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第43話

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 同じく郊外でも真王組本家は白藤市の市街地を挟んだ対岸にあった。
 直参の会合とやらまで時間が押しているようだったが、厚川は焦りの欠片も見せず黒塗りの中で悠長に葉巻を吸っていた。
 それもその筈でこのフルスモーク張りの黒塗りを見れば大概の車が道を譲ってくれる。
 故にドライバーが割り出す到着予定時刻より、いつも早く到着するらしかった。

 混み合う市街地を避けて二台連なった黒塗りはバイパスに乗り、約四十分で街道に降りる。やがて二台は森のような深い生け垣に囲まれた石畳の小径を走り始めた。もうここは真王組本家の敷地内だと霧島と京哉は気付いている。

 青銅の柵状門をくぐると屋敷が見えてきた。意外にも日本家屋ではなく茶色いレンガの外装を持った洋風の造りである。四階建ての巨大な代物だ。
 綺麗に芝生の刈られた庭には温室も何棟かあり、中では薔薇か何かが咲き誇っている。車寄せ付きの玄関前はロータリーになっていて、それをぐるりと半周すると黒塗り二台は停車した。

 無造作にドアを開けて霧島は降車した。反対側から降りた京哉と共に厚川とそのガードたちの最後尾につく。あとから何台もの黒塗り外車がやってくるのを目にした。どれも高級車ばかりでグレードも最高ランクだ。

 それらと巨大な洋館を眺め比べて霧島が京哉に囁く。

「ここまでヤクザは儲かるのか。暴対法と暴排条例はどうなっているんだ?」
「さあ、それは箱崎課長に訊かないと。でも音に聞こえた黒深会から直接声を掛けられるほどですしね。幾らベースになるルートを持ってても」

 京哉と囁き合っていると、ここでも至る所に立っている張り番のチンピラたちに頭を下げられる。他のガードに倣ってチンピラたちを半ば無視し、玄関の大きな観音扉が開けられるのを待った。まもなく扉の片側が開けられ、総勢七名で玄関ホールに足を踏み入れる。

 玄関ホールはダンスのレッスンができそうなくらい広かった。

 玄関ホールは二階まで吹き抜けで天井からは精緻な細工のシャンデリアが虹色の光を投げている。大した造りだが警備上ここも靴は脱がなくてもいいシステムらしく、勝手知ったる風に厚川とガードの一団は目前にある大階段を上がってゆく。二人も続いた。
 
 二階の廊下を右に曲がると三枚目の観音扉の前にガードがたむろしていた。
 おそらくこの部屋に真王組組長の立川拓真がいるのだろう。

 だがすぐに御対面とは行かなかった。まずは直参会合優先らしく扉の中には厚川だけが入って行く。残ったガードたちは散って行ってしまった。前置きもなく放ったらかされて二人は顔を見合わせ、慌ててガードの一人を捕まえ訊いてみる。

「おい、私たちはどうすればいいんだ?」
「どうって、用があれば携帯で呼ばれるからな」

 そこでガードとメアドを交換し、何かあれば自分たちも呼んで貰えるように言づけた。少々迷惑そうな顔をしたガードを見送り、霧島と京哉は早速一階に降りてエントランスから出ると屋敷の裏手に回る。
 本当は屋内の探索に着手したかったのだが、あちこちに手下が張り番をしていて、言い訳も面倒臭そうなので遠慮したのだ。

 裏手は隣の住宅地と隔てる高い塀があるだけで見物はなかった。ヒマ潰しを探して表に回ると三棟あった温室を片端から眺めることにする。
 どの温室も見事な薔薇が咲き揃っていて、かなり見応えがあった。特に綺麗だったのは一番玄関に近い温室の薔薇だ。

 深紅で大輪の剣弁高芯咲きは甘い香気を濃厚に漂わせている。

 そこで何気なく見上げてきた京哉に霧島は唇を寄せた。腕に抱き込んだ年下の恋人の口内に舌を差し入れ絡め合う。送り込まれる唾液を飲み干し、京哉の柔らかな舌を痛みが走るくらい吸い上げてやった。京哉は堪らなくなったように喉の奥で鳴く。

「んんぅ……っん、はあっ。御坂さん、すみません」
「どうした、何を謝る?」
「だってこんな危険に僕の一言で飛び込ませてしまって」
「何れは命令で飛び込んでいた任務だ。お前のせいではないから気にするな」
「でも、忍さ……御坂さん。本当は僕……」
「もういい、お前のせいではないと言っている。私がお前と一緒にいたかったんだ」

 言い募り言葉を詰まらせた京哉に霧島はさらりと言って温室の奥に向かった。

 ごく自然に京哉と片手を繋いだまま蔓薔薇のアーチをくぐる。すると奥には四阿あずまやがあってテーブルとチェアが置かれ、そこに誰かが腰掛けているのに気付いた。
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