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第22話
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荒い呼吸を繰り返しながらシドは意識を取り戻した。だが至近距離で見ているものが厨房の床だというのを思い出すまで、更に数呼吸が必要だった。
そこまで思い出すと急速に思考が回り出した。状況を掴むなり立ち上がり、カウンターの陰から食堂内へとレールガンを向ける。急減圧に因って発生したモヤは晴れていた。
こちらに自動小銃を向けた男にヘッドショットを食らわせる。立って銃を構えているのは五人、更に残り二人も起き上がろうとしていた。
サブマシンガンが軽快な音を立てて発射され、カウンターに伏せながら聴覚も取り戻せたことをシドは知る。伏せたままレールガンを連射モードにして食堂内を薙ぐ。
敵は既に散開している。素早く単発に切り替え、顔を上げると発射速度が速く最も脅威となるサブマシンガンを狙い撃つ。
二人の男に速射でそれぞれ二発を撃ち込んで、カウンター沿いに移動する。すると先程までいた所に何かが重い音を立てて転がった。見るとそれは手投げ弾、反射的に床に躰を投げ出し伏せる。
「ここにこれ以上の穴あけてどうすんだ、バカ野郎!」
襲い来る固体のような圧力に、恐怖をねじ伏せるため喚いた。鋭い金属片が顔の横を掠めて調理台の側面に突き刺さり、ぞっとする。取り敢えず命があることに感謝しつつ跳ね起き、カウンター越しに二射を放つも、体勢が悪く自動小銃を撃ち壊すに留まった。
サイドアームの旧式銃で二人に応射され、二発が胸に着弾。踏み止まれずに腰を調理台に打ち付ける。残りの三人からも自動小銃のフルオートを浴び、屈んでカウンターの陰に隠れざるを得なくなる。
その間に敵が包囲網を狭めてくる気配を感じたが、これだけ撃ちまくられるとどうしようもない。
背後の壁を占める巨大な冷蔵庫に何十もの穴が穿たれ、幾つもの跳弾が降り注いできてここも危険、後退可能なところは……と振り返ると、エンダースが煙草を吸わせてくれた細い通路があった。目で距離を測っているとリモータが震える。
発信パターンでハイファと分かり、素早くオープン通話にした。
《――シド、シド!?》
「ハイファ、俺はちょっと忙しいんだがな」
《良かった、生きてた……いいから聞いて。そこは内側からしか開かないんだよ》
「内側からも開かねぇぞ。圧が掛かってる」
《そっか。でも今から三十秒後に、昨日貴方が煙草を吸った通路に行くから、合図をしたらそっちから開けて。貴方のレールガン、マックスパワーならシャッターにも穴くらい開けられる筈》
「って、お前はどうやってそこまでくるんだよ?」
《右側の食堂の出入り口はギルからコードを聞き出し済み。こっち側は圧が下がってるから、表も『抜け穴』も扉を開けられる》
レールガンだけカウンターの上に出し、応射しながらシドは考える。
「圧がそれだけ下がってるってことは相当酸素が薄い、一呼吸で意識がなくなるぞ」
《分かってる、息止めて走るってば。いいからカウントして。行くよ!》
リモータのタイマーなどセットしている余裕はない、敵に照準させないよう移動しては応射していた。こちらも照準できるほど顔を出せはしない、頭を割られるのはご免である。
「チクショウ、どれだけ弾、持ってやがるんだよ!」
喚いた途端にまた手投げ弾が降ってきた。シドは勢いステンレスの調理台の上を転がって通路の出入り口付近に身を伏せる。背後で炸裂音。調理台の真下で爆発したらしく重い台が一瞬浮いた。
《シド、開けて! 圧が抜けるだけの穴でいいから!》
