C-PTSD~Barter.3~

志賀雅基

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第34話

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 暫く京哉は足腰が立たず、ようやく自力で歩けるようになったのはあれから二日目の午後だった。

 ずっと城山は姿を見せず、監視に訊くと都内のアガサ商事本社に出勤しているという。日参するには遠いので都内のマンションで寝起きしているらしい。

 それで霧島は城山の言った携帯履歴のエンジニア云々はブラフだと判断した。もうこの辺りが潮時とも断じてゲストルームに篭ると一ノ瀬本部長にコールする。

《だが霧島くん、全てはきみの推測にすぎん。きみと鳴海くんを拉致監禁したかどでガサ入れもいいが、クスリに関する確かな証拠を掴んでから攻め入るのがベストだ》
「ですが本部長、現在も自分と鳴海は海棠組の監視下で軟禁状態、いつ海に放り込まれるか知れません。誰が何と言おうとその前に離脱します。いいですね?」
《う……む、仕方なかろうがクスリの情報は惜しいな。まあいい。では無事の帰還を待っている。きみたちは貴重な人材だ。ちゃんと二人で帰ってきてくれたまえよ》
「了解しました。必ず帰還します」

 黙って聞いていた京哉は不満と心許なさが半々の表情をして霧島を見上げた。

「僕らに県警のバックアップは就かないって意味ですよね?」
「まあ、そうだな。しかし離脱する方法は幾らでもある。大丈夫だ、心配ない」

 来るべき時のために二人はしっかり栄養を摂りダラダラと躰を甘やかして昼間を過ごす。二人は話し合って動くなら今晩と決めていた。
 もはや城山がリストを見せる気などないのは明らかで、これ以上ここで得られるものは互いに何もない。

 時間を見計らい食堂に出向く。メインディッシュが牛フィレ肉ステーキ・カシスソース添えの夕食を大変美味しく頂いてしまうと二人は部屋に戻って仮眠を取り、二十三時に起き出した。着替えて銃を吊り手錠ホルダーと特殊警棒付き帯革を巻く。

 監視役を警戒させたくないのでショルダーバッグは置いていくことにした。

「行けるか、京哉?」
「はい。忍さん」

 ゲストルームから出ると時間も時間で監視役の二人は怪訝な顔をした。その二人は溺れた男と相棒で京哉は僅かにホッとする。赤井と石川には煙草二箱の恩があるからだ。
 とにかく見張りを交代したばかりの監視役は不審そうだったが、霧島に借りがあるからか何も訊いてはこない。こちらも無用な言い訳などせず無言で通す。 

 京哉と霧島はエレベーターで一階に降り裏口から外に出た。夜の海辺を散歩するように見せかけて生け垣の切れ目にあるコンクリートの階段上で足を止める。屋敷の窓明かりの中で文句も言わずについてくる監視役二人が追い付くのを待った。

「っと、失敬」

 霧島が一人の腹にこぶしを叩き込んだ。事態を把握される前に残る男のみぞおちに膝蹴りを入れる。京哉がシーツを裂いた紐を衣服の下から出した。霧島が手早く二人に猿ぐつわをし後ろ手にきつく縛り上げる。足も同様に縛めると生け垣の中に二人を引きずり込んだ。
 屋敷内から見えないのを確認して二人は頷き合う。

 月明かりに照らされたコンクリートの階段を降り、砂浜を足早に桟橋に向かった。

「このままクルーザーでサヨウナラですね」
「赤井たちのシフトは一時からだ。出航すれば屋敷の誰もが気付く可能性はあるが」
「逃げきれますかね?」
「逃げきれるかではなく逃げるんだ。だが……少々拙いかも知れん。あれを見ろ」

 示されて京哉が目を上げると大きなクルーザーに今まさに明かりが灯ったところだった。抜群の視力で船内に人が複数いるのが分かる。
 思わぬアンラッキィだ。

「どうするんですか?」
「こちらは夜の散歩だ。近づける所まで近づいて様子を見よう」

 身を隠せる場所もなく二人は堂々と砂浜を横切り護岸に上って桟橋に辿り着いた。二人が奪取する予定だったのは足の速いプレジャーボートだが、この状況で逃げ出すのもリスキーである。しかし監視役をああしてしまった以上、もう退けない。

「さて、どうするかだ」
「忍さん、クルーザーの中に海棠組組長の富樫がいます!」
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