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第26話

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 ギル、ハイファ、シドの順に降艦する。外は人工光で明るかった。

 降りてシドは周囲を見回す。モニタで見た通りの格納庫といった建物内だ。
 ライトパネルが並んで輝く天井は異様に高く、三十メートルもあるだろうか。面積も広大、長辺が二百メートルくらいはありそうだ。そこには乗ってきた小型宙艦以外に、四機の宙艦が停泊していた。どれもBELに似た旧い型である。

 小型宙艦に近い格納庫の壁際にはコイルが三台駐車されていた。内部の構造も全て知識として詰め込まれているらしいギルがコイルへと二人を促す。

「管理居住区まで三キロはありますから乗って下さい」

 三人が乗り込みギルが座標指定するとコイルは軽快に走り出した。開け放たれた格納庫の大扉から出て天然の衛星そのままらしい道に出る。道からは巨大な大口径ビーム砲の黒い影と、まさに降り注ぐような星々が望めた。

「ここは夜なんだよな」
「そりゃあ、常に星を観察しなきゃならないんだから、当然でしょ」

 僅かな側面にしか太陽光が当たらないよう調整されているということで、馬鹿なことを訊いたと思いながら、シドは道の両側の地面に埋め込まれたライトの帯を眺め続ける。
 道の両側には様々な人工物、倉庫めいた背の低い建物やアンテナ群がひしめいていたが地面が天然のものなので、まるで荒野の一本道を走っている感覚だ。

「あ、あれかな、管理居住区って」

 ハイファの声で前方を見ると、直径百メートルはありそうなドーム型の建築物が二つと、その左右にマンションのような四角い五階建ての建築物が五つずつ、どっしりと佇んでいた。

「あのドーム型の建物は左が総合管理センター、右が観測センターです。四角いものが居住区ですね」
「へえ、結構な人数が住めそうだな」
「現在は局長以下六名が住んでいます」
「ふうん、六名も……って、まさかこのデカいスターゲイザーにたった六人かよ?」

「データではそのようになっています。かつて航空宇宙監視局本部として機能していた際には最多時で約千二百名がいましたが、現在は六名です。間違いありません」
「何だそりゃ。マジで島流しみてぇだな」
「シド、それは失礼じゃない?」
「う、すまん」

 そう、ギルはここで数百年というときを過ごすためにやってきたのである。幾らアンドロイドとはいえ、罪人扱いは宜しくないだろう。

「で、その六人は何処にいるって?」
「そこまでは分かりません。総合管理センターに行けば生体モニタされている筈ですから、そこに行ってみるのが妥当だと思われます」

 総合管理センターのドームの前でコイルを接地させ三人は降りた。そこにもコイルが三台と小型BELが一機駐まっていた。人の気配もなく、打ち捨てられたような風情だ。

 ドームの入り口にはリモータチェッカがついていたが、機能は停止されているらしく、シドとハイファもギルに続いてノーチェックで入れた。

 一枚に見える金属板の中央にスリットが入り、音もなく開いた入り口から三人は足を踏み入れる。ライトパネルで照らされた内部は二階か三階建てらしく、入ってすぐにエレベーターとオートスロープがあった。

 上階へは上らず円形の構造物のふちに当たる湾曲した廊下をギルは歩いて、左側の最初の部屋に迷いなく入る。自家発電か発電衛星からのアンテナで取り放題なのか、ここも室内は明るかった。

 ショッピングセンターの監視カメラルームのように幾つものモニタ画面が並ぶ中、ギルはスクリーンのひとつを見つめる。

「六名ともにA棟の一階にいるようですね。現局長であるフレデリック=エリス氏以下四名が一〇一号室、二名が一〇七号室で確認されました。行きましょう」

 さっさと踵を返すギルについて歩きながらシド、

「俺たちはあんたをここに連れてきた時点で、任務終了なんだがな」

 足は止めずに振り向いたギルは、無表情ながらも少し困っているようだった。

「私には貴方がたをテラ本星に送るというプログラムは与えられていません」
「って、どうやって帰れってんだよ。せめてタイタンまででも運んでくれねぇと」

 総合管理センターから出たギルは星空を仰いだ。

「このスターゲイザーの裏側からしか見えませんが、現在ここはタイタンまで約三十万キロ、テラ本星とルナ間よりも近い距離にあります」
「それが何のなぐさめになるのかは知らねぇが、三十万キロをゼロにする知恵を、何でもいいから授けてくれよな」
「現局長のフレデリック=エリス氏にでも訊いてみるしかないんじゃない?」
「なるほど、三百年もいれば何かの『つて』でもあるかも知れねぇな」

 地面には一定間隔でライトが埋め込まれ夜といっても足元には不自由しない。外灯のように上から照らさないのは、やはり星を眺めるためなのだろうかとシドは思う。

 五分も歩かぬうちに居住棟、一番近いのが人のいるというA棟だった。チョコレート色の外壁を持った居住棟もリモータチェッカは機能を止められているらしかった。ここも一応テラ連邦施設というのに、かなりセキュリティが緩い土地のようである。

 エントランスから入ると、中は本星にもあるマンションと何ら変わりはなかった。入ってエントランスホールを抜け、すぐ右側の管理人室のような部屋が現局長のフレデリック=エリス他三名のいる一〇一号室だ。ギルがチャイムを押す。

《開いてるよ、勝手に入ってくれるか?》

 男の声がしてギルはセンサ感知した。オートドアが開く。入るとそこは玄関で、男物の靴が何足かあった。どうやら土足禁止らしい。
 と、そこに中から足音もなく灰色っぽい毛玉が現れた。個体名は分からなかったがその生物が猫だということはシドもハイファも知っていた。

「六名プラス一匹の間違いだったみてぇだぜ?」
「そのようですね。何処かでインプット漏れがあったようです。……猫、1と」

 どうやらギルにも猫に関する知識はあったようだ。外に出て行くのを見送って、猫と入れ替わりに三人は靴を脱いで上がり込んだ。そこはダイニングキッチンになっていて、テーブル上にはファイバの大箱が置いてあった。

 何気なくシドが覗くと中にはスナック菓子の袋やカップ麺などが入っていた。ある程度の文化的生活は営めているようだ。

 しかしそこには人影はなく、フレデリック=エリス氏は次の間にいるらしい。廊下の右側はバス・トイレといった雰囲気、残るは目前の壁にひとつきりのドアだ。ギルが開ける。

 オートではないドアが開いた途端、溢れ出てきた空気にハイファは思わず顔をしかめた。それは七分署などでも嗅ぎ慣れたオッサン臭と濃い煙草の煙だった。

 一方シドは聞いたことのある音に室内に顔を突っ込んで覗く。

「すまん、すまん。迎えに行くつもりが半荘ハンチャン終わらんもんでな」
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