「分かった、取っ手の反対側に避けてろ!」
レールガンを小さな扉の取っ手に向かって発射する。五百メートルもの有効射程を誇るマックスパワーで放たれたフレシェット弾は一発で取っ手を吹き飛ばし、厚みのあるシャッターにこぶしほどの穴を穿った。
二発、三発と破片が飛び散るのにも構わず撃つ。
強風が巻き起こり急減圧の白いモヤが発生する。それも穴に吸い込まれ、全ての空気が流出していくようにも思われたが、収まる前に通路側からハイファが扉を蹴り飛ばして現れ、それから三、四秒で風が止んだ。
「あー、苦しくて死ぬかと思った……シド、後ろ!」
ハイファは叫ぶなり発砲。シドも振り向きざまに撃っている。男が一人、九ミリパラとフレシェット弾を同時に食らって吹っ飛んだ。
「残り四人、援護しろ!」
「ヤー!」
敵の銃口に向け、ハイファはカウンター越しに銃弾を放つ。その隙にシドはスイングドアから食堂内に身を投げ出し、躰を回転させながら速射で四人を撃った。
優勢とみた敵はカウンター近くまで包囲網を狭めていたため、至近距離でヘッドショットを食らいあっさりと斃れる。
まだ警戒は解かず、シドは腹にダブルタップを食らわせた四人を見て回った。四人ともに意識がないのを確認した上で武器を蹴り飛ばす。ベルトの後ろにいつも着けているリングから犯人捕縛用のタイラップを抜き、後ろ手に縛り上げた。
そうしているうちに厨房からハイファが出てくる。
「もう終わっちゃった? ギルが『八十二パーセント殺られる』みたいに言うから心配しちゃったけど、貴方独りでもことは済んだかもね」
「いや、実際助かったぜ。手投げ弾をまとめて放り込まれたらアウトだった」
「それなら来た甲斐もあったかな。……あっ、ここの酸素もあと七分半しか保たないよ。抜け穴に流れ込んだ分も割り引いたら、もっとリミットは短いかも」
「向こうの食堂に酸素は?」
「……こっち側だけでも足らないくらいだったから」
「じゃあエンダースはどうしたんだよ?」
「一応、僕が引きずって通路には入れたんだけど……」
「って、それじゃあ見殺しってことじゃ――」
そこまで思い出すと急速に思考が回り出した。状況を掴むなり立ち上がり、カウンターの陰から食堂内へとレールガンを向ける。急減圧に因って発生したモヤは晴れていた。
こちらに自動小銃を向けた男にヘッドショットを食らわせる。立って銃を構えているのは五人、更に残り二人も起き上がろうとしていた。
サブマシンガンが軽快な音を立てて発射され、カウンターに伏せながら聴覚も取り戻せたことをシドは知る。伏せたままレールガンを連射モードにして食堂内を薙ぐ。
敵は既に散開している。素早く単発に切り替え、顔を上げると発射速度が速く最も脅威となるサブマシンガンを狙い撃つ。
二人の男に速射でそれぞれ二発を撃ち込んで、カウンター沿いに移動する。すると先程までいた所に何かが重い音を立てて転がった。見るとそれは手投げ弾、反射的に床に躰を投げ出し伏せる。
「ここにこれ以上の穴あけてどうすんだ、バカ野郎!」
襲い来る固体のような圧力に、恐怖をねじ伏せるため喚いた。鋭い金属片が顔の横を掠めて調理台の側面に突き刺さり、ぞっとする。取り敢えず命があることに感謝しつつ跳ね起き、カウンター越しに二射を放つも、体勢が悪く自動小銃を撃ち壊すに留まった。
サイドアームの旧式銃で二人に応射され、二発が胸に着弾。踏み止まれずに腰を調理台に打ち付ける。残りの三人からも自動小銃のフルオートを浴び、屈んでカウンターの陰に隠れざるを得なくなる。
その間に敵が包囲網を狭めてくる気配を感じたが、これだけ撃ちまくられるとどうしようもない。
