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第19話
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「そうですか。で、柏仁会が雇ったスナイパーの情報でも手に入ったんですか?」
「お前は相変わらず勘がいいな。これだ……ゲホゲホ」
桜木は咳き込みつつコピー紙にプリントした男の画像をロウテーブルに投げた。
「ジョーイ=逆井、三十二歳の日系人だ。グアム出身で海外のライフル大会に出れば必ず六位以上に入賞している男でな、十代前半からショットガンを始めて十八でライフルに持ち替えた。厄介な見た目をしているだろう?」
「はあ、黒髪で日系……これは日本人って言っても通りますね。それで?」
「得意とするのは7.62ミリ。だがコンディションを整えた大会ではなく、ガチの狙撃に強いかどうかは分からん。だがそうなると、ターゲットより周りが危ないかも知れん」
煙草を咥えオイルライターで火を点けながら京哉は頷いて更に訊いた。
「サンドウィッチに穴を開けてましたからね。脅しなら大した腕だし、殺人依頼なら本当に危ないかも。他には何かありますか?」
「そうだな。柏仁会の動きが派手な以外、国内では特にないが……ゴホッ、リンドル王国で病床に就いた第二皇子が奇跡の復活を遂げた、などとまことしやかに噂されている」
「それ、本当なんですか?」
「まさか。第二皇子には気の毒だが現代医学でも治らん難病だ。それでも必要な人間にとっては、あと一、二年でも持ってくれれば万々歳、その間に自分の椅子の座り心地を整えておくだけ、却って長く担がずに済む軽い玉ということだ」
「担いでいるのは誰なんです?」
「山ほど候補がいすぎて俺にも分からんよ。絶対王政のあの国では大臣も貴族院議員も懸案を奏上するだけ、何もかも王が決定するんだ。無視されてトサカに来てる奴は数え切れんからな。だが、だからといって愚王じゃない、上手く采配を振っている。お蔭で正面切って文句も垂れられん訳だ……ゲホッ」
頷きながら黙って聞いていた霧島が、そこで桜木に訊く。
「皇太子のオルファス=ライド四世の人気はどうなんだ?」
「第四皇子は皇太子として芽が出るのも遅かった。兄が死んだり何だりの理由で十五歳まで待たされた訳だからな。けど現王に似て磊落な性格だ。ダークホースとして筋がいいという評判が庶民の中にはあっという間に広まって結構な人気ぶりだな」
「庶民の中では、ということか」
「その通りだ……ハックション!」
「なるほど。現王は幾つになる?」
「もう七十を越えた。長命と短命が極端な王家で長命タイプだが、いつ引退宣言して息子に玉座を譲ってもおかしくない。実際に今回のオルファス=ライド四世の訪日は皇太子として最後の外遊だと見られている……ずびび」
「そうか。有意義な情報を感謝する。それと風邪は養生してくれ」
「ああ。炙り出し作戦もいいが気を付けてくれ……ゲホゲホ」
咳き込みながら冷めた紅茶を飲み干した桜木は去ろうとして思い出したように足を留め、振り向いて京哉たちの方に手をピストルのようにして撃つ真似をした。
「柏仁会が昨日ぶちかましたサブマシンガンはMP5で、ロケット砲はRPG7だと見られる。旧西側と東側の代表的火器だが柏仁会はあんたらに片端からシノギを潰されて、今現在は海外マフィアとも殆ど縁が切れている状態だ。そしてリンドル王国は平和なもので内戦もやってない」
「どういうことだ、何が言いたい?」
「それでも現皇太子オルファスのSP三名が本国で狙撃され、日本国内で武器弾薬をバラ撒き放題なんだ。さて、ここから先は俺の予想でしかない。あんたらも推測してくれ……ゲホゴホ」
そう言って少々ヨレた桜木は出て行ってしまう。京哉と霧島は顔を見合わせた。
「オルファスは知っているんでしょうか、敵が武器弾薬を自由に使える立場なのを」
「さあな。下は軍の武器庫係から上は防衛大臣まで、候補は数え切れんだろう」
「だからこそ炙り出して敵を見極めようとしているのかも知れませんね」
「自分のSPを羽田に待機させ、私たちにSPをさせたのも、わざとかも知れん」
「柏仁会が僕らを調べ上げているのは当然のこと、それを逆に利用したとか?」
「昨夜の襲撃も私たちの住処を知った上でのことだろう?」
「うーん、ずっと僕らが見張られてて、そこにオルファスが飛び込んだ?」
霧島は頷いたが二人して見張られ気付かなかったとは思いたくない京哉だった。
煙草を消して紅茶を飲んでしまうと一旦部屋に戻る。既にドレスシャツとスラックスは身に着けていた。銃を吊り手錠ホルダーと特殊警棒やスペアマガジンパウチ付きの帯革を締め、タイも締めてジャケットを羽織った。
