挫がのべ二人だった」

 順に自己紹介が回り、クロデルが分析担当、オランジュがモニタ要員だということは分かったものの殆どの機器はオートで作動、データはエウロパの航空宇宙監視局本部に送られるということで、つまりは誰も仕事という仕事はないということだった。

 彼らの諸元を知ったところで何になるのかシドとハイファにとって激しく疑問だったが、百年一日のここでは客というだけで珍しくも愉しいイヴェントらしかった。
 水を差すのも悪いので二人は注がれたビールのコップを傾けている。シロもミルクの皿の前で正座していた。

「いつもこうやってみんなでご飯食べてるのかな?」

 大皿のカニ玉をスプーンで取り分けながらパーカーが答えた。

「ええ。この六人になってからはずっとこの一〇七で食ってます。作るのは当番制」
「最初のうちは二階の食堂で作ってたんだが、広すぎて使いづらいし掃除が面倒だしで、結局こっちになったのさ」

 と言ってヘイルがエビチリを頬張った。

「それにしてもこいつは過去最高に旨いな。ハイファスの料理に乾杯だ」

 スチュアート医師が赤い顔でニコニコと笑う。
 結局全ての料理をハイファが作るハメになったのである。女性陣の恐ろしい『中華料理に初めて挑戦するの』を見ていられなくなったのだ。
 幸い食材は豊富に揃っていた。食後のデザートにベイクドチーズケーキもある。

「ところで皆、このA棟に住んでんのか?」
「一〇一から一〇四までフレド、パーカー、ヘイル、スチュアート。わたしが二階の二〇一でオランジュが二〇二よ。貴方たちは、そうね。三階の部屋ならどれでも使えるようになってるから適当にやって」

 こちらもビールで顔を赤くしたクロデルが唐揚げを食べつつ指示をした。だが、

「それで、いつメモリを渡して貰えるのでしょうか?」

 と、平坦な口調でギルが言った途端その場が一瞬凍りつく。次にはクロデルとオランジュが食って掛かっていた。

「メモリはフレドの記憶、そう簡単に他人に渡せるとでも思ってるの!?」
「渡したら製造段階から形成されたフレドの人格も、学習してきた何もかも全てが消えるわ。今の貴方どころかスクラップ同然になっちゃうのよ。テンダネスが予言した明後日までまだ間があるわ、待ってくれてもいいじゃない!」

「バグが発動してシステムに異常が検出されてからでは、私が受け取るメモリにも異常が出る可能性があります。そうなる前に――」

 そこでフレド本人がのほほんとした声を出す。

「まあ、俺自身は構わないんだが、まだテラ連邦議会からのゴーサインがきてないんだわ。そいつがこればすぐにでも渡すから、ちょいと待ってくれないか」
「そう……ですか、仕方ありませんね。しかし異常を感知したらすぐにメモリの移植をします。いいですね」
「ああ、そうしてくれ」

 当人たちが何でもなかったかのように食事に戻ると、やや雰囲気は硬いながらも、晩餐と雑談が再び始まった。

 チーズケーキとコーヒーまで胃の腑に収めると二十一時前、後片付けをする食事当番の女性二人を残して、所用があるというヘイル以外の男性陣は一〇一号室へと移動だ。
 シドも誘われて麻雀組、ハイファは観戦でギルもついてくる。フレドから目を離したくないらしい。

 コタツの天板を引っ繰り返した緑色の布張り雀卓をシドは左にフレド、右にスチュアート、対面トイメンにパーカーというメンバーで囲んだ。使い古された雀卓は貼られた布が所々破れている。相当使い込んでいるようだ。

 最初の親はフレドである。十四枚の牌から一枚捨てた風牌の東をいきなりシドが鳴いてポンをし、東を三枚右端に晒した。

 残りの十一枚から一枚捨てながらシドは訊いてみる。

「おい、これって何か賭けてんのか?」
「明日の朝飯当番。八時の朝食に向けて六時起き、メシ炊きからだぞ。覚悟しろ」

 フレドがそう言ったが、聞いていたハイファは心配していない。シドの食事当番、イコール自分が肩代わりという図式になるのは目に見えているが、イヴェントストライカがこのテのゲームで負ける訳がないからだ。