背後の壁を占める巨大な冷蔵庫に何十もの穴が穿たれ、幾つもの跳弾が降り注いできてここも危険、後退可能なところは……と振り返ると、エンダースが煙草を吸わせてくれた細い通路があった。目で距離を測っているとリモータが震える。
発信パターンでハイファと分かり、素早くオープン通話にした。
《――シド、シド!?》
「ハイファ、俺はちょっと忙しいんだがな」
《良かった、生きてた……いいから聞いて。そこは内側からしか開かないんだよ》
「内側からも開かねぇぞ。圧が掛かってる」
《そっか。でも今から三十秒後に、昨日貴方が煙草を吸った通路に行くから、合図をしたらそっちから開けて。貴方のレールガン、マックスパワーならシャッターにも穴くらい開けられる筈》
「って、お前はどうやってそこまでくるんだよ?」
《右側の食堂の出入り口はギルからコードを聞き出し済み。こっち側は圧が下がってるから、表も『抜け穴』も扉を開けられる》
レールガンだけカウンターの上に出し、応射しながらシドは考える。
「圧がそれだけ下がってるってことは相当酸素が薄い、一呼吸で意識がなくなるぞ」
《分かってる、息止めて走るってば。いいからカウントして。行くよ!》
リモータのタイマーなどセットしている余裕はない、敵に照準させないよう移動しては応射していた。こちらも照準できるほど顔を出せはしない、頭を割られるのはご免である。
「チクショウ、どれだけ弾、持ってやがるんだよ!」
喚いた途端にまた手投げ弾が降ってきた。シドは勢いステンレスの調理台の上を転がって通路の出入り口付近に身を伏せる。背後で炸裂音。調理台の真下で爆発したらしく重い台が一瞬浮いた。
《シド、開けて! 圧が抜けるだけの穴でいいから!》
「分かった、取っ手の反対側に避けてろ!」
レールガンを小さな扉の取っ手に向かって発射する。五百メートルもの有効射程を誇るマックスパワーで放たれたフレシェット弾は一発で取っ手を吹き飛ばし、厚みのあるシャッターにこぶしほどの穴を穿った。
二発、三発と破片が飛び散るのにも構わず撃つ。
強風が巻き起こり急減圧の白いモヤが発生する。それも穴に吸い込まれ、全ての空気が流出していくようにも思われたが、収まる前に通路側からハイファが扉を蹴り飛ばして現れ、それから三、四秒で風が止んだ。
「あー、苦しくて死ぬかと思った……シド、後ろ!」
ハイファは叫ぶなり発砲。シドも振り向きざまに撃っている。男が一人、九ミリパラとフレシェット弾を同時に食らって吹っ飛んだ。
「残り四人、援護しろ!」
「ヤー!」
敵の銃口に向け、ハイファはカウンター越しに銃弾を放つ。その隙にシドはスイングドアから食堂内に身を投げ出し、躰を回転させながら速射で四人を撃った。
優勢とみた敵はカウンター近くまで包囲網を狭めていたため、至近距離でヘッドショットを食らいあっさりと斃れる。
まだ警戒は解かず、シドは腹にダブルタップを食らわせた四人を見て回った。四人ともに意識がないのを確認した上で武器を蹴り飛ばす。ベルトの後ろにいつも着けているリングから犯人捕縛用のタイラップを抜き、後ろ手に縛り上げた。
そうしているうちに厨房からハイファが出てくる。
「もう終わっちゃった? ギルが『八十二パーセント殺られる』みたいに言うから心配しちゃったけど、貴方独りでもことは済んだかもね」
「いや、実際助かったぜ。手投げ弾をまとめて放り込まれたらアウトだった」
「それなら来た甲斐もあったかな。……あっ、ここの酸素もあと七分半しか保たないよ。抜け穴に流れ込んだ分も割り引いたら、もっとリミットは短いかも」
「向こうの食堂に酸素は?」
「……こっち側だけでも足らないくらいだったから」
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