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第35話

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 侵入してきた舌を思わず噛み切りそうになって思い留まった。その間にも膝を割られてガウンの裾から内腿を撫で上げられる。下着の上から躰の中心を揉みしだかれて声を上げそうになるも、口は塞がれて呻くことしかできない。

「ん、んんっ……んんぅ……っん、はあっ!」

 執拗なまでのキスから解放されるとガウンの紐を解かれて肌を晒された。下着も引き下ろされ足を抜かせられる。夜目にも白く浮かび上がるような肌をすっかり露わにされた。
 至る処をリチャードはさも愛しげに撫で、指を這わせては濃厚に舌で舐めねぶり始める。

「ハイファス、きみは何て美しいんだ……ひとめで忘れられなくなったよ」
「うっ……あっ、ふ――」

 だが首筋に唇を押し当てられ、吸い上げられて痛みが走ると同時に、ハイファは自身の躰の変調を知った。覚悟をしていた筈なのに冷たい汗が滲みだして流れ、眩暈を感じ始めたのだ。身をこわばらせ、こみ上げるものを飲み込んで耐えようとするも、理性で躰を制御できたのはリチャードの指先が後ろの色づきに触れるまでだった。

 シドしか受け付けない躰が勝手に暴れ出す。思い切り手足を振り回した。

「やっ、いやあ……やめ、ああんっ!」
「ここまできて抵抗するとは心外だね、大人しくしたまえ」
「やだっ……離れ、やめて……そこは……うっ!」

 手慣れた風に暴れる身を押さえつけられガウンの紐で両手首を前で縛められる。それでも自由になる脚で何度かリチャードを蹴り飛ばした。
 だが頭がぼうっとするほど暴れに暴れたハイファは、いつしか疲れ果てて動きも緩慢となった。それを待っていたかのように、後ろの窄まりに中指を第一関節まで挿入される。

「やだ、いや、あ……やめ、あうんっ!」
「もう少し、力を抜きたまえ。そんなに暴れると怪我をするよ」

 優しげなリチャードの口調が酷く気持ち悪かった。それよりも気持ち悪いのが体内に僅かながら侵入した指先だ。更にリチャードは潜り込ませようとするが、それ以上は思い切り締まってハイファの躰が受け付けない。ハイファ自身、自分の躰をコントロールできなかった。
 無意識に入ったままの力がどうしても抜けない。

「これでは傷つけてしまうよ。無体なことはしたくない」
「あっ、う……傷つけていい、から――」

 覚悟を見せるようにハイファは縛められた両手を自分の頭上に上げた。 
 自分がどうなろうとシドを明日には取り戻す。その思いだけでハイファは侵入してくる指がもたらす痛みと不快感に耐える。また暴れ出しそうになる躰を必死で抑えつけ、冷たい汗を流しながら、指一本で体内を嬲られる自分を他人事のように感じていた。

 しかしどうしても二本目の指が挿入できずにリチャードは困った顔をしてハイファの白い頬を撫でる。そしてアンバーの目が哀れむようにハイファを見た。

「仕方ない。このまま想いを遂げさせて貰うしかないね」

 ハイファは黙ったまま小さく頷く。衣服を脱ぎ晒したリチャードのものは薄暗い中でもハッキリと分かるくらいに太く滾っていて、このままだと粘膜を引き裂かれるのは必至だと思われた。それでもハイファは怖じずに膝を立てた細い脚を自ら開く。

 当然ながらハイファのものは萎えたままだ。脚の間に割って入ったリチャードは再びハイファを柔らかく揉みしだいたが、何の変化も起こらなかった。
 気を削がれたように手を離してハイファの脚を更に押し広げる。

「傷つけたくなどないが……まるでまっさらな躰のようだね。このままでは明日は歩けないかも知れないよ、それでもいいのかい?」
「いい、から……必ず明日、『政治的解決』を約束して……シドを、解放して」
「ここで他の男の名など、無粋なことだ」

「シドを、解放して……お願い――」
「分かった、約束しよう。だから今はもうその名を呼ぶんじゃない」

 酷い眩暈に酔って吐き気に耐えながらも安堵したハイファは、僅かに身のこわばりが融けるのを感じる。たった一本の指を挿入しただけで馴らすこともできなかった固い蕾を意志の力で何とか緩める。それを目にしてリチャードが片頬に笑みを浮かべた。

「入れるよ、いいね。これは合意の上だよ」
「分かってる、けど……あっ、あっ……はうっ!」

 ぬるついたものがあてがわれ、ほぐされてもいない狭い窄まりに強引にねじ込まれる、その寸前になってハイファは突き上がる吐き気に襲われ、またも身を硬直させていた。硬く締まったハイファをリチャードは貫こうとするも、互いの身に走った痛みを堪えきれない。

 シドを助けたいのに躰はコントロール不能、ハイファは焦りと苦しさで涙を滲ませる。

「ハイファス。私を拒否すれば、きみの愛し人は帰ってこないんだよ」
「あっ、ふ……ゲホッ、ゲホゴホッ!」

 もう本当にハイファは限界、激しい嘔吐感にリチャードを突き飛ばしていた。ベッドから滑り降りてトイレに駆け込む。こみ上げる吐き気に耐えられず、身を折って何度も吐き戻した。吐くべきものもなく涙を流し、喉を振り絞って苦い胃液を吐き続ける。

 さすがにこれには驚いたか、リチャードが慌てて追ってきて、両手を縛めたままのハイファの背をさすってくれた。その手の感触にすら吐き気を催し、意識が朦朧とするほどの苦しみに身を捩らせる。そこでとうとうリチャードが縛めを解いた。

 やがて眩暈と吐き気がやや治まったハイファは這うようにしてベッドに戻り倒れ込む。だが手にする寸前にテミスコピーはリチャードに奪われた。
 しかし枕の下からシドのレールガンを取り出してリチャードに向ける。互いに銃口を鼻先に突き付け合って数秒、ハイファは本気でトリガを引いてしまう前に口を開いた。

「出て行って貰えますか?」
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