「何せ雀歴にして三百二年の大ベテランがいるからな」

 そう言ってスチュアートが捨てた北をシドはまたポンでゲットする。

「ウイルス艦がタイタン上空にくるのは明日のいつだって?」

 答えたのは一巡してきて牌の山から一枚引いたフレドだった。

「正午、十二時の予定だ。ほい、リーチ」
「ふうん。すまんがそれ、ロンだ。フレド、三万二千点くれ」

 シドは残りの手牌をパタリと倒した。晒した手牌に南が三枚、発と西が二枚ずつ、フレドが捨てたのは西だ。ポンをした東・北は既に三枚ずつを晒している。東南西北の風牌の四種を三枚ずつ揃えた大四喜だいスーシー、役満である。

「そんなのアリか? チッ、役満親流れとはやってくれる」

 ガラガラと牌をかき混ぜ、伏せて二段に山を積みながらシドが更に訊く。

「フレド、あんたはテラ連邦議会と協議で忙しいんじゃねぇのかよ?」
「ここから捻り出せる案はもう提出してある。あとは沙汰を待つだけだ」

 子であるそれぞれが十三枚、親のシドが十四枚を山から引いてきて手牌にし、白を切って捨てた。スチュアートが索子ソウズの九を切る。続けてパーカーが発を切った。

「その『捻り出した案』ってのは何なんだ?」
「内緒だよーん。テラ連邦議会が吃驚仰天、紛糾してるよ。リーチだ」

 筒子ピンズの一を捨てたフレドは、リーチの代金である千点棒を場に投げ出す。

「もうリーチか、早いな。三百二年はダテじゃねぇってか」

 シドは山から引いた一枚をそのままツモ切り、河に捨てた。

「その内緒の案は、ここの皆は知ってるのかよ?」

 同じくツモ切りしたスチュアートと南を捨てたパーカーは首を横に振る。

「同じ釜の飯を食ってる俺たちにも言わないんだ、この御仁は」
「局長も冷たいっすよね、ここにきて何を考えているのやら」

 見た目はギルと同じく若いが老成した顔つきでフレドはニヤリと笑った。

「まあ、俺の最後の花道だからな。我が儘を言わせて貰ってる。っと、ハズレか」

 南の牌を悔しそうにツモ切りしたフレドに続きシドが山から引く。引いた牌を場に投げ出して晒した。

「ツモだ。これで役満はアリか?」

 引いた牌はピンズの二、倒した手牌は全てピンズで、二・三三・四四・五五・六六・七七・八八であった。

「ンなの、アリっすか!?」
「大車輪とはまた古いな。局長、どうする?」
「ローカル・ルールはナシだ。そうそう役満アガリされて堪るか!」

 場の皆からクレームがつきシドは四万八千点を諦める。

「それでもメンチンタンピンリャンペーコーで十一翻の三倍満だ。一万二千オール」

 面前メンゼン清一色チンイーソウ断公九タンヤオチュー平和ピンフ二盃口リャンペーコーなどという珍しい現象をハイファはギルとやっている七並べの手を止めて覗いた。それからおもむろにキッチンへと立ち帰ってくると全員に玄米茶の湯飲みを配給する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

リアゼノン・オンライン ~プレイ中のゲームから異世界に連行された俺は、多くの人に学ぶ中で最強を目指す。現在地球は大変だそうです

八ッ坂千鶴
SF
 レベルアップするとステータスの数値が減少するデスゲーム 〈リアゼノン・オンライン〉  そんなゲームにログインしたのは、要領が悪い高校1年生宮鳥亜蓮十六歳。  ひょんなことから攻略ギルド【アーサーラウンダー】へ参加することになり、ギルド団長ルグア/巣籠明理に恋をしてしまう。  第十層で離れ離れになっても、両思いし続け、ルグアから団長の座をもらったアレン。  スランプになりながらも、仲間を引っ張って行こうとしていたが、それは突然崩されてしまった。  アレンはルーアという謎の人物によって、異世界【アルヴェリア】へと誘拐されて行方不明に……。  それを聞きつけてきた明理は、アレンを知っているメンバーと共に、異世界から救出するため旅に出る。  しかし、複数の世界が混じり合い、地球が破滅の一途に進んでいたとは、この時誰も知らなかった。  たった一人を除いて……。 ※なろう版と同じにしている最中なので、数字表記や記号表記が異なる場合があります