さすがに外歩きは寒そうなので二人は黒いチェスターコートを手にする。
準備ができたところでチャイムが鳴った。
「お前は相変わらず勘がいいな。これだ……ゲホゲホ」
桜木は咳き込みつつコピー紙にプリントした男の画像をロウテーブルに投げた。
「ジョーイ=逆井、三十二歳の日系人だ。グアム出身で海外のライフル大会に出れば必ず六位以上に入賞している男でな、十代前半からショットガンを始めて十八でライフルに持ち替えた。厄介な見た目をしているだろう?」
「はあ、黒髪で日系……これは日本人って言っても通りますね。それで?」
「得意とするのは7.62ミリ。だがコンディションを整えた大会ではなく、ガチの狙撃に強いかどうかは分からん。だがそうなると、ターゲットより周りが危ないかも知れん」
煙草を咥えオイルライターで火を点けながら京哉は頷いて更に訊いた。
「サンドウィッチに穴を開けてましたからね。脅しなら大した腕だし、殺人依頼なら本当に危ないかも。他には何かありますか?」
「そうだな。柏仁会の動きが派手な以外、国内では特にないが……ゴホッ、リンドル王国で病床に就いた第二皇子が奇跡の復活を遂げた、などとまことしやかに噂されている」
「それ、本当なんですか?」
「まさか。第二皇子には気の毒だが現代医学でも治らん難病だ。それでも必要な人間にとっては、あと一、二年でも持ってくれれば万々歳、その間に自分の椅子の座り心地を整えておくだけ、却って長く担がずに済む軽い玉ということだ」
「担いでいるのは誰なんです?」
「山ほど候補がいすぎて俺にも分からんよ。絶対王政のあの国では大臣も貴族院議員も懸案を奏上するだけ、何もかも王が決定するんだ。無視されてトサカに来てる奴は数え切れんからな。だが、だからといって愚王じゃない、上手く采配を振っている。お蔭で正面切って文句も垂れられん訳だ……ゲホッ」
頷きながら黙って聞いていた霧島が、そこで桜木に訊く。
「皇太子のオルファス=ライド四世の人気はどうなんだ?」
「第四皇子は皇太子として芽が出るのも遅かった。兄が死んだり何だりの理由で十五歳まで待たされた訳だからな。けど現王に似て磊落な性格だ。ダークホースとして筋がいいという評判が庶民の中にはあっという間に広まって結構な人気ぶりだな」
「庶民の中では、ということか」
「その通りだ……ハックション!」
「なるほど。現王は幾つになる?」
「もう七十を越えた。長命と短命が極端な王家で長命タイプだが、いつ引退宣言して息子に玉座を譲ってもおかしくない。実際に今回のオルファス=ライド四世の訪日は皇太子として最後の外遊だと見られている……ずびび」
「そうか。有意義な情報を感謝する。それと風邪は養生してくれ」
「ああ。炙り出し作戦もいいが気を付けてくれ……ゲホゲホ」
咳き込みながら冷めた紅茶を飲み干した桜木は去ろうとして思い出したように足を留め、振り向いて京哉たちの方に手をピストルのようにして撃つ真似をした。
「柏仁会が昨日ぶちかましたサブマシンガンはMP5で、ロケット砲はRPG7だと見られる。旧西側と東側の代表的火器だが柏仁会はあんたらに片端からシノギを潰されて、今現在は海外マフィアとも殆ど縁が切れている状態だ。そしてリンドル王国は平和なもので内戦もやってない」
「どういうことだ、何が言いたい?」
「それでも現皇太子オルファスのSP三名が本国で狙撃され、日本国内で武器弾薬をバラ撒き放題なんだ。さて、ここから先は俺の予想でしかない。あんたらも推測してくれ……ゲホゴホ」
そう言って少々ヨレた桜木は出て行ってしまう。京哉と霧島は顔を見合わせた。
「オルファスは知っているんでしょうか、敵が武器弾薬を自由に使える立場なのを」
「さあな。下は軍の武器庫係から上は防衛大臣まで、候補は数え切れんだろう」
「だからこそ炙り出して敵を見極めようとしているのかも知れませんね」
「自分のSPを羽田に待機させ、私たちにSPをさせたのも、わざとかも知れん」
「柏仁会が僕らを調べ上げているのは当然のこと、それを逆に利用したとか?」
「昨夜の襲撃も私たちの住処を知った上でのことだろう?」
「うーん、ずっと僕らが見張られてて、そこにオルファスが飛び込んだ?」
霧島は頷いたが二人して見張られ気付かなかったとは思いたくない京哉だった。
煙草を消して紅茶を飲んでしまうと一旦部屋に戻る。既にドレスシャツとスラックスは身に着けていた。銃を吊り手錠ホルダーと特殊警棒やスペアマガジンパウチ付きの帯革を締め、タイも締めてジャケットを羽織った。
さすがに外歩きは寒そうなので二人は黒いチェスターコートを手にする。
準備ができたところでチャイムが鳴った。
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