上 下
24 / 45

第23話

しおりを挟む
 普段はガンヲタの一面も見せるハイファだったが、今回は多数のコレクションに見とれることもなく真剣に選んだ。

「これだけのタイプに合わせた弾薬って、もの凄い種類になるよ?」

 狩猟用ではなく、慣れた軍用の狙撃銃を手に取ったハイファはシドに囁く。
 レーザーではなく旧式銃を使用する場合、銃弾は口径さえ合えばいいというものではなく、その銃に見合った長さや重さ、火薬量などで弾薬を使い分けねばならない。

「それだけ旨い商売してるってことだろうな。で、そいつでいいのか?」
「うん。撃つ以上は自分で整備し直したいけど、そこまではさせて貰えそうにないから、なるべく部品点数が少なくて故障の少ないボルトアクション。ウェスタハリヤー社製グランレットM150……と言いたいけど、そのコピー品だよ。これのオリジナルは前に使ったことあるし、スペアマガジンも一個あったし」
「また重そうな得物だな」

 言われてハイファは掴んだ狙撃銃を上下して見せる。

「七キロくらいかな。軽いと当たりにくいし、僕は体重が軽いから余計に衝撃を吸収して欲しいし。それにスコープ付きで銃口も薬室チャンバも比較的綺麗だし、ボルトの動きもスムーズだし。最大一キロ半で精密射撃なら最低でもこれくらいの口径じゃないとね。シドは?」
「俺はこれと、これだ」

 左手にレーザー測量器付き双目鏡、右手は自前の巨大レールガンを叩いて見せた。

「そいつの弾は見つけたか?」
「ううん、まだだけど。338ラプアマグナム、ボックスマガジンに四発」
「チャンバ込みで五発、コピー」

「何だかまた、そういう任務みたいだね」
「実際、任務の一環じゃねぇのか? いや、俺がそう思いたいだけか」
「嫌な思いさせて、ごめん」
「何でお前が謝るんだ、俺はお前の傍が好きで一緒にいるんだぞ。ほら、弾だぞ」

 言われて向かった部屋の隅には木箱が幾重にも積んであり、四人の客はマフィアの手下からレクチャを受けつつ、渡された弾薬を空箱に入れていた。

 その脇で手下らの不審を買わぬ程度に話を聴きながらハイファは自分で弾薬を手に取ると、一発一発を確かめてから空箱に入れる。試射を含めてもこれ以上はないだろうと三十発を数えて入れた。
 他の客らは箱の底が見えないほど、ずっしりと弾薬を貰って嬉しげだ。

 めいめいが選んだ銃を持って階下に降りた。自然と一人の客に二人のマフィアが付き従う形になり、手下が弾薬箱を運んでやったりしている。
 ハイファの弾薬箱はシドが双目鏡を放り込んで持ち、その様子を見てドン・レスターが蛇の笑いを寄越した。慣れていることをすっかり見抜かれたらしいが、今はそれは問題ではない。

 階下の何もない部屋で客らがそれぞれに銃の扱いを手下らに教わる。

 その間も有難いことに放っておかれたハイファは可能な限りの銃の可動部の点検をし、短いマガジンに四発の弾を込め、ボルトを引いてチャンバに一発装填ロードする。マガジンを抜いて減った一発をリロード、マガジン内の弾薬後端が揃うよう銃床に軽く数度ぶつけた。
 ファイヤリング・ピン、いわゆる撃針が確実に雷管プライマを叩くよう、ちょっとしたコツだ。

 同様にスペアマガジンにも四発満タンに詰め込んでおく。ハイファがそれなりに納得する頃には、インスタント教官のレクチャも終わっていた。

 外に出る。中型BELの陰から出てみても幸い風は殆ど感じなかった。山に囲まれた午前の空気はやや冷たく湿度があり、火薬の燃焼効率にどのくらい影響するかをハイファは経験から探る。今回リモータに弾道計算アプリは入れてきていない。

 狙撃はただスコープのレティクルの十字に的を合わせてトリガを引けば当たるというものではない。風向や風速に気温、湿度に気圧。超長距離になれば緯度や経度、惑星に働くコリオリの力までもを計算し、回転しながら弧を描いて飛ぶ弾丸を制御しなければならないのだ。

 そういった綿密な計算が狙撃の成功のカギを握る。

 そこまで計算するのは当たり前、あとはどの距離ならばどうスコープを調節するのか、通常ならば何十発何百発も実際に撃って確かめ躰でも覚え込む。
 そして最終的にものをいうのはやはりスナイパーの腕とセンスなのだ。 
 
 今回は全面的に己の経験と勘任せ、だが『狩り』も後半になればこんな銃も不要だろうと他の客たちの手にしたサブマシンガンやアサルトライフルを眺めて想像する。

 徐々に勘を研ぎ澄まし、一方で心を落ち着かせながらも早く終われと思う。
 こんな銃を手にする時間なんか、一刻も早く終わってしまえとハイファは願う。

 このような銃を使うとき、いつも音が遠くなる。

 外界と自分とを自動的に隔て、殺すことだけに神経を研ぎ澄ますハイファス=ファサルートがハイファは嫌いだった。いや、嫌いになったのだ。こんな自分を見せたくない者を得て。

 そう、本当ならこんな自分の傍にいて何もかもを見られるのは嫌なのだ。冷酷で標的にも心があることを無視し、無理矢理その生を叩き折る自分を。

 それでも何処までも一緒にいてくれて、決してそんな自分を否定しないでくれる男は、『一緒に撃っている』とまで言ってくれた。この深い罪を共に背負うと――。

「お前ハイファ、何て顔してんだよ」
「これが地顔なんです」
「俺の知ってるお前はそんな顔、してないぜ」
「ぅう、はにふんのは……シドっ!」

 指で口の両端を引っ張られ、重い銃を取り落としそうになってハイファは喚く。
 シドは足元に置いた箱を持ち直して笑っていた。
 あまりに朗らかで眩しい笑顔に、こんなときによくも笑えるものだと瞬間沸騰しかけたハイファだったが、ふと笑みを消したバディが呟くのを聴いて鳥肌を立てた。

「お前も俺をとめるなよ」

 ゆっくりと響いたそのひとことは低く本気の怒りを溜めていて、人怖じなど滅多にしないハイファの背筋に冷たいものを走らせていた。改めて周囲を観察する。
 客一人にマフィア二人の原則は狩りの間も続行するらしく、弾薬箱を持つ係と客が選びかねたのかスペアの銃を担ぐ係が同行するようだ。

 銃が最低でも八丁。元よりマフィアが丸腰とは限らない。
 この状況でシドが無茶をすることはないだろうと推測、いや、祈るように願った。

 危険なのは発射速度の速いサブマシンガン、それが三丁……と見ているうちに、旧式の自動小銃をスリングで担いだユリアン=レスターが皆の前に進み出た。

「大変お待たせしました。狩りのルールをご説明します。ZOO内の獲物には五分間くれてやって下さい。合図をしたら始まりです。時間は二時間。獲物を追い詰めるスリルを堪能し内なる原始の本能に従って、血の沸き立つ時間をお好きにお過ごし下さい。では」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。 「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」 「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」 「・・・?は、はい」 いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・ その夜。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...