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪
SF
 毎日の仕事で疲れる主人公が、『楽な仕事』と誘われた宇宙ジャンルのVRゲームの世界に飛び込みます。  ゲームの中での姿は一つ目のギガース巨人族。  最初はゲームの中でも辛酸を舐めますが、とある惑星の占い師との出会いにより能力が急浮上!?  乗艦であるハンニバルは鈍重な装甲型。しかし、だんだんと改良が加えられ……。  更に突如現れるワームホール。  その向こうに見えたのは驚愕の世界だった……!?  ……さらには、主人公に隠された使命とは!?  様々な事案を解決しながら、ちっちゃいタヌキの砲術長と、トランジスタグラマーなアンドロイドの副官を連れて、主人公は銀河有史史上最も誉れ高いS級宇宙提督へと躍進していきます。 〇主要データ 【艦名】……装甲戦艦ハンニバル 【主砲】……20.6cm連装レーザービーム砲3基 【装備】……各種ミサイルVLS16基 【防御】……重力波シールド 【主機】……エルゴエンジンD-Ⅳ型一基 (以上、第四話時点) 【通貨】……1帝国ドルは現状100円位の想定レート。 『備考』  SF設定は甘々。社会で役に立つ度は0(笑)  残虐描写とエロ描写は控えておりますが、陰鬱な描写はございます。気分がすぐれないとき等はお気を付けください ><。  メンドクサイのがお嫌いな方は3話目からお読みいただいても結構です (*´▽`*) 【お知らせ】……小説家になろう様とノベリズム様にも掲載。 表紙は、秋の桜子様に頂きました(2021/01/21)

【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する

紫電のチュウニー
SF
 宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。  各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な 技術を生み出す惑星、地球。  その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。  彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。  この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。  青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。  数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。

天寿を全うしたら美少女閻魔大王に異世界に転生を薦められました~戦国時代から宇宙へ~

常陸之介寛浩☆第4回歴史時代小説読者賞
ファンタジー
第三回歴史・時代小説大賞読者投票ポイントランキング2位 第四回歴史・時代小説大賞読者投票ポイントランキング11位 天寿を全うした、平成の剣聖・剣豪・武士・塚原卜伝の生まれ変りの異名を持つ三上龍之介 死んで、天国か地獄かと思っていたら美少女閻魔ちゃんに天国より異世界転生を勧められてしまった… 時代劇マニアだった三上龍之介は、歴史好きでは語ると馬鹿にされるifを実行してみたく戦国時代へ! 三上龍之介は、目的を達成出来るのか!? 織田信長は!?本能寺の変は!?豊臣秀吉は!?徳川家康は!? 側室(ハーレム)は作れるのか?肉食系主人公は大暴れ? 世界のHIT○CHIのエンジニアと世界大戦参加の経験を武器に戦国時代にはあり得ない武器の数々を開発! 装備も初期設定も高過ぎてあり得ない主人公に! チート過ぎる100歳の龍之介が転生した戦国時代 チンコビンビンの20歳に転生 歴史が大きく変わりだす? 幕末三大兵器で16世紀を大暴れ!? 日本国をでて世界で大暴れ!? 龍之介は何を目指す 世界征服か!? 鹿島沖伝説のうつろ船の出現!? ~~~~~~~ 15世紀周辺の世界的に有名な人達とも絡みます~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 作者の茨城愛で茨城はやたら発展します。 ごめんなさい。 誤字脱字は御指摘あれば修正していきます。 日々改編も重ねております。また、登場人物はかなり省いております。必要最低限の登場人物の中でお楽しみに頂ければ幸いです。登場人物や時代背景・武器の登場には若干の無理もありますが物語として笑って許してください。 出来る限り毎日新話投降します。感想いただけると今後の参考になります。皆さまに楽しんで頂ける小説を目指します。 読んで頂いてまことにありがとうございます。 第三回歴史・時代小説大賞読者ランキング2位ありがとうございました。 少しずつ修正中、修正した話には「第○○話」と、題名に足していきます。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

処理中です...